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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第4部 クレイジー・スノー

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第1章 真実と姉 -6-


「ねぇ」


 地下都市を歩いていく東城に、柊が声をかけた。


「何で逃げるように出てきたの? 一応はお姉さんなんでしょ?」


「関わりたくないだけだ」


 面倒事は基本的に嫌いなのが東城だ。とは言え、無関係な事件に首を突っ込んで死にかけたというヒナの件があるのだから、その信条はあまり意味を成していないが。


「あら。ですがせっかくの肉親ですわよ? 無下に扱うべきではないかと思いますが」


 確かに七瀬の言うことももっともだ。

 超能力者は皆人工的に生み出されているせいで、家族というものが存在しない。だからこそ仲間を大事にする傾向があるのは、落合(おちあい)たちを見ていればよく分かる。

 彼らが願っても手に入れられないのが肉親であるのなら、それを望む望まざるにかかわらず手に入れてしまった東城は、やはり彼らを思って多少は温かく接するべきなのだろう。


「別に本当にあの人を嫌ってるわけでも警戒してるわけでもねぇんだよ。――ただ、な」


「ただ?」


「あの人の目が、そっくりなんだ。――浦田(うらた)さんに」


 そのことを思い出して、東城は軽く身震いした。

 浦田夏帆(かほ)。東城の保護者であるオッサンの病院でナースを務める、うら若き二十五歳の女性だ。

 思えば初めて会ったときから浦田さんにはさんざん遊ばれていた。怪我をすればそこをつつこうとしてくるし、東城が抵抗できないときは何故か恋人ごっこを強要して恥ずかしがる東城を動画に収め、東城が真に困っているなら助けてくれるが、そうでなければむしろもっと困った状態にしてくる。

 そんな風に浦田さんにいいようにされてきた東城としては、もうこの手のタイプとは距離を置きたかった。そんな子供じみた理由で西條とは別れたのだ。


「浦田さんって、誰?」


 もちろん柊も七瀬も東城の交友関係など知らなければ、浦田ナースの存在も知りはしない。


「オッサンの病院の従業員だよ」


 素直に答えようかとも思ったが、この二人の前で女性の話題を振るのは危険な気がした。というわけで下手に嘘はつかずにごまかそうとしたのだが――


「あら。ナースですか?」


 一発で看破されてしまった。


「俺、ナースなんて言ってないよな?」


「ですが、誤魔化されるのならばそう言う事なのでしょう?」


 どうやらモロバレだったらしい。


「ふーん。大輝って、ナースのお姉さんとも知り合いだったんだ」


「な、なんか視線が冷たくて痛いんだけど……?」


 柊が目を細めて、じとっと東城を睨んでいた。何も悪いことはしていないはずなのに、何故か東城は冷や汗が止まらない。


「別に何でもないわよ。それで、その浦田ナースにお姉さんごっこしてもらってるから大輝は本物のお姉さんは要らないと?」


「してねぇよ!」


 そんなことをする人間だと本当に思われていたのなら、東城はショックで立ち直れないところだ。


「ただアレだ、さっきの西條さんみたいにすっげぇ俺をからかってくるんだ。――言っとくけどな、お前たちもたまにあの二人と同じ目してるぞ? 特に七瀬とかな」


 主に東城を困らせようと冗談を言ったりして修羅場を演出するときはその眼をしている。柊の転校初日のあの意地悪そうな笑顔は今でも忘れられないし、七瀬のあの目はもうデフォルトに近いものがある。


「あら。そうでしたらきっとその眼は輝かしく愛らしい素晴らしい瞳なのですわね」


 そんな七瀬がしれっとそんなことを言った。


「……アンタ、どっからそんな自信が出てくるのよ」


 柊も半ば以上呆れた声でツッコむしかないようだった。


「まぁともかくだ。どっちにしてもこれ以上あの人と関わる気はねぇよ。能力者絡みで結構な頻度で戦いに巻き込まれてるのに、生徒会の副会長なんて引き受けてる時間はねぇし。――第一、高レベルの能力者との接触はそれだけで何かのフラグだろ」


 流石の東城も、この二カ月程度でそれは学んでいる。誰かを見殺しにする気はないとはいえ、それでも自ら死地を呼び寄せる気などさらさらないのだ。


「……ですがその理論ならば、こうして話し合いの時間を設けた時点で大輝様の言うフラグは成立してしまっているのでは?」


 七瀬の指摘に「うぐっ」とつっかえてしまった東城だが、咳払いしてなかったことにする。


「んん。別に今生の別れってわけでもないんだし、だったら別に姉だと気遣ってべたべたする必要もないだろ。だから俺は平凡な生活を送るとするよ。そう、平凡な生活を」


「それが最強の超能力者に送れるんならね……」


 柊の残念な子を見るような眼には気付かなかったふりをして、東城は地上に出る為の瞬間移動能力者(テレポーター)の指定する地点を目指した。



 ――しかし、その翌日。

 当然と言えば当然ながら、西條真雪の手によって東城のささやかな願いは木っ端微塵に砕け散ることになる。



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