終章 終わりと始まり -1-
「……なぁ、これでいいのか?」
ビルだったものを囲んでいる工事用のフェンスの傍で、青葉は傍にいる七瀬に問いかけた。
ここからでは中の様子は分からない。だが表情を鎖して出てきた神戸から事情は聞いた。全て、終わってしまったのだ。
「えぇ。わたくしの役目は大輝様を無事に戦場へ送る事。そして、大輝様を傷つけずに勝利へと導く事ですから。これで、良いのですわ」
「そうじゃないだろ。このまま美里と大輝に会わなくていいのか、ってことだ」
「会えると思いますか? あの二人の間に割って入って?」
自嘲気味に七瀬は笑っていた。
会えるはずがない。
七瀬では、また東城の立つ傍にはいられない。
「――遠すぎますわね」
七瀬は空を見上げて、ひとりごちた。
あれほど雷鳴を轟かせていた豪雨は嘘のように晴れて、雲の隙間から暑い日差しが差し込んでいた。
「……諦めたり、するのか?」
青葉の言葉は、至極当然だっただろう。これだけ東城と柊、二人の絆を見せつけられたらそう思わざるを得ない。
「あら。随分と弱気な発言をするのですわね。そういった言葉は、本人が同じ状況に立っている時に考える選択だからこそ出るものですわよ?」
七瀬の言葉に青葉は答えなかった。答えず、ただ七瀬の答えを待った。
「……このわたくしが、諦める訳がありませんわ」
その青葉のまっすぐな瞳に、七瀬は応えた。
「何年経とうと何十年経とうと、わたくしはきっと大輝様を愛し続けます。ですから、まだまだこれからですわ」
七瀬はもたれかかっていたフェンスから背を離す。そうして自らの足で立ち、青葉を真っ直ぐに見詰めた。
「わたくしは、諦めの悪い痛い女ですから」
完璧な笑みをたたえて彼女はそう言った。その笑顔は、あまりに眩しいものだった。
「……俺もだよ」
青葉はにやりと笑った。
「また今度、大輝に伝えてくれよ」
「何でしょう?」
青葉は、びしっと指を三本立てた。
「三年――いや三カ月だ」
青葉もまた自らの足で立ち、そして宣言した。
「三カ月で、大輝の立つところにまで行ってみせる。そんで、あいつを押しのけて俺が美里を守るんだ」
それはただの強がりでも、宝くじが当たる夢を語るようなものでもない。
真っ直ぐに、その道を突き進むことを、彼は決めたのだ。
「……柊美里ですら、そこに辿り着くのに七年も掛っていますわよ?」
「なら超えるさ。美里にすら負けてちゃ、大輝になんて届くはずがないからさ」
はっきりと、恥ずかしげもなく青葉はその夢を高々と声に出していた。
それが、それこそが、きっといつの日か彼の力になるのだろう。
「頑張ってくださいな。それが、虚言や妄言にならないように」
「いちいち、言うことが嫌味っぽいな……。お前、モテないぞ?」
「あら。好きな方の前ではとても素直で優しいので問題ないですわ」
しれっと七瀬は言った。変わらず、変わることなく、今の自分のままで東城の傍へ行くと、そう宣言するかのように。
「じゃあな」
「えぇ」
そう言って、七瀬は青葉を見送った。
そして、一つ息を吸う。
「……負けませんわよ」
その呟きは風に浚われ、空へと昇っていく。




