(4) Intrigue
「令奈、こないだマックにいた中坊覚えとる?
ほら、うちらのこと、ガン見しとった子ら。」
「ああ、いたなあ。
どうかしたん?」 ある夜、由香からの電話で令奈は、マックにいた少女達のことを思い出した。
「あん中で、髪の毛だけ、やたら決めとった子おるやん、あの子最悪やねんて。後輩から聞いてんけどなあ…」
Q中出身の由香は、後輩と会って立ち話をした時に、偶然ヘアスタイル命の噂を色々聞いたのだった。
いわゆる一つのステレオタイプ。
うんざりするほど聞き飽きたストーリー。
ヤンキー少女は皆同じだ。
「下らね。」
令奈はつぶやいた。
親の趣味で通わされていたミッションスクールを飛び出して、最低ランクの高校に入り、結構楽しくやっている令奈は、お嬢様もヤンキー少女も、性格がねじ曲がっている限りは同レベルだと思い、軽蔑している。
「ただのアホやん。」
「ほんま、それ。
調子乗ってんねんて。
けど、なんであの子ら、うちらの事ガン見しとったんかなぁ。」
「あんた、令ちゃんと一緒にいた子覚えてる?」
「ああ、バリ黒い子な。」
「あの子の事好きやし、見とったんちゃうかなあ。」
「それ!あの子バリ可愛いし、カッコイイもん!」
「あの子ハーフやしなあ。」
「そうなん?アメリカ?」令から聞き出した話によると、アスラの父親はイギリス国籍で、だからイギリス人なのだが、ジャマイカとインドの混血なのだそうだ。
「あの子、見た目も性格もいいねんけど、ちょっと何考えてるかわからへん。
その意味では、令ちゃんとよう似てるわ。」
「せやし、気が合うねんなあ。」
「見かけによらず頭もいあしな。
けど、けっこうヲタ入ってんで。」
「ヲタ!?バンバンやあ。」
二人はげらげら笑い、後は別の話題になった。
令とアスラは、お互いの家をしょっちゅう行き来するようになり、ゲームの話題の合間に、学校や家庭の事も少しずつ話すようになっていた。
父親不在の家庭。
令の父親は交通事故で亡くなっていた。
アスラの父親は、横浜でミュージシャンをやっていたが、三度目に逮捕されたのをきっかけに離婚し、家を出ていった。
もっとも、釈放されたのは案外早かったし、離婚後もしょっちゅう家に出入りしているらしかった。
「まあ最低な父親だけど」アスラはため息をついた。
「あれが自分の父親だ。
現実は認めないとな。」
令は、いたましげな顔をした。
「俺の父親も最悪だったけど、死んでくれたからまだよかったよ。」
「そうだな。」
「俺…」
「なんだ?」
「おふくろが殺したんじゃないかと思う。」