第2章 驟雪 -2-
そんな日の昼休み。
何故かこのメンバーで固定化しつつある東城、柊、白川、四ノ宮はいつものように四人で囲むように教室で昼食をとっていた。
「よぉ副会長。こんなところで弁当食っとってえぇんか? 生徒会室で食えや」
元の糸目を嫌味のような笑みで更に細くした白川が、東城を肘で小突いていた。
「副会長じゃねぇんだよ。その話はもう断ってきた」
弁当を食べ進める箸をくるりと返して、柄の方で白川の二の腕を刺した東城。柄とは言え棒状であるから、結構なダメージを負った白川はその場でカツロールパンを落とさないように悶絶していた。
「――え? 断っちゃったの?」
「生徒会って内申上がるらしいんだし、大輝の成績なら上げといて損はないと思うけど。別に部活に入っているわけでもないんだしさ」
「さりげなく暇人のアホ扱いしてんじゃねぇよ、四ノ宮」
「間違いなくアンタはバカでしょ。この前の課題考査、文系科目がどんだけ悪かったと思ってるわけ?」
柊は東城に呆れたような視線を向けていた。
「おい待て。課題考査がボロボロだったのは前日にお前が転校してきて俺ん家に押しかけてきた挙句に、青葉と色々あったせいだろ」
十日ほど前にそんなことがあった。勉強会と称していたが実際には東城が昼飯を作らされ、エアコンが壊れ、青葉和樹と殴り合っただけだ。
ちなみに青葉和樹というのはかつての東城の仲間で、レベルCの時間操作能力者の時ノ旅人だ。柊に惚れているらしく、事あるごとに東城に突っかかって来るので東城は彼を嫌っている。いわゆる犬猿の仲というヤツだ。
「だから俺の点数が悪くても――」
「でも私は満点だったわよ? それも、転校した次の日に」
ぐうの音も出なかった。
理系科目が満点なのは東城も同じだが、それは能力者を使う為に遺伝子操作や薬物投与によって、幼い頃に演算能力を拡張されたからだ。高校レベルの数学や物理など足し算との難易度が変わらない。
とは言え、文系科目の点数の差はそのまま東城の素の頭の悪さと柊の頭の良さを表している。
「ま、まぁアレだ。俺は何だかんだで忙しいから生徒会なんて面倒なことを引きうけている余裕はねぇんだよ」
「ごまかしたわね……」
図星であるので、柊に言われたことも聞かなかったふりをして無視する。
「あぁ、でも大輝って確かに忙しそうだよね。しかも学校をサボるくらい」
「……その節は大変お世話になっております」
学校をサボったり抜け出たりするときの言い訳を四ノ宮に頼んでいる東城は、深く頭を下げるしかなかった。ただし「お世話になりました」とはならないのが大事なところだ。
「まぁ、何しとるかは知らんがな」
「含みのある言い方してんじゃねぇよ、白川」
「はっ。まぁどうせ浦田ナースとイチャついとるんやろ?」
白川は笑い飛ばして、食べ終わったパンの袋をぐしゃぐしゃと丸めていた。
彼は知らない。
東城がそうしてサボる度に比喩でも過剰表現でもなく、真剣に本当に嘘偽りなく完治するのが不思議なほどの大怪我を負って、あと一歩で死ぬかもしれないところまで戦っているということを。
「……大輝」
「落ち着け柊、そんなナイフみたいな目で俺を睨むな。白川の推測は事実無根だ、フィクションだ」
そもそも、白川と違って彼女は東城が学校をサボる度にどんな目に遭っているかは知っているはずなのだが、ヤキモチというのは真実とは関係ないらしい。
「……まぁ、私には関係ないけどね。別にいつでも病院に行けば?」
「そんな目で睨むなよ……」
ぷいっ、と顔を逸らされた東城は、ため息交じりに短くツッコむしかなかった。下手なセリフは死亡フラグだということはここ二カ月で嫌というほど学んだ。
「まぁこれから先もそんなに忙しいことにはならないのが、一番いいんだけどな」
それが希望的観測なのは東城が一番理解している。というより、西條との交流を持ってしまった時点でもはやその希望はただの叶わぬ願望になり下がっている。
「まぁ忙しいかもしれないけど、やっぱり大輝が生徒会入りしてたら面白いよね。友だちが生徒会役員って、きっと色々便利そうだし」
「便利って……」
実際に生徒会役員になったら、役員でもないのに四ノ宮が裏の権力者になる様子が目に見えるようだった。
「せや! 副会長になるんやったら校則を変えて、女子のスカート丈を五センチ短く――」
「死ねばいいのに」
横にいた柊が極寒の視線で白川を射殺していた。それどころか周囲の女子にも聞こえていたらしく、まさしく白川は針のむしろ状態だった。
「じ、冗談が通じへん……」
「え? 冗談だったんだ?」
「お前の場合は素行がアレだからな。冗談には聞こえなくて当然だ」
「お前ら、俺が傷付かん人間やと思っとるんか……?」
目に涙を浮かべている白川だったが、完全な自業自得なので東城も四ノ宮もフォローしない。そもそもこんな状態でフォローしようものなら東城たちまで女子の敵扱いだ。
「……まぁそんな冗談はともかくとしてやな」
そして意外と言うべきは予想通りと言うべきか、立ち直りは早かった。
「東城がならへんのやったら、俺が立候補しようかな」
「どうしたんだよ、お前もそういう面倒なの嫌いだろ?」
そんな問いに白川はふっと笑って、
「だって会長、超美人やったし」
何の反省もせずにそんなことを言って、クラスじゅうの女子から冷たい視線を浴びていた。
「まぁ動機はともかくとしてもさ、雅也には無理だよ。今なら選挙とかはないかもしれないけど、一週間もしない内に教職員からリコールされるだろうね」
「……さりげなく酷いな、四ノ宮」
全く悪びれる様子もなく白川の心をへし折った四ノ宮に、東城は軽い戦慄を覚えたほどだ。
――そんな中だ。
昼の校内放送も終わろうとした中で、ピンポンパンポーン、という呼び出しに使われるありきたりな電子音がしたのは。
『えー、一年一組東城大輝くん、一年一組東城大輝くん、放課後、生徒会室に来て下さい。繰り返します――』
聞き覚えのある声だった。
というより、このタイミングで東城を呼び出す人物など一人しかいない。
「この声、生徒会長やな……」
「あんのクソ会長! まだ諦めてねぇのかよ!?」
ガタリと立ち上がって東城が怒鳴るが、当の本人がここにいないので何の意味もない。
「これは大輝に分が悪そうだよねぇ。会長さんはすごく強引っぽいし、大輝は押しに弱い上に困ってる人は助けずにいられないお人好しっていうタイプだし」
「ふざけんな。どう考えてもあの人の玩具にされるの確定してるじゃねぇかよ」
東城の魂の叫びも、柊たちは何故か生温かい目で見るだけで聞き流していた。
「ま、断れるなら断ってきなよ」
「ちなみに俺は東城が断れへん方に全財産を賭けるわ」
「その賭け、誰かが大輝が断る方に賭けないと成立しないわよ?」
「うるせぇよ!」
三人が三人とも割と酷いことを言っていたのに対してツッコミのように怒りつつも、東城は八つ当たりも出来ずに地団太を踏むしかなかった。
お気に入りがちょっとずつ減って評価ポイントも減少しているので、お暇な方はぜひ評価をm(_ _)m




