(3) One Love
「令ちゃんじゃない。」
派手な格好をした、典型的なギャルが二人立っていた。
「珍し!友達といるやん。」
色の白い方のギャルが、令の肩になれなれしく手を置いた。
「誰なん、この子。
お姉ちゃんに紹介して、可愛い子やなあ。」
令は観念したように、ぼそりと一言、
「アスラ」
とだけ言った。
とまどい顔のアスラに、令の姉はにっこり笑って、自分を指さすと、
「令のお姉ちゃんやで。令奈言うねん、この子は由香。」
由香と呼ばれた少女も、笑顔で挨拶した。
こちらは日サロ焼けして、色が黒い。
令奈はアスラに尋ねた。
「同じ学校なん?」
「違います。」
「そんなら小学校ん時、一緒やったん、それとも塾の友達?」
「うるさいなぁ、もうあっち行けよ。」
令は力無く言うと、令奈を追い払う仕草をしたが、令奈はそれを無視して、アスラに再び話しかけた。
「令ちゃんてなぁ、友達少ないねん。
結構難しい子やねん。
けど、あんたみたいな子がおったら安心やわぁ。」
アスラは照れて、少し笑った。
そこへ、令奈の友達の由香が、のんびりした調子で口をはさんだ。
「なあ、あんたバリ黒いなあ、うちより黒いやん。
どこの日サロ行ってんの」
「俺、地黒なんで。」
「そうなん、バリええやん、バンバンやぁ。」
由香はとぼけたように笑ったが、ふと真面目な顔になって、
「なあ令奈、なんかさっきから視線を感じるねんけど。」
「うちも。」
「バリ感じるやろ。」
「あの子らちゃうん?」
令奈は、かすかにあごで方向を示した。
中学生くらいの少女達が、ひと固まりになって、こちらを見ていた。
なぜか、全員プーマのジャージを着ている。
頭も目付きも、ついでに言うなら育ちもすこぶる悪そうな少女達だった。
その中でも、ひときわ強い視線を放っている少女は、だらしのない服装に似合わず、髪型だけが美容院から出てきたばかりのように完璧にスタイリングされている。
そのアンバランスさは、どこか滑稽味を漂わせていた。
彼女を中心とする視線は、しかし、いわゆるガンを飛ばすといった雰囲気ではない。
うらやましげというか、不思議がるというか、とにかく興味津々という調子に満ちあふれていた。
「うざいな。」
「ほんま、それ。」
令奈と由香が、不機嫌な表情で見返そうとした時、アスラが言った。
「あいつら同級生です。」
「そうなん?」
「名前わかんないけど、確か同じクラス。」
「不細工ばっかやん。」
由香が遠慮のない感想を漏らし、令奈は、聞こえるやんと笑いながら、由香の背中を叩いた。
それから令奈はアスラに、いつでも遊びに来るようにと言い、二人のギャルは、ひらひらと手を降りながら立ち去って行った。
「お姉さん、いい人だな。」
「そうかあ?」
令は顔をしかめたが、その実まんざらでもないような感じでもあった。
そこへ、髪型だけは完璧な少女が、おずおずと近寄ってきて、アスラに話しかけた。
「さっきの人ら、誰なん?」
舌ったらずな喋り方。 「…知らね。」
「きれいな人らやなあ、高校生やろ?」
「だろうな。」
「逆ナンされたんちゃうやんなあ?」
令が、ぶっと吹き出した。アスラもつられて、顔がゆるむ。
「だったらどうなんだよ、関係ないだろ。」
突き放したような言い方だが、目は優しい。
憐れむような光がある。
これがくせ者なのだが、完璧ヘアにはわかるはずもなかった。
「この子、友達なん?」
戦法を変えたつもりか、今度は令に向き直る。
「Q中ちゃうやんなあ。
うちらも友達になりたいねんけど。」
令は、ぎょっとした。
下手物料理を出された時のような顔になっている。
「吐くなよ、耐えろ。」
アスラは囁いた。
「どしたん?」
「いや、こいつはさっきから気分が悪いんだ。」
「けど、笑っとんで。」
「口下手だけど、愛想はいい奴なんだ。」
「あ、やっぱ吐きそう。」令もアスラに調子を合わせて、口に手をあてた。
「俺、こいつ家まで送ってくから。」
そう言うとアスラは立ち上がり、あっけにとられているミス・髪型をその場に残して、令とマックを立ち去った。
しばらく歩いてから、
「惚れられてるな。」
令の一言に、今度はアスラが顔をしかめて、
「まともに口をきいたのは今日が初めてだぜ。」
と言い、上着のポケットに荒々しく手を突っ込んだ。その時、アスラの携帯が鳴った。
一言二言ですぐに切ると、
「悪い、ばあちゃんが呼んでるから帰るわ。」
と片手をあげた。
二人は携帯の番号を交換すると、別れた。