(2) Boys Keep Swinging
アスラは三ヶ月前、横浜から転校して来た。
見た目の感じから、女の子達のあいだでは、いち早く人気が出たが、それ以上に男子から目をつけられる方が早かった。
関西弁がしゃべれない−
−それだけでも、異端者として拷問、処刑を受けるに十分な罪状だったが、何よりもどこか周囲に無関心な自由闊達さが、同級の不良少年達の嫉妬と反感を買ったのだ。
しかし、ひどい目に遭わされることはなかった。
中三であることが幸いしたのだ。
受験学年であることから、教師が勉強についてますます口やかましくなり、自分を武闘派だと勘違いしている馬鹿どもが、学校に来なくなったからである。
もっともアスラは、横浜でも日ノ出町や曙町を含む最悪の地域の学校に通っていたから、何事も風が吹いた程度にしか感じなかった。
ネットカフェを出て、マックで腹ごしらえをしながら、アスラはそんな事を断片的にしゃべった。
令は面白そうに聞いていたが、自分達がいるこの街について話し始めた。
話をする令を、アスラはあらためて観察した。
女の子にもめったにいないくらい色が白い。
ナイフで彫ったように切れ長な目は横に長く、表情がつかみづらい。
身長、体重はおそらく自分と同じくらいだが、色白なせいか、ひ弱な印象を与える。
服装の趣味は悪くない。
それに、ゲームの嗜好は完全一致。
こいつは俺にまさるとも劣らないメタルギアヲタだ。いわゆるヲタには見えないし、ヲタ独特の空気感というものはないが−。
「…ゴールデントライアングルだな。」
「ああ?」
アスラはきょとんとした。
「ケシの栽培がどうかしたのか?」
途端に令は爆笑した。
アスラは慌てて、
「いや、今悪いけどちゃんと話聞いてなかったから、変なこと言ったかもしんねぇけどよ…それに親父が何度かガンジャの不法所持でもってかれた事があって、俺、そっち方面にいやでも耳ざとくなっちまって…」令は再び爆笑した。
「ますますウケるよ。」
のけ反るように、ひいひい笑っている。
普通なら、ここで怒るところなのだが、何故かアスラは腹を立てる気にならなかった。
一見真面目そうな令が、思いがけず無道徳な態度で笑い飛ばしたことで、アスラはかえって安心感を覚えたのかもしれなかった。
「で、なんでゴールデントライアングルなんだ?」
「ああ」
令はテーブルに、細長い指で線を描いた。
「今いるQ市と隣のR市、それに向かい隣のP市。
この三つは総体的に柄が悪い、地方行政もなっちゃいない。
だから三角形PQRは、ろくでなしのゴールデントライアングルなんだ。」
「なるほど。」
アスラが納得して、令が話を続けようとした時、頭上から騒がしい声が降ってきた。