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 9 御前試合

 「え、我々と『二ツ橋勇者隊』が御前試合をするという話ですか?」

 将軍からの話に桜姫が嫌そうな顔をする。


 「将軍、彼らを大人数の前で『瞬殺』したらかわいそうだから、やめましょうよ。」

 アナスタシアさんがさらっと怖いことを言う。

 …たしかに、『彼等では歯の立ちそうにない』ミノタウロス男をほぼ『瞬殺』してしまった、アナスタシアさんが言うと、説得力がある。


 「いや、それが二ツ橋公がうるさいのでなあ。やらずに済ますのが難しいのだよ。

 それはそうと、君たちはそんなに強いのかね?」

 「ええ、我々にとって、彼らなど子供のようなものです。」

 「カイザスさん、我々というより、アナスタシアさんにとって…ですよね?!」

 「巧人の補助があれば、『大怪獣ゴメラ』だって、楽勝で瞬殺できると思うよ。」

 アナスタシアさんが僕に向かって嬉しそうに言う。

 「…え?あの地球防衛軍が撃退したという大怪獣ゴメラをですか?!」

 「正確には撃退したのは、我々の仲間であるモンスターバスター一〇星の一人の瀬利…」

 「カイザス!何を機密事項をうっかり話しそうになっているの?!」

 アナスタシアさんがカイザスさんの口を慌てて塞いでしまった。


 モンスターバスターが『海の大怪獣ゴメラすら撃退できる』というのは都市伝説ではなかったのか…。

 なお、僕のいた世界とアナスタシアさん、カイザスさんのいた世界はモンスターバスターの存在まで含めて驚くほど似ているようだ。

 ただ、『パラレルワールド』だったり、『我々の行動次第では枝分かれした世界』する可能性も否定できない…どころか、途中で『女神さまのような存在から干渉が入った』分、特定するのが難しいのだという。

 アナスタシアさんたちの世界に連れて帰ってもらったら、『もう一人の自分がいた』のではシャレにならないらしいし、そんな例も過去あったのだそうだ。



 話は戻って、御前試合の話をみんなでしばし考えていた際、なんと、二ツ橋公と勇者たちが姿を現した。

 うわー、連中と顔を合わせたくないんだよね。


 「将軍、御前試合の件はご検討いただけているでしょうか?」

怜悧な二枚目といった感じの二ツ橋公が将軍に冷たい視線を向けている。


(※ 二ツ橋公は重要キャラでないので、能力は省略だそうです。将軍様ほどではないですが、そこそこ有能なようです。)


 『二ツ橋勇者隊』の面々も僕らに向けて険しい視線を向けてきている。

うー、こういう場面は僕苦手なんだよね。


 「うむ、今どういう形にするかを検討しているところなのだが…。」

 将軍が今一つ歯切れの悪い言葉を言うと、なにかを思いついたらしいアナスタシアさんが涼しい顔で口を開いた。

 「御前試合をする前に模擬戦をしてはいかがでしょうか?」

 「ほお、なぜ模擬選などをする必要があるのだね?」

 二ツ橋公がアナスタシアさんに厳しい視線を向ける。


 「なにしろ、『私』が反則技能を持っているので、たった一人で戦ってすら彼らに楽勝になりすぎて試合が面白くありません。

 事前にお見せしますので、その対抗策をあなたたちが考え付かれてから正規の試合をお受けいたします。」

 アナスタシアさんの挑発的な言葉に、二ツ橋公と勇者隊の面々の顔色が変わる。

 二ツ橋公と勇者隊、アナスタシアさんの間の鋭い視線の応酬が始まる。

 しかし、『たった一人で戦ってすら』というか、われわれの今までの戦いは僕が特殊技能で底上げしたとはいえ、『アナスタシアさんがほぼすべての戦力』なんだから、『足手まといが入らない』分、かえって有利な気もする。

 アナスタシアさんの交渉力、恐るべし!


 「ほほお。ならば、早速今日にでも模擬選をしてみたいですな。

 ところで、そこまでおっしゃっておいてあっさり負けられたらいかがなさるおつもりで?」

 二ツ橋公がアナスタシアさんを睨みつけながら言う。


 「それならば、負けた側の隊員を一人、『勝った側が自由にしていい』とか言うのはいかがでしょうか?」

 カイザスさんがとんでもないことを言い出す!

 その言葉に向こうの皇や長門がアナスタシアさんを、僕が池内さんをちら見したのは……男のサガというやつだよね?!


 「ふ、男性陣の諸君!何を変な視線をむけているのだね?そんな当たり前のことをして何が面白いというのだ!

 こういう場合は二つ星勇者隊は『皇くん』、そして、対魔獣隊は『私、カイザス』に決まっていようが!!!」

 

 ………………。

 「すみません!!バカが、馬鹿言って申し訳ありません!!」

 カイザスさんを取り押さえたアナスタシアさんの言葉で、凍りついた場面が何とか動き出した。

 「問題がなければ、今からでも模擬戦やりましょうか?」

 冷や汗をかきながらのアナスタシアさんの言葉に疲れた顔をした一同はうなずいた。

 ……結果としてカイザスさんの暴走は正解だったのかもしれない。

 というか、後で聞いたら、場の緊張を和ませようとした『アメリカンジョーク』だったとか…。




 城内の剣道場にて、二ツ橋勇者隊とアナスタシアさんがにらみ合っている。

一応双方とも木刀を握りしめている。

 もちろん、魔法などを使ってもいいが、殺しはなしということになっている。


 観戦は将軍、桜姫、三奈木さん、二ツ橋公、二ツ橋公の側近のおじさんと僕とカイザスさんだ。

 二ツ橋勇者隊が殺気を出してアナスタシアさんを睨み、対するアナスタシアさんは涼しい顔をしている。

 

 試合開始と同時にアナスタシアさんが『韋駄天の術!』と叫ぶと、その姿が見えなくなった。

 気が付くと、後方にいた白魔術師の池内女史が倒れ、続いて、前衛の魔剣士・皇、剣士の長門が倒れてあっさり終了した。

 長門の後ろに立っているアナスタシアさんがにっこり笑って僕の方を見る。

 いやいや、全然動きが見えなかったし!!

 ちなみに、勇者隊の三人は倒れたまま動かないところを見ると、気絶したようだ。


 「これで、おわかりいただけましたか?では、『私の韋駄天の術』への対抗策を見つけられましたら、また試合をお申し込みください。」

 にっこり笑うアナスタシアさんに二ツ橋公はぐうの字も出なかった。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「はあ…」

 池内沙奈絵は和風の食堂のような形の城内の喫茶室でため息をついていた。


 気が付くと同級生の皇 誠一、長門 和男とともに異世界に召喚されて、チートな能力が身に着いた揚句、『勇者』に祭り上げられていた。

 『伴天連という秘密結社』を撃退したら元の世界に返してもらえるということで、なんとか前向きに勇者業に取組もうと思った。

 皇、長門とも嫌いというほどではないが、特に仲がいいわけでもない。

急造チームは成績がよく、運動にも長けた皇が取ることになり、二ツ橋公配下の面々との模擬戦では、大人数を簡単に蹴散らしていたので、なんとか行けると思っていた。


 だが、見ただけで凍りつきそうだった怪物『メデューサ男』や対魔獣隊のアナスタシアという女性一人に完敗し、三人は二ツ橋公から厳しい叱責を受けた。

 希望して異世界に来たわけでもないのに…。

 自信をなくした沙奈絵が対魔獣隊の面々が仲がよさそうなのをみて、さらに落ち込んだ。

 皇も長門もプライドの高い唯我独尊タイプであり、負けたからと言って他の相手を責めはしないものの、カリカリしている二人の傍にいると、さらに落ち込みそうだった。


 対魔獣隊はオーラがほとんど感じられず、活躍しているかどうか疑わしい同級生の水守に対しても残りの二人が非常に優しく接しているのが感じられる。

 水守は強くはなさそうだが、同じクラスでも『人の好さ』がきわだっており、ほとんどのクラスメイトから非常に好かれていた。

 アナスタシアは非常に明るく他の二人や桜姫、将軍に対しても和やかに話しかけているようだ。

 そして……超美形だが、明らかに『変人』のカイザスも……他のメンバーとは仲がいいようだ。

 自分も同じ勇者になるならあんな和やかなグループに入りたかったな……とか沙奈絵が思っていると、巧人、アナスタシア、カイザス、桜姫、三奈木、将軍の対魔獣隊の面々が喫茶室に入ってくるのが見えた。

 将軍と桜姫は変装をして本人とはわかりにくい格好をしていた。


 沙奈絵が慌てて伏せると、彼らは沙奈絵に気付かず、お座敷に入っていった。

 (なにか大事な情報を聞けるかもしれない。)

 沙奈絵は「風の囁き」の魔法を使って、座敷の会話に耳を傾けた。



 「驚いたな!『韋駄天の術』は実に見事だった!」

 将軍が興奮冷めやらない様子で語っている。

 「アナスタシアさん、術の発動が全く感じられなかったのですが、もしかしてほとんど精神力とか消費しないからですか?」

 巧人が首をかしげている。


 「いえいえ、『韋駄天の術』そのものが存在しないから♪」

 しれっと語るアナスタシアにカイザス以外が絶句する。


 「格下クラスならともかく、同クラスの怪物を相手にする際にそういう小細工を使っていると、小細工している隙に一気に追い詰められるから。

 仮にそういう術があっても頼らないことが大切かな。」

 「素であれだけ速いって、アナスタシアさん、どれだけすごいんですか!!」

 桜姫がつい声を大きくしてしまう。


 「なにしろ、世界最強の剣士ですからね♪」

 カイザスが自慢そうに笑っている。

 「いやいや、なんで、カイザスさんが自慢するんですか?」

 すかさず巧人が突っこんでいる。


 「いや、まだだ!久能さんとの模擬戦ははまだ、ほとんど五分だ!久能さんに勝ち越せるくらいにならないとレジウスの奴には勝てん!!」

 「あの、久能さんとレジウス…て?」

 巧人のツッコミにアナスタシアがはっと我に返る。


 「わーーい♪アナスタシアも機密漏えいだ♪私だけじゃないもんね♪」

 「くーーーー!!巧人!カイザスをどうにかしてくれえ!!」

 アナスタシアが、巧人に抱き付いて揺さぶる。

 巧人はゆでだこ状態になって、一言も話せない。

 「巧人ってば!………わー!巧人、ごめん!!」

 しばらくして、アナスタシアが巧人の状態に氣づき、慌てて手を放す。


 「いや、それはいいんだけど、久能さんはともかく、『レジウス』て敵かなにかなの?」

 巧人の言葉にアナスタシアが止まる。


 「……えーと、これは本来極秘事項なので、巧人と言えど…というか、ここみたいに聞かれる可能性のあるところでは話したくないんだよね。」

 言いながら、アナスタシアが座敷のふすまを開けて歩き出す。


 「で、どこから聞いていたのかな?」

 後ろからのアナスタシアの声に沙奈絵は凍りついた。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 魔法で僕らの話を聞いていた沙奈絵さんを将軍とアナスタシアさんはあっさり解放した。

 沙奈絵さんが心から謝罪したうえに、本当に機密にしたい話なら喫茶室で話したりはしないからということと、立場は違えど、伴天連を倒す上で連携する同士でもあるからだ。


 一点だけ気になったのは去り際に沙奈絵さんが『アナスタシアさんを見る視線』が妙に熱いような気がしたことだが…。




 「く、今度こそは負けんぞ!私の魔法で韋駄天の術の秘密を突き止めてくれる!」

 皇 誠一はその夜、遅くまで魔術の勉強を続けた。


 「韋駄天の術に対応できるくらい鍛えてみせる!」

 長門 和男はその夜、遅くまで真剣で素振りを続けた。


 そして、池内 沙奈絵は……。

 「ああ、アナスタシアさま、素敵♡」

 その夜遅くまで……なにをしたのやら…。


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