1 天竺への旅
クリスマスの日にナースチャとデートをした夜、僕はなかなか寝付けなかった。
終業式が終わってから街中でデートをした後、夕食を食べて解散したので、『最後まで』はいかなかったけれど、なんとか、帰り際に『キス』まではいきました。
今までは『年齢=彼女いない歴』だったのが、今年からは心から信頼できる大好きな恋人と過ごせるとは本当に縁を作ってくれた『異世界召喚』万歳だ!
カイザスさんの魔法の師匠のアルテアさんが『二人は運命の赤い糸に結ばれていて、現在はその太さが綱引き用の縄くらい太くなっている』とか言ってくれたので、ものすごく嬉しい。
これからのことをわくわくしながら目をつぶっていると、『以前感じたと同じ浮遊感』に包まれて、また真っ暗な空間を漂っていた。
ちょっと待て!!この浮遊感はまた『異世界召喚』ですか?!
そんなに頻繁に呼ばないでくれ!!
…とか思っていると、またもや星空の下のテラスのような場所に着いていた。
「まあ、巧人さん。また呼ばれたのですね。本当に大変ですね。」
最初に召喚された時に僕を助けてくれたあのゆるふわの女性から声を掛けてもらった。
「あの、あなたはもしかしてアルテアさんですか?」
彼女はカイザスさんの魔法の師匠のアルテアさんにそっくりなのだ。
先日本人に確認したら、『そういう記憶はないのよね。』と否定されたのだが。
「…えーと、あなたと会うのはこれが2回目だと思うので、別人でないかと思うのだけれど…。」
そう言いながらアルテアさんそっくりの人は水晶球でいろいろ調べてたが…。
「ああっ!私の『来世』であなたたちの世界で出会うことになっているようね♪
だから、今は違いますが、近々…50年後くらいにそうなる予定です♪」
「…そ、そうなんですか…。」
どうやら僕たちの常識とは完全に違う世界に生きているようですが、一応同一人物ではあるようです。
「また、あまり時間が無くなってしまったので、まもなくお別れです。
では、その腕輪に追加魔法をかけますね。緊急時に何かの助けになるアイテムを召喚してくれるはずです。では、ご武運をお祈りします。」
アルテアさん?に見送られた後、僕はまた意識を失った。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
目を覚ますと、山沿いの砂漠のような場所に倒れているのに気付いた。
体を起こすと、近くにやや派手目な僧侶風の衣装に身を包んだ女性が倒れていた。
どこかで見たようなその女性は…桜姫にそっくりだ。
「大丈夫ですか?!」
抱き起して揺さぶると、女性は目を覚ました。
「…!!巧人さん!!いきなり姿を消されたからビックリ…。ここはどこでしょう??」
周りが岩山と砂漠なので桜姫は呆然とされている。
「…僕もよくわからないのですが、また『異世界召喚』されたようです…。
周りに召喚した人はいないようなので、とりあえず桜姫しかおられないみたいなのです。」
「…そうなんですか、それにしても私の衣装といい、巧人さんの衣装といい、なんとなく『中華風』に見えるのですが…。」
言われてみれば確かにそうだ。
桜姫は中国のお坊様風。僕はゆったりした中華風の衣装で、なぜか近くに『鋤状の道具』が落ちているのですが…。
「巧人―!声が聞こえたけど、巧人がいるの??!!聞こえたら返事して!!」
僕たちが話していると、ナースチャの声が聞こえてきた。
「ナースチャ!!もしかして君も召喚されたのか??!!」
「巧人!!やっぱり巧人なんだね!!召喚てどういうこと?!あと、なんか知らないけど動けないんだ!!武器を具現化してくれればそれで何とかできるかもしれない!」
ナースチャがなにか大変な状況にあるようだ。
僕と桜姫が顔を合わせてナースチャの声のする方に走っていくと…。
岩山から肩から上が生えている状況のナースチャの姿がそこにあった。
しかも、真っ赤な男性の着る中華服に、頭には金色のわっかがはまっている。
そして、ナースチャの近くには…棒状の武器が置いてある…。
僕と桜姫は顔を見合わせて叫んだ。
「「孫悟空??!!」」
『ピンポーン♪正解です。』
僕たちの声に合わせて、空中に女性の姿が現れた。
絵画などでよく見たその姿は…。
名前: 観音菩薩 菩薩(仏教で有名)性別:女性 年齢 ひ・み・つ ♡
レベル:仏様だから内緒です。
スキル: 法力 知恵 その他たくさん
称号 菩薩(位階的には如来)
特徴: お釈迦様を補佐する右腕。
特記事項 ※この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、事件、歴史、仏教とは一切無関係です。ちなみに本来は『男性』という説もあります。
……観音様ですか?!しかも鑑定結果は相変わらず『突っこみどころ満載』です…。
『あら、特記事項を見て、『男の娘』じゃないかと疑っておられますね。安心してください。ちゃんと女性です。
そして、本題に戻りますが、あなたたちを召喚したのは私です。」
「「「なんだって(ですって)――!!!」」」
「なんと、本来の三蔵法師一行がこちらの世界では全員『ヘタレ』で、集合してすぐに全員夜逃げしてしまったのです。
そこで代役としてあなたたちを召喚したので、みなさまにはきっちり役が振り分けられてます。」
「…なるほど、それでナースチャさんが孫悟空なわけですね。」
「はい、そして桜姫が三蔵法師で、巧人さんが猪八戒です♪」
桜姫と観音様がやり取りをしている。
……僕が猪八戒というのもなんなんですが、それ以上に…。
「でも、ナースチャさんは悪いことをしてわけでもないのに、岩山に封印してあるということまで『原典をなぞる』必要はなかったのでは?」
「……えーと、それは三蔵法師様が封印を解くお経を唱えられたらすぐに封印がとけますから。」
観音様!明らかに目が泳いでいたよね?!
「…えーと、私本職の僧侶じゃないので、封印解除のお経は知らないんですが…。
それと、ナースチャさんの封印を解いても絶対に悪いことはされないので、観音様が封印解除のお経を唱えていただければいいのでは?」
桜姫の返しに観音様の顔色が真っ青になる。
「………えーと……三蔵法師様のお経でないと封印が解けないようにお釈迦様が設定されているので、『なんとか覚えて』ください……。申し訳ありません!!」
いやいや、この世界の観音様もお釈迦様も本当に大丈夫なの??!!
この後、観音様が用意されていた『お経習得用の参考書』と桜姫は必死でにらめっこされ、三時間後にようやくナースチャが解放された時には全員くたくたになっていた。
「…そういえば、沙悟浄がいませんね?」
「巧人、沙悟浄てなに?」
「ナースチャ、三蔵法師には三人のお供がいるんだ。
ナースチャが役になっている『猿の怪物』の孫悟空。
僕が役になっている『豚の怪物』の猪八戒。
そして、『河童の怪物』の沙悟浄。
この三人を従えて、三蔵法師は天竺にお経を取りに行く旅に出たんだ。」
「『私』達が猿や豚の怪物というのは嬉しくないけど、もう一人はカッパの怪物なんだね。」
ナースチャが僕の話にうなずく。
蛇足ながら、ナースチャの第1人称が『私』になっているけど、これは『水守家に嫁入りを認めてもらうために俺ではなく、私に修正した方がいいよ。』というナースチャの下宿先の大家・瀬利亜さんの助言を受けてのことだ。
もともとナースチャに日本語を教えてくれた人が『日本の文化には詳しくない』人だったので、『俺』と間違って覚えたのが始まりらしい。
それでも戦闘(及び訓練)時になると『俺』をついつい使ってしまうらしいが…。
「ここで、みなさまに朗報があります。沙悟浄役の人は今から召喚するのですが、呼び出されたい方のリクエストをお受けします。」
「「「なんだって(ですって)??!!」」」
なんとなく最後の一人はカイザスさんのような気がしていた僕たちは色めきたった。
『選べる』のだったら、人間的にも『戦力的』にも『まともな人』を選びたいところだ。
「はい!!アルテアさん、『リディア・アルテア・サティスフィールド』さんをお願いします!!!」
ナースチャが手をさっとあげて叫んだ。
「ナースチャさん、アルテアさんてあなたたちを迎えに来てくれた人よね?」
「そう。カイザスの魔法の師匠で、カイザスと違って、桜姫の世界でも自由に魔法を使えたでしょう。瀬利亜とどちらを呼ぶか迷ったけど、二枚戦士よりは多彩な魔法が使える人の方がいいかと思って。」
なるほど、『世界最高の魔法使い』なら、前回の伴天連戦のような苦戦を強いられることもないだろう。
僕も桜姫もナースチャの判断に任せることにした。
「わかりました。では、アルテアさんを呼ぶのが皆様の総意でかまいませんね?」
「「「よろしくお願いします。」」」
僕たちは少し安心して観音様が召喚術をかけるのを見ていた。
しばらくして、観音様の顔色が青くなった。
「申し訳ありません!私の術が未熟で、アルテアさんを呼ぶことができませんでした!!」
「なんですって!?それでは…。」
「…幸いなことに『モンスターバスター一〇星』の誰かであることは間違いないと思うのですが…。」
僕たちがかたずを飲んで見守っていると……ギターを弾いているカイザスさんが姿を現した……。
「はっ?ここはどこだ??……おお、巧人、ナースチャ、桜姫!もしかして、また召喚されたの?それも今度は…三蔵法師御一行様か!!我々で天竺の旅をするわけだな!!
また、みんなで一緒とはうれしいよ♪
あれ?なんか、みんな『すごく疲れている』ように見えるけど大丈夫?」
「………大丈夫……。大丈夫にするから…。」
ナースチャがひどく疲れた声で返事をしてくれた。
こうして、僕たちの天竺へ「三蔵真経」を取りに行くための旅が始まった。




