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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第4部 クレイジー・スノー

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第2章 驟雪 -3-


「断る」


 放課後、生徒会室に出頭するなり開口一番に東城はそう言った。

 今日もどうやら他の執行部のメンバーは帰しているらしく、また二人きりの状況だ。


「……まだ何も言ってないわよね?」


 有無を言わせぬ問いよりも早い即答に、西條は深くため息をついていた。


「そんなにおねーちゃんのこと嫌い?」


 若干悲しそうな目をしているが、それが演技であることが見抜けないほど東城も馬鹿ではない。その手は七瀬の方がよっぽど上手くやってくるので慣れているのだ。


「嫌いも何も、少なくとも戸籍上はあんたと俺は兄弟じゃねぇだろ」


「……つまり、義理の姉萌え?」


「違うに決まってんだろ。あと実姉だけど戸籍上は姉弟じゃねぇんだから、義理の姉とは真逆だろ」


 いつもよりキツめのツッコミになるのは、東城が彼女を警戒しているからだ。

 何かが怪しい。

 というよりも、全部を怪しく見せることで何か重要なことを隠している。

 そんな気がして、東城は彼女に心を開くことが出来ないでいた。


「うー。せっかく弟が出来て嬉しかったのになぁ」


「その目は弟が出来たことを喜んでるって目じゃねぇんだよ。何て言うか、新しい玩具を見つけた子供の目だ」


 東城はため息交じりに言うが、そろそろこの押し問答にも意味がないことは理解している。どちらかが折れるか、あるいは、折れる為の協定を結ぶ必要があるだろう。


「それで、何の用だったっけ?」


「それも聞かずに断っといてよく言うわねぇ……。まぁ、お察しの通り執行部入りの話なんだけど」


 西條はこめかみのあたりを押さえていた。どうやら、弟云々は別として、副会長不在ということに多少なりとも疲れは溜まっているらしい。


「――それでも、俺はやらないぞ」


 疲れたことをアピールされて多少心は揺らぎそうになったが、それが死亡フラグであることも理解している東城は断固として拒否する。

 その揺らがない態度に西條は気を悪くしたようで、唇を尖らせていた。


「でもねぇ。生徒手帳に記載れている校則には、生徒会長には役員の指名権があるけど、生徒会を構成する一般生徒の拒否権について記載されていないのよねぇ」


 校則をほとんど暗記していることにも驚きだが、それ以上に無茶苦茶なことを言い出したことに東城は驚きだ。


「横暴だろ、そんなの! 人権侵害もいいトコだぞ!?」


「それは最高裁判所にかけ合ってくれるかしら?」


 にっこりと、満面の邪悪な笑みで西條は返してきた。


「っのクソ会長……っ」


「言葉づかいの悪い弟くんは嫌いよ? ――とまぁ、それは置いておくとしても。やっぱり同じ仕事をする仲間なんだから無理矢理引きこむのは意味ないわよね。効率も悪いだろうし、執行部の雰囲気が壊れるだろうし」


 ここに来て何故か西條が引いていた。その意図がまるで分からない東城は、むしろ身構えてしまう。


「というわけでさ。勝負しよっか」


 やはりと言うべきか、出されたのは突拍子もない提案だ。


「……勝負?」


「そう。それも大輝くんの一番得意な土俵のはずの能力戦でいいわよ。勝敗は次の一撃で絶対に相手を殺せる状況に相手を追い込むこと。どうかしら?」


 カードゲームやボードゲームなどではおそらくだが東城の方が不利だろう。単純な体力勝負は男女の筋力差があるから成り立たない。

 だが、最強の名を冠する東城と元々その名を冠していたはずの西條の能力戦ならば、互角の正々堂々とした勝負になるはずだ。


「あんたが勝てば、俺が副会長入りするってことか? 俺が勝ったときのメリットは?」


「勝った方が負けた方の言うことを何でも一つ聞くっていうスタイルよ。だから大輝くんが勝てば、わたしを好きにしていいのよ?」


 確かにそれなら、東城の側にメリットがないこともない。勝てば今後一切関わるな、と命じられるのだから。


「……つっても、男子相手に無自覚にそういう条件出すのはどうかと思うけどな」


「うん? 大輝くんはおねーちゃんにいやらしーことさせる気なのかしら?」


「違う。俺じゃなかったらそうなってるかもしれねぇぞっていう忠告だ。あとそのおねーちゃんっていうのが鬱陶しい。思い出も何もない、単に遺伝子的なものでしかないんだろ」


 東城が冷たく突き放すように言うと、何故か西條は怒るでもいじけるでもなく、にやりと笑った。


「じゃ、まずはわたしが勝ったら、おねーちゃんって認めてもらおうかしら。いつでもどこでも真雪姉と呼んでもらっちゃうわよ?」


「副会長の件はいいのかよ。まぁ、俺が勝ったら――」


「あぁ、いいよ。言わなくて。どうせわたしが勝つに決まってるんだから」


 挑発するような声音ではない。ただ純粋に、彼女は東城に負けるはずがないと確信しているのだ。

 その一言が、東城の闘争心に火を付けた。


「あんまり舐めるなよ、俺の燼滅ノ王を」


「だから初代はわたしだってば。氷雪ノ教皇にして掃滅ノ姫。あまりの強さにその存在を抹消されたレベルS。たかだか最強くらいで、粋がってちゃダメよ?」


 燃えるような視線と、極寒の視線がぶつかり合う。

 研究所そのものを揺るがした二人の最強の戦いが、始まろうとしていた。



 場所は変わって、地下都市第4階層。

 元々は残されていた能力者が解放されたときの為の居住区装になる予定だったのだが、レベルS三人が暴れて破壊したこともあってまだ完成のめどは立っていない。

 今では予算の都合でその内の一区画の開発を諦め、建前上は自警団に志願する能力者の鍛錬場として使われている。

 そこに、東城は西條と共に訪れた。

 だいたい学校の体育館と同じ程度の広さに、あるのはコンクリートの壁と天井、埋め込まれた証明のみという灰色の世界。

 流石に四六時中ここを訪れて暴れる能力者もいない(そもそも建前だけは立てて造ったものの需要はあまりない)ので、当然のように二人で貸し切り状態だ。


「広いわねぇ。それに完全にコンクリの打ちっぱなしなのかしら」


「呑気にしてる場合かよ。そろそろ始めようぜ」


「そうね。いつでもどうぞ」


 ぐっぐっと屈伸したりして一通りの柔軟を終えた東城の忠告も、西條は適当に受け流した。

 その態度に、流石の東城もキレた。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 西條の言葉を訂正させてから堂々と勝負をする気も失くした東城は、一撃で沈めることに決めた。

 両の掌から業火を噴き出し、西條へ向かって一直線に突進する。もはや東城の常套手段とも言える高速移動だ。余程の能力者でなければこの速度に反応することも敵わない。

 だが西條はその場で動かず、一切避けようとしなかった。


「突進は視界が悪くなるから、気を付けた方がいいわよ?」


 言葉の直後だった。

 東城の視界から西條が消えた。

 ――否。

 東城の視界の全てが、真っ白な何かに埋め尽くされたのだ。


「――ッ!?」


 炎を逆噴射させてその場に急停止した東城だが、視界は純白の何かに上塗りされたまま一向に回復しない。


(何だ、これ……っ?)


 唐突に視界が奪われるという現象が、異常な不安を駆り立てる。周囲の音も暴風雨のような雑音ばかりで、西條の気配一つ感知できない。


「疑似的なホワイトアウトよ」


 その雑音の中で、澄んだ綺麗な声がした。

 ただし、背後から。


「雪山とかで猛吹雪のときに起こる現象よ。こんな平坦な場所じゃただの目くらまし程度にしかならないけどね」


「――ッ!」


 とっさに振り向こうとする東城の背に、鈍い痛みが走る。何か鈍器のようなもので殴りつけられたらしく、無様に前に転がった。

 おそらくは氷塊か何かを叩きつけられたのだろう。だがその手の攻撃は二か月前との神戸との戦いで経験済みだ。タングステンの槍と真正面からぶつかり合った東城からすれば、たとえ背後からの攻撃であろうと致命傷を避けることは容易い。


「見えないはずなのによく避けられたわねぇ。思ったより肉体自体のポテンシャルも高いのかしら」


「舐めんじゃねぇって言っただろ!」


 背後からの攻撃と今の声から西條のいる位置を逆算し、東城はそこに蹴りを繰り出した。

 視覚が役に立たないとは言え、これでもかなり正確な位置は掴めたはずだった。

 だが、返ってきたのは堅い感触だけだ。


「もうちょっとで鳩尾に食い込む病院送りコースだったかしらね。女の子相手に容赦がなさすぎるのはどうかと思うわよ?」


「氷の盾ってところかよ……っ」


 この状況はまずすぎる。

 東城は視覚も聴覚もまともに使えない。一度西條が黙ってしまえば、もう東城では西條を捕捉できないのだ。

 あまつさえ、無理やりにねじ込んだ打撃も彼女の氷の盾に阻まれる。

 この状況のまま長期戦に持ち込まれれば、反撃の手がないままいつ来るか分からない攻撃に怯え精神力を削られ、どんどん不利になっていく。


「――まぁ、このままならな」


 東城は呟いて、自分を中心に爆発を起こす。周囲を取り巻く吹雪を蹴散らし、元の視界を東城は取り戻した。


「よう。そんなところにいたのか」


 初めから長期戦にしようとしていたのか、それとも東城が爆発で吹き散らすことを予期していたのか、西條は東城の真後ろの十メートル近く離れたところにいた。


「――優しいねぇ、大輝くんは」


 西條はそうして状況を覆されたことに驚くでもなく、ただ笑っていた。


「ホワイトアウト状態はわたしの視界も覆われる。まぁ雪自体の接触知覚で補填は出来るけど完全じゃないのよ。それを大輝くんは分かった上でわたしが突然の攻撃で火傷まで負わないよう、温度を調節した爆発だけで吹雪を吹き飛ばした。――これは、優しさよね?」


「好きに受け取れよ」


 東城も笑って答えて、西條へ真っ直ぐに突進する。

 遠距離での爆発で攻め立てるという手もあるし、そちらの方がより安全に勝利へ近づけることも理解している。それでも、東城は正面から突撃した。


(――これは、日高(ひだか)(くろがね)を馬鹿に出来なくなってきたな……)


 戦うことが楽しいと、そう思ってしまう。

 日高や鐵のように、善悪は別としても戦うことを楽しめる人間に東城は確かに近づいていた。命が懸っていないという安堵があるせいかもしれないが、それでも東城はこうして戦闘という行為に快楽を覚えつつあったことには変わりない。


「――戦うことが楽しいのかしら?」


 そんな東城を見透かすように、西條は笑って問いかける。

 目の前に迫った東城の拳を、氷の盾一つで防ぐ。


「――それとも、おねーちゃんと遊べることが嬉しいのかしら?」


「んなわけ、ねぇだろ!」


 拳が盾に密着した状態で、東城は右手に火炎を生み出した。その状態で氷を溶かし、そのまま西條を押し切ろうとする攻撃だ。


「甘いわねぇ。その程度で、レベルSの氷が溶かせると思っているのかしら?」


 西條の氷の盾は一ミリたりとも削れない。東城の炎によって上昇するはずの氷の温度を、温度操作で強制的に零度以下に保っているのだ。

 舌打ちし、東城は離れようとバックステップした。――はずが、右の拳が盾に張り付いたまま動かない。


「あれ。おねーちゃんの傍を離れたくないのかしら?」


「ふざけやがって……っ!」


 見れば、東城の拳を蝕むように薄い氷が這い回り、東城と氷の盾を繋いでしまっていた。

 危機的状況だ。だが、東城はそれでも楽しいと思えていた。


「――炎は無理でも、流石に高温のプラズマ相手なら相殺じゃ済まねぇよな?」


 東城の腕に猛る炎が、溶けた金属にも似た真っ赤な光のラインとなる。瞬間、西條の能力に温度を固定されているはずの氷の盾から水蒸気の煙が僅かに立ち昇り始めた。


「うわぁ、危ないわねぇ」


 だがその光景に焦ることもなく、西條はすぐさま氷の盾を切り離して東城と距離を取った。

 力は拮抗しているように見える。

 だが、東城は西條の攻撃を初見で後手に躱すのに対し、西條はまるで予見していたかのような動きで東城の初動よりさえ早く躱していた。

 結果は変わらずとも、この僅かな差異は決定的なほどのレベルの差の表れだ。


「――はは」


 思わず、東城は笑ってしまった。

 いつぶりだろうか。それとも最早、初めてなのではないだろうか。

 たとえ殺意を持って戦おうと、勝てる気がしない相手は。

 神戸やヒナとの戦いは、相手を殺さないという制約があった。所長との戦いは、二度とも自身の能力が消されていた。

 だが、これは違う。

 全く対等の条件で戦っている。だというのに、一撃たりともこちらの攻撃は当たらない。既に西條からは背中に一撃を喰らっているというのに、だ。


「――認めるよ、あんたとの戦いはすっげぇ楽しい」


「嬉しいわね」


「正直な話、俺はあんたのことは口で言うほど嫌いじゃないのかもな」


 それは血縁という、絆よりも強い繋がりがあるせいかもしれない。同じイクセプションということで、何かが共鳴しているのかもしれない。

 どちらにしても東城はこうして西條と戦えることを楽しんでいる。たとえ東城が勝ったとしても、西條に「自分とこれ以上関わるな」などという命令は出さないだろう。


「じゃあ、もうわたしをおねーちゃんだと認めてくれるのかしら?」


「それとこれとは話が別だ。――それに」


 東城はにやりと、どこまでも不敵に笑った。


「自分より弱い奴を姉として敬う気なんか、俺にはねぇよ」


「言ってくれるわね」


 その言葉に、西條の眉がピクリと動いた。


「口の悪い弟くんには、ちゃんと躾をしないといけないわよね」


 西條が右手を振った。

 キンッ、と金属が鳴るような不思議な風切り音がした。

 驚くほど純粋で透明な、一メートル弱の細い棒とも帯ともつかない武器。目を凝らさなければ見えないそれは、間違いなく一昨日の夜に見せられた氷の剣だ。


「こっちも、流石にバカじゃねぇぞ」


 東城もプラズマの棒を刀状に成型し、右手で握り示す。形状の操作に演算力を割り振ることで、物理的な硬度を疑似的に再現した代物だ。硬度に関しては信頼しても大丈夫だろう。

 西條が剣を正中線に構え、東城は右手からだらりとさげたまま、互いに互いの出方を窺っている。

 痛いほどの緊張感。

 殺気はなく、ただ幾重にも張り巡らされる攻防の読みの気迫だけがそこに乗っている。

 そして何を合図にするでもなく全く同時に東城と西條は一足で間合いを詰め、その剣を振りかぶった。

 音はない。

 ただ、互いの剣がぶつかり合ったまま制止していた。

 膠着状態。ここからの一歩で勝敗が――


「――決する、とか思っているのなら、それは間違いよ」


 その状態でも西條の笑みはまるで崩れはしない。


「何を言って――ッ!?」


 そこで東城は気付いた。

 プラズマの刀が、その輝きを失って消えていく。


「――ッ!」


 とっさに東城は後ろへ跳び退り、西條と距離を取る。だがそれでもそこは安全な距離とはとても言えない。東城の武器の要であるプラズマが消滅させられた。その事実は、単に一歩上手を取られたという以上に危機的な意味を孕んでいた。


「簡単な算数の問題よ」


 対して西條はこの好機に追撃するでもなく、歌うように言いながらゆっくりと東城との距離を詰める。


「わたしと大輝くんの演算能力は同等、氷の剣にはあらかじめ一定の硬度がある為、形状を操作し続ける演算は不要。対して大輝くんはその演算が必要になるよね。――では問題です。演算能力を形状に振り分けなくていいわたしは、一体どこに割り振ったでしょう?」


 答えなど、決まっている。

 温度の操作だ。

 つまり西條は氷の温度を極低温に保ち続けることで、プラズマの熱エネルギーを奪い、結果として東城にプラズマを保持させることを不可能にしたのだ。


「と言っても、わたしには代わりに大輝くんみたいな高速移動の術を持っていない。あるのは暗黒期に培った反射神経と身体能力だけ。――でもこの一対一の対戦条件下なら、その不利も一定以上は覆せる」


 そして、代わりに東城の能力としてのディスアドバンテージだけが残るという仕組みだ。


「――そんなに簡単に俺が諦めるわけがねぇよな」


「分かっているよ。だから、ここでチェックメイトにしよう」


 パチンと西條が指を鳴らした。

 同時、東城の首筋に冷たい感触があった。

 宙に浮いた氷の剣が、東城の首にあてがわれていたのだ。


(いつの間に、どうやって――ッ!)


 遅れて、気付いた。

 最強の液体操作能力者である七瀬は、得意の渦を昇華させた水のランスを中に留めていた。同じことが西條に出来ないはずがない。

 まして、ここは初めのホワイトアウトの時点で大量の雪が撒かれていた。その中の雪から氷の剣を生成し、期を見計らって背後から串刺しにすることなど容易いのだろう。


「まずはわたしの勝ちかしら?」


 認めたくはない。だが、対戦の形式上は今の一撃で東城を確実に殺せたのだから、これはたとえどれだけ言い張ろうと東城の敗北だ。


「――……もう一戦だ」


 負けを認める代わりに、東城はそう言った。

 ただの負けず嫌いでしかない。まだ西條に勝つ方法が見えているわけでもない。それでも、やはりこのまま負けたままでいるのは東城の性には合わない。


「いいけれど、そういうときは頼まないといけないわよね?」

 満面の悪魔のような笑みを浮かべて、西條は問いかけていた。その口は楽しさが漏れ出てか、犬や猫のように口角だけが微妙に上がっている。


「っぐ……。もう一戦、お願いします……」


「でもその前に、わたしが勝ったときの命令を聞いてもらわないといけないわよね」


 さらに嫌らしい笑みで、西條は東城を舐めるように見ていた。


「な、何をさせる気だ……?」


「言ったでしょう? わたしを姉と認めさせるって。ではそれを踏まえて、もう一回頼んでみよう」


 星だか音符だかを飛ばしそうなウィンクと共に、西條はさっきよりも楽しそうな高い声で呼びかけていた。


「お願いします、姉さん……っ」


「真雪姉、だぞ?」


 戦闘前に西條がそう呼べと言っていたことは覚えていたが、東城はさりげなくどうにかその呼称から逃げようとしていた。そんな東城に西條は真正面から退路を断っていた。

 どちらにしてもこの呼称をやめさせるには次の試合で勝つしかなく、次の試合を組むには西條に頼みこまなければいけないのは確かだ。


「お願いします、真雪姉!」


 どうせ男のプライドなど柊や七瀬、浦田さんなどの女性陣の前に崩壊させられているのだが、それでもなけなしのプライドを捨て去って東城は叫んだ


「うーん、いい響きだね。じゃあ始めようか、第二戦を」


 西條はそう呼んでもらえたことが本当に嬉しいのか少し頬を上気させながらも、あの透明な剣を構えていた。


「うるせぇ! 絶対勝ってこの呼び方は戻させるからな!」


 東城も東城で照れから顔を赤くしながら、それよりも真っ赤な業火を全身から滾らせて西條に立ち向かう。

 二回目の戦いが、幕を切った。


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