気楽の観測者たち
リナを助けるのは、私だけ。
リナが指名手配されたから僅か一ヶ月、もう誰も彼女を覚えていない。
だから、私がなんどがしなきゃ。
「ココナ、何考えてるの」
「・・・別になにも」
学校の廊下はいつも通り、どても賑やかで、騒がしい。よくそれほどの話題を思いつくのね、と友達のマリエが小さく呟いた。
「みんな、ココナのように無愛想なら学校も静かになるかしら」
「くだらない妄想なら自分の席にしなさい」
「ほんとう無愛想ね、カタリナが抜け出す前より厳しいじゃない」
「うるさいな、近づかないでくれる?」
リナが町を抜け出した。
私から離れた。
それが堪らなくで、もう他人と関わり合い気力はない。
・・・ひどいな、リナ、私を置き去りして。
「ココナ、貴女もそろそろ実家に戻ったら?母さんたちがうるさいのよ、貴女がいないと仕事が進めないで」
「知らん」
「知らんで、貴女も貴族なんだから、ちょっと言葉遣いに気をつけなさいよ」
「元貴族なんだから、もう意味ないでしょう」
「そんな自己除名、当主様は認めないよ」
それも知らん、どうせココナ・デ・アーロンはアーロンの恥、当主様がなにを言っても、誰も気にしないだろう。
「そこまで言い切るココナもすごいな、わたしは当主様と話し合ったことないけど、なんとなくその人の怖さを分かってるよ」
「怖さ?あの人は趣味が悪いけど、そんな大物ではないよ」
「そうかな、ああ、ココナには分からないが、何が似たような匂いがする」
見るだけで機嫌が悪くなるその金ぴかの髪を弄りながら、失礼な言葉を投げてくる我が友マリエ。
気が晴れるまで彼女の頬を抓ってみようがと考えるうち、チャイムが鳴り始め、大事な休み時間が終わってしまったのだ。最悪の気分になったので、昼休みまではサボることにした。
泥でも掛けてるようにゆっくりと、時計の針が一進一退のペースで廻っている、ああ、騒がしい、実に騒がしい。みんなお嬢様ならもっとこう、お嬢様らしく振舞えばどうですが?せめてチャイムが鳴る後、その薔薇咲く咲き乱れる女子トークを少し抑えてくれませんが?
ああ、リナ、置き去りなんて、本当にひどい。
ひどいよ、リナ。
<> <> <>
マリエ・デ・アーロンは悩んでいる。
学校ではいつも三人ですから、ほかに親密な友人はいません。友達の数危なくない?と何度も家族に心配されたけど、友達は量より質!と言い返したら、暖かい目に見られた、別におかしいことは言ってないじゃん。
でもカタリナの家が潰れたから、ココナは人が変わったように冷たくなった、私の親愛なる友人が二人も減った!三人の輪から二人抜け出すでも、ちゃんと輪になっているのね?
ぼっちじゃないわ!一緒にお昼飯を食べる人がいなくでも、ぼっちじゃないわ!そう、端くれでもアーロンの一族、ぼっちになることは絶対にありえないわ!
「・・・何一人盛り上がってるのよ、私」
冷静になって見直したら、さっき自分の考えは完全ボッチそのものじゃないが。気力が一気に失えたので、思考を放棄し、ソファに座り込むことにした。
すると、門の方から声がした。
「姉上、ここは立ち入り禁止よ」
「げ、ロディアが」
「げ、じゃない、これ以上校則を破ったら退学しますと、何度も言っただろう?」
「あははは・・・今度は見逃してくれないが?お姉ちゃんは今、すっごくへこんでるの、教室に居るのがとっても辛くなの。ここから追い出されたら昼飯を食べる場所がないの、お願い、ね?」
「知らない。もう一度だけ言う、生徒会室から離れてください、そしてもう入れないでください。」
「そんなに厳しくいわなくでも・・・っ!」
反論しようとしたマリエ、でも少女を見た瞬間、息が締められている感覚が続きの言葉を阻止した。
赤髪の少女、ロディアが生徒会室の門を閉めた、鍵の声がしたような、しなかったような、確かめたいと思ったら、その柔らかい真っ白な指は撫でるように、銀色のドアノブから流れ落ちた。彼女の歩みはまるで質量がない、音のひとつもしない、進むたび躓くような体勢になり、弱々しい息の声が部屋の空気を沈み込む、そして赤い髪の毛に絡まれ、ひとつの紅い影になって行く。
「・・・なに?」
その緋色の瞳がより一層致命的な雰囲気を漂っている、マリエの思考能力を奪って、嬲っている。
「・・・なんですが、姉上」
絡まり、混ぜあう、糸を纏まる的なイメージ、目を曇り、心を翳す、熱く熱く入り込む・・・
「姉上!!」
「え、あ、はい!あ、あれ、私、」
飲み込まれる前に、緋色の魔法が解けた、何度瞬くでも、目の前にいるのはただ赤髪の少女だけ。
「急に黙り込んでじーと見つめて、わたくしの顔になにが付いているのが?」
「い、いえ、付いてないです、なんでいうが、見惚れたとか・・・」
「へ―、見惚れたが、姉上もときどき乙女っぽいことを言うのね」
「もう、からかわないでよー」
真に受けられなかったのは良いことがわからないが、マリエはとりあえず安心した。
そんな彼女を見て、ロディアは僅かな笑みを零した。また思考が止まりそうなので、マリエは話題を変えた、普段の自分なら絶対ここまで取り乱すことはない、あれもこれも全部カタリナとココナのせいである。
「そういえば、ロデー、最近ここら辺治安悪くない?」
「そうかしら?」
「ほら、昨日学園内で不審者を捕まえたばかりじゃん、先週殺人事件まで起こした、三年ぶりの事件だよ?怖いでしょう?」
「うん、怖いのね」
「ちゃんと受け答えしてよ!これじゃ話題が進まないよ!」
「別に進ませる必要はないと思う、それに、姉上も実は興味ないでしょう?事件など。」
「うぅ・・・」
昔からそうだ、ロディア・ヘカテーという娘は先輩たる私に対して扱いが雑すぎる、アーロンの名も持てない傍系の娘のくせに、身分も年齢もあんまり気にしない私でも、たまにこいつ舐めてるの?とイラつくことはある。
でも結局言い返せないのね、と、自分に突き込むマリエ、ちょっと自己嫌悪になりながらも毎度彼女に見惚れさせる自分が本当にどうしようもない。
「もう言いたいことはないのね?なら自分の教室に戻りなさい・・・と、言いたいのだが、」
意地悪すぎたら嫌われじゃうかもね、ロディアがそう呟けながら近づいてくる。
「そうしたら、寂しがり屋の姉上はまた拗ねるのね」
「拗ねてない!・・・っ、なにするのよ!」
答えないロディア、ただマリエの膝に乗る、両手を彼女の背後に回す、ゆっくりと、全身を託すようにマリエの胸元に寄り添えた。
「ロ、ロデー!いきなりなんで抱きつくのよ!」
改めてロディアの軽さを認識した、膝に乗ってもほとんど負担はない――ないのに、精神的に重い、なりよりも重い、胸が締める、心臓が痛む、脳が酸欠になる。
「離れなさいよ!先輩をからかうのをやめて!あなたはいつもいつも、」「静かにして」
口が塞がれた、柔らかな指が唇に当たった――酔ってる暇がながった、門外からノックの声が、
「会長、いますが?書記のアリサです」
「・・・はい、なんでしょうが?」
「あの、この門、開けられないけど、鍵を開けて貰えませんが?」
やっばり鍵を掛けた!この確信犯め!と抗議したいが、唇が震えすぎて声が上げられない!いつの間に太ももがぐいぐいと押し開けられた!なに足を入れようとするのよ!白ニーハイエロすぎない?
「会長?」
「・・・今取り込み中なの、ちょっと待っていて下さい」
「えー」
一瞬不機嫌そうな顔をするロディア、でもすぐ意地悪の顔に戻り、顔つきが幼いのに、妙に色っぽい。
「スリルがあっていいよね、姉上」
「なっ?!」
顔が近い!それに当たってる!いろいろ当たってる!うーごーくーなー!
「会長ー、まだですがー」
「まだだよ、もうちょっと待っていて下さい、ね?」
暖かい、むしろ熱い!そ、その手、何してんの!服をめくるな!待て、そ、それ以上はっ!
「時間がないから、まずはちょっと味見しようが」
「え、」
あーむっ
「―――――――いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「・・・今のは、マリエ先輩、だよね」
「ふふ、そうかしら」
「とぼけないでください、会長、女遊ぶも相手を選びなさいよ、身内はだめでしょうが」
書記のアリサがまた痛めているおでこを抑え、今はちゃんと生徒会長の椅子に座っているロディアに文句をついている。いきなり飛び出したマリエとぶつかり合えたから、何分も休ませた後けど。
「で、何が御用ですが?」
「止める気はないよね・・・まあ、いいが、本題に入ろう」
アリサがちょっと間をあいた後、用件を伝えた。
「ココナ・デ・アーロンの自主退学の件、教師たちは認めたわ」
<> <> <>
ああもう!一体何のつもりよあの女たらしめっ!ほかの生徒にも手を出したと聞いたんだけど、実の姉に何というはしたない事を!
「ココナ!」
「なっ」
急に戻ってきたマリエが大声を上げ飛び掛ったことに、驚きながらも見事に受け止めたココナ、でも勢いを殺しきれず、胃が衝撃を受け大ダメージだ。
「・・・あんた、喧嘩でも売ってるの?」
「ちーがーうーの!ココナもみんなも冷たいのよ!冷たすぎる!」
「あんたが騒がしすぎじゃないの?・・・」
「カタリナが一緒の時のココナに戻ってよ!そうしなきゃ、カタリナが帰ってきたらビックリするよ!」
「あ、それは多分ない」
「なんでだよ!」
教えたらまた大騒ぎになるのね、ココナがちょっとした嘆きを零した。
「私が退学したわ、明日から町を出る、カタリナを探しに行くわ」
「え?」
「ええええええええええええええええええええええ?!ーーーーーーーーーーーーーー」
マリエが可哀想