第4章 再び -6-
「わたくしの、勝ちですわね」
一切の傷を負うことなく、水のランスを握って七瀬は立っている。
目の前には、意識を失った下野がいた。
青葉をほとんど無傷で圧倒できる能力者を、七瀬は完全な無傷で叩きのめしたのだ。
「……すげぇ」
思わず、青葉は感嘆の声を上げていた。
超えたいと願っていた東城の前に、こうして青葉は七瀬の力を見せつけられた。
だからこそ、もっと東城を遠く感じてしまう。
「えぇ。これでももっともレベルSに近いと自負していますので。――ですから、大輝様はもっと遠いのですわ」
青葉がそれに気付いているのを知りながら、七瀬はそう言った。自慢ではなく、何かもどかしさのようなものを込めて。
「近づくしか、無いのです」
七瀬は呟いていた。青葉に語りかけるような口調ではなかった。それはまるで自分に向けているようだった。
「たとえたった一歩であろうと。彼が進むその道を彼に追いつくまでずっと、ですわ」
七瀬は水のランスを消して、儚く壊れてしまいそうな笑みを湛えていた。
「ですからまずは、大輝様の下へ馳せ参じると致しましょうか」
「知っているんですね、彼の居場所」
そこに。
誰かの、聞き覚えのある声がした。
「教えてください」
振り向いて、七瀬も青葉も言葉を失った。
目の前にいる少年を、この二人が見間違えるはずがない。
青葉にとって、彼は誰よりも信頼していた仲間で、裏切りの象徴でもあった。
七瀬にとって、彼は全ての恐怖の根源で、ここにいるはずのない人間であった。
「お、まえは……」
「どうして、貴方がここに――」
「そんなことを話している場合じゃないです」
はっきりと、その少年は言った。
かつての脆い覚悟など、そこにはない。彼の瞳には誰かから受け継いだ業火が宿っている。
「終わらせたいんですよ、僕の手で」
ぎゅっと、彼は拳を握っていた。幾度となく血で染め、全てを壊そうとしたその拳を。
「また彼に任せるわけには、行かないんだ」
そして、彼が歩み寄る。
全てを終わらせられるたった一つの方法を持つ、その少年が。




