(9) Endless Road
目標額は達成した。
こんなに早く、しかもうまくいくとは思わなかった。手元にあった分、つまり、アスラの両親からくすねた分は、品質がよかったので短時間で完売したが、あと少し足りない分は、令の母親が探してきたネタ元から仕入れる事でしのいだ。
Z高の編入試験まで、残り一ヶ月を切ったが、アスラは何事か考えているようだった。
令も、それは察していた。このままいけば、Z高にこだわらなくとも、それなりのレベルの学校へ行く事は可能だ。
そもそも、令がアスラを自分の学校に誘ったのも、単なる子供っぽい思いつきに過ぎない。
だが、真剣にアスラの将来を考えた場合、どうするのがベストなのか、15才の令にはわかるはずもなかった。
「なあ。」
画面のスネークと大佐を見つめながら、アスラは声をかけた。
「俺、わかんなくなってきた。」
「何が?」
「進路のこと。」
令は黙っていた。
「本当にわかってるやつなんて、いるのかな。」
「いないよ。」
令は断ち切るように言うと、ミネラルウォーターのびんを持ってきて、一口飲んだ。
そして、スネークの動きを目で追いながら、
「お前さ…いっそ海外はどうだ?」
とつぶやいた。
「俺も、それは考えてた。」
アスラは答えた。
自分が興味のあること、出来そうな事はPCくらいしかない、ならばそれを窮めて自立を目指す。
勉強するなら、先端的で奨学金制度の充実したアメリカへ行くのがいいのかもしれない…。
「行くなら、早い方がいいかもな。」
「ああ。
実は親父が来月アメリカへ行くんだ。
永住するつもりらしい。」
「一緒に行くのか。」
「いや、行くなら、留学生試験に受かってからにしようと思う。」
アスラは心なしか、憂鬱そうな顔をしていた。
令は、胸の中が減圧されていくような気がして、ミネラルウォーターを飲んだ。
この数カ月の妙に高揚した気分が、一気にダウンした感覚。
しかし、それはどこかで予期した事ではなかったか。
令は残った水を飲み干した。
こんな時、大人なら酒を飲むのかもしれない。
何かと理由をつけては酒を飲むのが大人だ。
友達と別れる時には、当然飲むだろう。
再会した時にも飲むのかもしれないが…。
「行きたくないんだ。」
アスラは言った。
画面のスネークが、爆弾を仕掛けていた。
もう何百回となく見た光景。
「でも、行くべきだと思うんだ。」
「うん。」 令はうなずいた。
「行くなとは言えない。」そう言うのが精一杯だった。
武器庫が木っ端みじんに爆破され、スネークが走り去った。
次の任務に向けて進むのだ。
「終わらないな。」
「ああ、スネークは永遠だ。」
「小島秀夫が泣いて喜ぶぜ。」
「俺も泣きたいよ。」
アスラは仰向けにひっくり返ると、片手で顔をおおい、胸にこみあげてくるものと必死に戦った。
ふと、令を見遣ると、令は顔をそむけて、肩をかすかに震わせていた。