第2章 亀裂 -4-
そんな中。
「おい、白川とか言ったな」
「おぉ。そんなお前は青葉というたな」
二人はプールサイドから、東城たち三人を見ていた。
「……俺は柊が好きだ」
「俺は七瀬さんが好きや」
互いに見つめ合い、明後日の方向を向いた告白を互いにしていた。
「恥ずかしげもなくそんなことをよく言えるね……。まぁ、雅也の場合はそれを本人に言った方がいいんだろうけど」
四ノ宮はその二人を半ば呆れながら見ていた。これからするであろう二人の馬鹿な行動を咎める気もないらしい。
「そこで俺は思った。一人、邪魔者がいると」
「奇遇やな。俺もそう思ったところや」
そう言って、白川と青葉はがしっと手を握りあい、歪んだ友情を確かめ合った。
嫌な高笑いを腹の底から出し合って、監視員さんに注意される馬鹿と阿呆の男子高校生二人の姿がそこにあった。
「おーい、大輝」
プールサイドで、青葉が東城に向かって手を振っていた。
「あっちにビーチバレーできるスポットがあんねんて。やりに行こうや」
そしてその横で白川が指差す先には、いくつかの設備の一つとして柔らかいマットの上にバレーのネットが立てられた場所があった。
「いいじゃない、楽しそうだし。私はちょっと泳ぐのに疲れたから丁度いいし」
「そうですわね。ビーチバレーでの大輝様の雄姿も拝見したいですわ」
「まぁ、雄姿を見せれるかは別にして、二人がそう言うならいいか」
そう言って東城たちは白川たちについて行く。その瞬間に、青葉と白川がにやりとしたのだが、東城は気付かなかった。
「さて、ペアは俺と白川、そっちは大輝と四ノ宮でいいよな? 初回だけは女子は審判ということで、あとはローテーションとか」
「ルールは青葉含めて詳しく知らん奴もおるって言うから、適当に交互に打つ感じで、それ以外の細かいルールはナシな。せいぜいタッチネットくらいやな」
二人が半ば棒読みでそんなことを言った。――なぜかあらかじめ打ち合わせていたようなセリフに違和感を覚える東城だが、それは指摘するほどではないとスルーしてしまった。
「僕はパス。とばっちりくらいそうだから」
そう言って四ノ宮は手を振って拒否した。四ノ宮だけはこの後の展開が見えているらしく、真っ先に離脱してしまった。白川たちが止めようとするのを無視して、早々にコートの外へ出てしまう。
「あら。でしたらわたくしが大輝様のペアに」
四ノ宮が東城のペアを外れた瞬間に、七瀬が手を真っ直ぐに挙げて立候補する。
「何で私が観戦しないといけないのよ」
そんな七瀬の様子を見て、柊もむすっとした様子でいがみ合い始めていた。
このままではプールでアルカナ二人の大乱闘が始まりかねないので、東城は丸く収める案を出す。
「分かった。別に試合じゃねぇんだしこっちは三人でもいいだろ? 女子のハンデってことで」
本当はハンデなど要らないくらいの身体能力がこの二人にはあるのだが、それは白川たちがいる以上説明できない。ならばそれを盾にしてしまおうという案だ。
「あぁ、それでも構わないな」
だが、青葉はそれを分かっていてどうしてか真っ先に承諾した。普通なら多少渋ってもおかしくないし、東城が七瀬と柊を独占するような形になるのにそれを快諾するのは、どうしても違和感があった。
「せやな。――むしろそっちの方が無様やな」
そんな白川の呟きは東城には聞こえなかった。
「じゃ、僕は審判をしとくよ」
四ノ宮はやれやれとため息をついてから、審判用の高い椅子に上って腰かけた。
それを見届けて、東城たちはコートの中で適当な陣を作る。
「じゃあ、試合開始ね」
そう言って四ノ宮は用意周到にレンタルしていたと思われるホイッスルを吹いた。それを合図に、まず白川がサーブする。
「どらっしゃあ!」
ものすごい気迫と共に放たれたボールが、一直線に東城に迫る。
「危ねぇな!」
それをどうにかレシーブする。流石の身体能力ではあるが、本来のバレーは相手の真正面にサーブするなどあり得ないせいで、もたついた動きにはなってしまった。
ボールが斜めに跳ね上がり、コートの外へ出てしまいそうになる。
「任せてくださいな!」
無茶苦茶な軌道で上がったボールだったが、それを七瀬が凄まじい脚力をもって追いつき、その体勢からでも跳び上がり直接アタックした。バレーとは思えない動きではあったが、それでもボールは真っ直ぐに相手コートへ向かっていく。
「おぉ、胸が――っぶ!」
などと言っている間に白川の目の前にボールが落ち、東城たちの得点に。
「やりましたわ!」
いつもは冷静だからこんなゲームには興味がないかと思っていたが、七瀬は満面の笑みで喜んでいた。
「おう、ナイス」
そんな七瀬を東城が誉める向こうで、
「何やってるんだ白川!」
「す、すまん……。次はちゃんとやる」
何故か青葉が白川に本気で怒っていた。そこまで怒るほどのゲームではないはずだ。何か罰ゲームをするという約束もしていない。
「――まぁ気にしても仕方ねぇな。そんで、次は俺らの番か」
「じゃあ、私がやるわ。あんな風に打てばいいのよね?」
そう言って柊がボールを高く投げ、ジャンプしてサーブする。
凄まじい勢いかつ無回転で放たれたそれは、残念ながらコースは悪く相手コートの真ん中へ落ちていく。
「あぁ、あの金髪が――ってしまった!」
しかし何かに見とれていた青葉が取りこぼし、今度も東城チームの得点。
「お前こそ何やっとんねん!」
「わ、悪い……」
何故かやたらと二人は真剣だった。何か二人で賭けているのだろうか。
「……意外とあっけないのね」
「いや、ナイスサーブ」
東城はそれとなく誉めると、なにやら敵陣から嫌な気配――というか殺気を感じた。
「白川、もう本気でやるぞ」
「せやな」
ゆらりと立ち上がった二人は位置に付き、今度は青葉がサーブする。
また東城を狙って打たれたそれは凄まじい勢いで迫る。
「だから、危ねぇっての!」
どうにか打ち返した東城だが、勢いに負けてそれは相手コートへそのまま返ってしまう。
「うっしゃあ!」
白川が叫んで、それをトスする。
綺麗にネット前に上がったボールに食らいつくように、青葉がジャンプする。
「死に晒せぇぇええ!!」
青葉が叫んで、渾身の力でボールを打つ。
尋常ならざる速度で放たれたそれは東城に反応する隙すら与えず、真っ直ぐに突き進み、
どがす。
と、鈍い音を立てた。
東城の顔面に。
「……、」
場が凍った。
てん、てん、と顔にめり込んだボールが重力に従ってマットの上に弾むのが、やたらとスローに見える。
「大輝様……」
「大輝……、あ、鼻血出てるわよ……?」
そんな二人の言葉を聞きながら東城は鼻血を拭って、前を睨む。ややうつむいているせいで顔には影が入り、眼だけがぎらぎらと光っている。
そんな東城の姿に気付いていないのか、ネットの向こうでは高笑いしながら「いえーい!」とハイタッチするバカ二人の姿があった。
要するに、こうして東城に恥をかかせることがこの二人の目的だったらしい。
「やったぜ、白川!」
「おう! これで東城の無様な姿を――ぶべら!?」
言いかけた白川の顔面にボールがめり込んだ。
白川が痛みにのたうちまわって悶えるが、そんなことを気にする東城ではない。
「おい、このバカども」
ゆらり、と一歩一歩近づきながら東城は嗤う。
「え、え?」
あまりの威力に青葉が後ずさる。ここまでの反撃は計算外だったらしい。
だが、もう遅い。
ここまでコケにされて引き下がるほど、最強の能力者の肩書は甘くない。
「この俺に喧嘩売った以上は、覚悟は出来てんだろうなぁ……?」
ネットをくぐり、青葉にその魔手を、白川にその毒手を向ける。
「いや、ちょっと待て。これはあくまでスポーツ――」
「何? 上手く聞こえないんだが。殺し合いがしたい?」
ニタァ、とどこまでも凶悪な笑みを浮かべ東城は二人をプレッシャーだけで押し潰す。
「ちょ、誰もそんなこと言ってな――うぎゃぁぁあああ!?」
「うわ待て東城ちょい落ち着――ぎゃぁぁぁああああ!?」
怒りに支配された東城は、その後監視員が来るまでの僅かな間に青葉と白川をボロ雑巾に変えた。




