(1) Playground
ネットカフェで知り合いが出来るなんて、ありえないことだった。
でも、たまにはそんなこともあるのだろうか。
令が、好きなゲームに関するサイトを無作為にサーフしていた時、背後から誰かが声をかけた。
「これ、全部クリアしたのかよ。」
「うん、したよ。」
「オレも。」
令はそこで振り返った。
ほっそりした一人のガキ−自分と同い年くらいの少年が、悪びれた風もなく立っていた。
色が黒い。
彫りが深い。
黒人が入っているようにもインドが入っているようにも見える。
長めのくせっ毛や服装の感じから、不良のようにも見える。
ガキは黙って令の隣のブースに座ると、ひとしきり
PCをいじくっていたが、そのうちチャットを始めた。
「何年?」
「中三。」
「同じだ。学校どこ?」
「Z中。」
「俺はQ中。Z中ってどこだ?」
「R市。私立だよ。」
「じゃあ高校受験しなくていいのか。」
「うん…地元のやつじゃないよね?」
「俺のこと?」
「関西弁じゃないもん。」
「お前もじゃん。」
「僕はずっとこっちだよ。でも、両親があっちの出身でさ。」
「俺はおふくろの地元だからってんで、最近こっちに来た。」
「最近てどのくらい?」
「三ヶ月になるかな。」
「もう慣れた?」
「どこも同じだよ。」
「そうかな。そうだな。」
「俺、アスラ。」
「変わった名前だね。 漢字で書くとどうなる?」
「恥ずかしくて書けねえよ。」
「まさか阿修羅とか?」
「おふくろのバカな思いつきさ。お前は?」
「令。」
「外出よう、なんか食いに行こうぜ。」
「了解。」
友達なんて、出来る時はあっさりと簡単に出来るものだ。
むろん、壊れるのも速い。令もアスラもわかっていた。わかりすぎるくらいに。それでも二人は、二匹の子犬のように連れ立って外へ出た。
少年の足並みというものは、どこか羽が生えたように軽やかに見える。
そんな彼らの背中を、やや粘った視線で、じっとりと追う少女がいた。
もちろん令もアスラも、全く気がついていなかった。