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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第3部 グレア・ガスト

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第4章 再び -3-


 あまりの衝撃、爆音だった。

 倒れ伏し、意識を失っていた柊はそれで目を覚ました。


「な、に……?」


 ぐらぐらと頭が揺れるが、それでもどうにか状態を起こして辺りを見た。

 意識を奪われる直前に見たのはビルの外の風景だった。

 だが今の目に飛び込むのは瓦礫の山しかない。それ以外が、この場には存在しなかった。


「よォ、お目覚めだなァ」


 後ろから、その声は近づいてくる。


「アンタ――ッ!」


 柊が振り向いた先にいたのは、多少の土埃に白衣を汚してこそいるが、何食わぬ顔で嘲笑う所長だった。


「恐ェ顔すンなよォ。まだテメェには手ェ出してねェだろォがァ」


「この状況は何? 答えないと、場合によっては――」


「答える義理はねェがなァ。テメェがオレに牙を剥いたところで、オレには脅威にはなりえねェしなァ。――だがまァ、冥土の土産くらいはくれてやるよォ」


 そう言いながら、所長は何かを柊の下へ投げた。からからと滑って柊の目の前で止まったそれは、コンバットナイフ。

 柄まで赤黒い血に濡れた、禍々しく輝く凶刃だ。


「――ッ」


 この状況でそれが出された時点で、もう柊は察した。

 この血液は、東城のもので。

 この状況は、所長と東城が戦ったが故に生じたものだと。


「気付いたかァ?」


 所長は顔を歪んだ喜びに歪めていた。

 ならば、この現状は。

 この瓦礫の山の中で、東城が一向に姿を現さない理由は――


「――っぁぁぁあああああ!!」


 柊の中で、何かが弾ける。

 心の中のどす黒い部分が、一気に溢れ出る。

 爆発のように雷が柊の周囲を埋め尽くす。彼女を押さえつける鎖すら、アースの役割すら果たせず放電の衝撃波だけで砕け散る。


「危ねェなァ」


 だがその柊の爆発にも似た放電にも、所長はただため息をつくだけだった。

 所長の前に現れたプラズマの壁が、柊の電気を全てあらぬ方向へ受け流していったから。


「――う、そ……っ!?」


 その力は、見間違うはずもなく東城の燼滅ノ王と全く同一だった。

 頭が、理解を拒む。

 この全てが歪んでしまった男と、自分が心から好意を寄せる東城大輝とが、その能力を通して重なってしまう。


 認められなかった。

 こんな人間に東城の何かが奪われるのが、柊にはとても耐えられない。

 だが、しかし。

 現実として、所長はプラズマを自在に操っている。


「騒ぐなよォ。エキストラの分際でよォ」


 所長の言葉と同時、混乱し身動きが取れなかった柊の頭上から何かが降り注いだ。

 それは真っ赤な籠。細かい網のように作られた、プラズマの塊だった。


「静電遮蔽、くらいは知ってるよなァ?」


 その言葉で、柊は瞬時に理解する。

 理屈は分からないが、彼が東城の能力を有していることは疑いようがない。無効化のマイクロチップに手を加えたといったところだと、柊はほぼ正解に近い推測すら立てていた。

 となれば、これはプラズマで間違いない。要するにこれは鐵がやったことと同じ原理の対柊用の監獄と見て間違いない。


 だが鐵のときのように抜け出すには、問題が二つある。

 一つは、演算能力の差がないということ。

 もしこれが燼滅ノ王ならば、その演算能力は柊と同等。磁力でむりやり捻じ曲げるには、かなりの力量差が必要になるがそれがない。

 第二に、放電で溶かし尽くして逃げ出すという選択がない。

 プラズマは既に溶け電子を放出した後の状態だ。柊ではこれ以上の変化を加えようがない。


「テメェはそこで観戦してろ、霹靂ノ女帝よォ。テメェもアイツと同罪だァ。なら、テメェも絶望の底に叩き落としてやンねェとなァ」


 そうして三日月形のように口の端を吊り上げて所長は嗤う。全身からプラズマを迸らせて、彼は柊をどう甚振るか思案するように、柊を眺め始めていた。


「――させる、かよ」


 ガラガラと何かが崩れ落ちる音がする。


「よォ、無事だったみてェで何よりだぜェ、燼滅ノ王」


「……言ってろ」


 瓦礫を押しのけて立ち上がった東城の姿は、随分と酷いものだった。

 右の肩が完全に潰されている。瓦礫から身を護るために更に犠牲にしたのか、右の二の腕や前腕部が不自然に曲がり、腫れている。破れた服の隙間から見えるものは、肌色ではなく気味が悪いほど赤紫色をしていた。


「大輝!」


「……ひい、らぎか……? 無事だったか……」


 心の底から安堵したように、東城は言った。

 自身の怪我などなかったかのように笑いかけるその姿が、柊の胸を締め付ける。


 ――こんな悲劇のヒロインになんかなりたくなかった。


 ――私がなりたかったのは、大輝を護れるような能力者だったのに。


 そんな想いが溢れ、柊の心を泥のような何かで固めてしまう。

 そんな柊に気付く様子もなく、東城は所長だけを見ていた。


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