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Gold Dragon and SEN-NIN ~金龍と仙人~  作者: 月影
第一章 転生編
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第五話 彼と彼女のシチュエーション

 俺は今、寝かされていた毛皮の上で座っている。


「これからどうすれば……」


 俺は溜息交じりに呟くと、混乱していた頭の中を整理しようと努めてみる。

 とにかく、金龍オルルとの同居は既に決定事項なのだ。それに関して、今更あれこれ悩んでも詮無い事だろう。

 今はこの異世界に関するできる限りの情報収集を行い、今後の身の振り方を検討すべきだと結論付けた。

 そこに、オルルが声を掛けてきた。


『ところで竜也よ。いちいち口に出さずとも、儂との会話は可能であろう?』


 確かに、現在のオルルは肉体を持たないのだから、言葉は全て念じているだけのはずだ。所謂、念話である。

 地球に居た頃は、自分には念話は無理だと諦めていたが、環境が変われば結果も異なるかもしれない。さっそく試してみよう。


『アーアー。これでどうでしょう?』

『うむ、それでよい。聞こえておるぞ』

『どうしてだろ?地球じゃ、全然だめだったのに』

『さあな。転生の影響か、神の加護か』


 いずれにしても、これで俺は長年の夢を一つ叶えたのだった。


『でも、いつも念話というのは疲れるから、二人だけの時は今まで通りで頼みます』

『そうか。だが、口で話すのであれば、やはり相手が居る方がよかろう』


 ポンと目の前に身長30cmくらいの金髪金眼美少女が現れた。優雅にフワフワと浮かんでいる。


「うわっ!びっくりした……って、おおお!あなたがオルルですか?」


 年の頃は、俺と同じ15才くらいだろうか。

 腰のあたりまで伸びた髪は、それ自体が目映い光を放っていて、まさに神々しいという表現がふさわしい姿と言える。

 両眼も同様に黄金に輝いており、何となく爬虫類を思わせる。

 胸は大き過ぎず、小さ過ぎず。外人モデルのような抜群のプロポーションだ。

 着ているのは貫頭衣とかチュニックと呼ばれる膝まである白いワンピースだ。RPGなどで良く見る格好だな。

 さしずめ『金龍美少女 白ワンピースVer. 1/5スケールフィギュア』といったところか。ファンタジー万歳だ。


「それにしてもリアルだな……」


 3D映像のようなものかと思い、俺は何となく彼女の身体に手を伸ばした。


「あふん」

「え?え?」


 その手に伝わったプニッとした感触。


「おんどれぇぇぇ!何すんじゃーーー!」


 オルルの強烈な右フックで、俺は数十メートル程水平飛行をする。着陸は大失敗。大破した。


「痛えぇぇぇーー!何すんですか!」


 元の肉体であれば、恐らく一巻の終わりだったろう。だが、さすが金龍と同化しただけのことはある。かなりの衝撃だったが、肉体的なダメージは掠り傷程度で済んでいる。

 それでも、痛いものは痛い。


「ふん!この高貴なる儂の胸に触れようなどと、不埒な考えを起こすからだ」

「誤解です。俺はただ、3D映像みたいだなと思って、確認したかっただけですよ」

「どうだかな。今度同じ過ちを犯しおったら、お前がどうなろうと同化の術を解除するからな」

「分かりましたよ。って、さっき殴るとき、とんでもないこと口走ってなかったですか?」

「何のことだ?」

――こいつ、澄まし顔でしらばっくれてやがる。

「肉体は俺と共有してるくせに、そっちもちゃんと触れたりできるんですね」

「龍の本体も元々は魔力で作られた存在だからな。お前の様な人間とは違うのだよ」

「そんなもんですか」


 いきなり殴られて文句を言いたいところだが、目の前の眼福美少女には満足していたので、この件は打ち切りとした。

 俺が殴られた頬を摩りながら立ち上がろうとして、ふと見上げると、眼前にオルルが俺を見下ろすように浮かんでいる。

 そして、否応なくワンピースの中を覗くかたちになってしまった。


――え?え?ノーパン?


 そう。

 彼女はワンピースの下に何も穿いてはいなかった。フィギュアサイズでなかったら、鼻血を吹いていたかもしれない。

 俺は、女性の裸に対しての免疫はゼロだ。母親や妹の裸でさえ、中学に入った頃からずっと見ていないのだ。


――いや、ヨーロッパでもパンティーを穿く様になったのは、ルネッサンス時代に馬に乗る為だったって聞いたし、この世界の女性がパンティーを穿かなくても不思議じゃないよな。


 郷に入っては郷に従えである。俺は深く考えず『こういうもの』と納得しておくことにした。


――ご馳走様でした。


 俺は表情を悟られないように、オルルから顔を背けながら立ち上がると、再び元の毛皮の上に座り込んだ。

 今度は、前にオルルも座っている。


「うん。やっぱり、この方が話し易いですね」


 小さくても、話し相手ができたのは素直に嬉しかった。

 それにしても、ミニサイズのオルルが、あれ程のパンチを繰り出すとは驚きである。


「オルルって、もの凄い力持ちなんですね」

「身体は小さくても、力は並みの人間の数十倍はあるぞ」

「そんな力で人を殴らないでください」


 俺は今更ながらの恨み言を零した。


「すまぬ。つい手が出てしまったのだ。ちょっと撫でただけのつもりだったのだがな」

「嘘だー!」

「嘘ではない。その身体は儂の身体でもあるのだから、大事にしてもらわねば困るぞ」

「殴った当人に言われてもなー」


 気まずかった雰囲気がなんとか解れてきたところで、俺は前から気になっていた事を訊いてみた。


「ええっと、オルルって、俺の過去の記憶や、今考えてることが分かったりします?」


 俺とて人の子である。それも健全な男子だ。封印したい過去の一つや二つや三つ……まあ、いろいろと抱えている。

 さらに、目の前に浮かんだ美少女の秘密を覗いて、動揺してしまった件もある。

 本人を前にして、それらがダダ漏れになっているとしたら……あまりに恥ずかし過ぎる。死ねる。


「安心せい。儂と竜也はまったく別の人格だ。肉体は一つでも、精神は完全に分離しておる」

――よかった。


 その答えを聞いた俺は、ようやくこの状態でも生きて行けるという安心感を得ることができた。秘密の一つも持てないような生活は、とても耐えられそうになかったからな。

 そして、つい調子に乗って『あの事』を口にしてしまったんだ。


「ええっと……。さっき、不可抗力でチラっと見えてしまいまして……。こ、この星じゃあ、その……下着は着けないんですか?」

「何だと?!」

「いや、だから、ブラとかパンツとかを着る習慣は無いのかなっと……」

「この大馬鹿者がぁ!」

「すみません、すみません、すみません!」


 余りの剣幕に驚いて、俺は思わず座ったままカサカサと後退りした。


「竜也、お前に警告しておく!儂に対して下着の話は禁句だ!今後一切、口に出すでないぞ。考えることも罷り成らん!」

――怒るところ、そこか!


 目の前のオルルが俺を指差しながら、鬼の形相で言い放った。その周囲には黒いドロドロとした気が渦巻いている。


「どうして……」

「理由など無い!これは、この世界の掟なのだ。よいな!」

「わ、分かりましたー!」


 俺は思わずそう口に出して、カクカクと何度も首を縦に振った。金龍を本気で怒らせたらどうなるか、俺でも見当がつくからな。


――何かこいつ、残念臭がプンプンするな。微少女って気がしてきたぞ。あれ?でも良く良く見ると、この美少女は以前どこかで……。


 ふと、俺の頭にある疑念が湧いた。


――まさか。でも。そんな……。

「知ってます?ネコ耳メイド喫茶『ニャンニャン』のマドカちゃん、もうすぐ結婚するらしいですよ?」

「何だとーー!儂は絶対許さんぞ!」


 即座に、オルルが可愛い拳を握りながら叫んだ。


――うん。これではっきりしたな。

「あなた、師匠でしょ」

「………………」


 オルルが顔を真っ赤にして目を背けた。そう、こんな単純な手に引っ掛かるのが、俺の師匠なのだ。


「今更恍けたって無駄ですよ。師匠」

「……………………どうして分かった?」


 長い沈黙の後、観念したように、オルル、いや師匠がぼそりと呟くように訊いた。


「その姿、師匠が大好きだったアニメ『精霊使いの剣士』のヒロインですよね?スマホの壁紙に使ってたし、前に『このフィギュアが欲しい』って、俺にAmezonのページ見せたじゃないですか」

「ちっ、まだ覚えていたか」

「俺はほんの少し前まであっちの世界に居たんですから、まだ忘れるわけないでしょ」

「儂にとっては大昔の話だからな」

「空前絶後のギャップですね」

「まさにな。今の儂は竜也の肉体が本体となっておる。そして、これは神にリクエストして造ってもらった儂のもう一つの身体、魔力で作られた精神体だ。龍の体はあまりに巨大なので、森を離れる際にはいつもこの身体を使っていたのだ。もっとも、今の状態では、この大きさが精一杯だがな」


 確かに、少女の動きは自然であるし、彼女自身が話し掛けているように聞こえてくる。なりは小さいが、立派な金龍少女そのものだ。


「よくそこまで正確に再現できましたね」

「ふふふ。これだよ」


 師匠は、何も無い空間からヒョイと何かを取り出して俺に差し出した。


「あ、それは……」


 師匠の身体に不釣り合いな大きさのそれは、俺が返してもらい損ねた親父のスマホだった。このスマホの壁紙を神様に見せたというわけだろう。

 電源ボタンを押すと、目の前の師匠と瓜二つの少女が、決めポーズをしている待ち受け画面が現れる。大昔のスマホが電源入るっておかしくね?

 だが、それよりも……だ。


――はぁ~。金龍がこんなんで良いのかよ。




 ◆ ◆ ◆




 再び毛皮の上で向かい合わせに座った俺達は、改めて3000年ぶりの再会に話の花を咲かせていた。俺にとっては僅か1日足らずでの再会なんだが、ハンパ無く懐かしい気がしたんだ。何故かな。

 因みに、スマホは師匠に返してある。今更もらったって、親父に届ける手段も無さそうだし。


「それにしても、この姿と師匠じゃギャップがあり過ぎて、どう付き合っていったらいいのか……ぷぷっ!」


 俺は、眼前の金龍美少女を繁々と眺めつつ、師匠の姿を頭に浮かべると、つい吹き出してしまった。


「そう言うな。儂だって未だに違和感があるのだぞ」

「えええ?」

「この姿には慣れたがな、女性として生きる事にはまだ馴染めんのだ」

「まあ、師匠はあっちの世界で2000年以上男として生きてたから、無理ないのかもしれませんね」

「そうだな。お前も、儂を女として扱う必要はないからな」

「さっき、触っただけで怒ったくせに」

「それとこれとでは話が別だ。あれは教育の一環である」

「日本じゃ体罰は禁止されてるんですよ?まあいいや。それで、詳しい事情を説明してもらえるんですよね?」

「うむ。何処から話そうかのー」


 金龍美少女姿の師匠は、徐々に記憶を辿りながら、彼がこの世界に転生することになった理由と、俺が転生して来た経緯について語り始めた。


「お前と分かれて仙界に辿り着いた後、とある神から念話が届いたのだ。仙界と神界は、共に天界に在るからな」

「へー。神様達がお隣さんですか」

「互いに干渉はせぬという不文律があるがな」

「なるほど」

「その神曰く、竜也を自分が管轄する星に転生させてやる代わりに、儂にもその世界の構築を手伝えとのことだった」

「随分と恩着せがましい神様ですね」

「まったくだ……おっと、今のはオフレコで頼む」

「神様にオフレコが通用しますかね」

「オホン。そもそも仙界へ行ったのも暇潰しの為だからな。儂は、その提案を受け容れることにした。そして、転生してみたらビックリ、自分が龍に生まれ変わっていたというわけだ」

「しかも女だったんですね」

「そうだ。見掛けでは分からなかったが、神からそう告げられた」

「理由はあったんですか?」

「精霊王が男なので、金龍は女が良かろうと……ただの気紛れだろうな」

「ご愁傷様です」


 神様の気紛れで女にされたとは。不幸な師匠だ。


「そっか。ところで、師匠って、どのくらい生きてるんですか?俺が来る事を教えられてから3000年って言ってたけど」

「うら若き女性に年齢を問うのは、この世界でもマナー違反なのだぞ。まあよい。儂がお前の事を聞かされたのは、儂が造られてすぐだ。正確には知らぬが、儂の年齢はおよそ3000才ということだな」

「恥ずかしがる年ですか!」

「人間と一緒にするな。儂はまだピチピチだぞ。3000年と言っても、そのうち半分は寝ていただけだがな。お前が来る前も、200年程寝ていたところだ」

「200年も寝てたんですか。まあ、師匠はあっちの世界でも1800年寝てましたけど」

「あれは寝ていたのではない。瞑想だ!」


 それにしても3000年とは。

 龍と人間とでは、時間の感覚がどれほど大きく隔たっているのか、俺には想像もつかないな。


「お前も知っての通り、儂には完全記憶があるからな。神の予言を忘れずに、励みにして今日まで生きてきたというわけだ。しかし、長かったな」

「ありがたい話です。感謝してますよ。ううっ……」

「泣かんでもよい。儂が好きでやった事だ」


 俺の為にわざわざ転生までしてくれて、しかも、気の遠くなるような年月を忘れずにいてくれた師匠。こんな師匠に巡り会えて、俺は本当に幸せな男だよ。泣けてくる。

 でも、よかった。俺が男のまま転生できて。


――あれ……本当に良かったのか?


 師匠には悪いけど、女になって第二の人生っていうのもアリだったなって考えてしまったよ。


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