眠り姫
――うわ、寝てるよ。
と僕は思った。
部活を早めに終わらせて、戻ってきたところ。
教室に入ると彼女が眠っていた。
「部活が終わるまで、待ってる」
なんていってたのに、自分だけ寝ちゃってる。
おまけにこの格好。
彼女は背筋を伸ばして、ちょっと上を向いて目を閉じていた。
首を傾けて。椅子にもたれて。
よくこんな格好で寝られる、と思う。
無防備すぎる。
ほかの人が来たらどうするつもりなんだろうか。
彼女を起こさないように、そっととなりに座った。
もしかしたら目をつむっているだけかもしれない。
耳をすましてみた。
すうーすうーと小さな寝息が聞こえた。
こんなにかわいい顔、するんだ。
僕は彼女の寝顔を眺めていた。
最近はケンカばっかり。
彼女のこういう顔を見ていなかった。
ちょっと優しくしてみようかな、と思った。
売り言葉に買い言葉。
お互いに意地を張り合って。
僕らはギクシャクしていた。
素直じゃないんだ。
二人とも。
寝顔を見ていると、そういうのが馬鹿らしくなってくる。
なにしてたんだろうって思う。
優しくするってどういうことだろうか。
――という哲学的な問いが浮かぶ。
いままで考えてこなかったからわからない。
きっと、そういうことなんだろう。
もうちょっとしたら起こそうか。
太陽がしずみだしている。
校庭で部活をやっている子たちもまばらだ。
人のいない教室はやけに広くて。
彼女は眠っていて。
僕らは二人きりだった。