第3章 桜花 -6-
西條真雪に、家族はいなかった。
血縁にせよ友情や恋愛にせよ、およそ繋がりと呼べるものを彼女は持たない。
それは、彼女が唯一絶対の最強の能力者であったからだ。
彼女は自己という存在を生み出した研究からも切り離され、ただの高校生としての生活を与えられてしまった。
確かに彼女はそれを悲観などしていない。そんな境遇を不幸だと嘆きもしなければ、むしろそれを最大限に楽しんでさえいる。学友に困ったことなど一度もない。
だが史上最強の能力者として生まれた彼女にとって、一般人でしかない周囲と合わせることは容易でも、周囲に混じることは不可能だった。
故に彼女は天涯孤独。
ただ一人、ずっと一人で、楽しんでいるかのような演技をして周囲を欺いて生きていくしかなかった。
――なぜなら、誰も西條と同じ場に立つことも出来ないのだから。
だがそれはある日、覆された。
目の前に現れた、一人の男と一人の少女。
白衣に身を包んだ真っ黒な男は、黒い衣装を着た真っ白な少女を西條に見せて言った。
「護ってくれ」
そうして彼女は真実を知る。
自らにたった一人だけ、繋がりがあることを。彼だけは、孤独であった西條の立つ場所に立つことが出来ることを。
それは幻想ではなく事実だった。彼のその強さは間違いなく、西條と共にいられるだけの高みにあった。
それ故に彼女は、東城大輝を愛していた。
たった一人の他の誰でもない彼だけが、自分の渇き切った世界に潤いをくれる。
――だから、と彼女は思う。
もしも彼に死の危険が迫るなら。彼のように、何かが起こる前に全てを収めて見せようと、そう決めた。
彼を護る。
その為には何を犠牲にしても構わない、と。