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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第2部 クロス・ライト
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第4章 閃光の向こう -1-

「あのさァ、アタシも鬼ごっこで喜ぶようなトシじゃねーンだけど」


 気だるそうに言うヒナの前で、日高は荒い呼吸をしていた。既に彼の体中の至るところにレーザーを掠めていて、いくつもの火傷の線が皮膚に浮かんでいる。

 正確にはレーザー自体には触れていない。だが、レーザーの円周の空気自体が既に莫大な熱を持っている。レーザーを躱すだけでは、ノ―ダメージでは済まされない。


「いい加減に、死ねよ」


 あまりに軽く放たれた言葉の後、一度目のフラッシュがあった。

 瞬間、日高は空中へと飛び上がり回避を――


「見飽きたっつの、それはさァ!」


 ヒナが笑う。彼女の照準が、即座に上へと修正される。あのフラッシュが囮だと気付いたときにはもう遅い。正しい三度のフラッシュが、空中の日高を照らす。


「くそっ!」


 日高が空中で姿勢を立て直して、どうにか横へ飛ぼうとする。


「無駄無駄ァ。アンタが掌からしか炎を出せないのなんてアタシだって知ってるんだっつーの!」


 ヒナの言葉どおり、日高は回避まで一度体勢を立て直さなければいけなかった。

 そして、その僅かなラグが明暗を分ける。

 直径三十センチ近い極太のレーザーが、日高を襲う。

 どうにか姿勢を立て直した日高の身体は、既に横へと飛び出していた。――がやはり、間に合わない。

 日高の右腕を、そのレーザーの余波が飲みこんだ。人肉が焼ける、嫌な音と臭いがあった。


「――ッがぁぁああ!」


「あッはァ! イイねイイね! その表情堪ンないよ!」


 ヒナは狂ったように叫び笑っていた。


「く、そ……っ!」


 あまりの痛みと爛れているせいで、日高は腕を抑えることも出来ずだらりと下げたままだった。どうにか躱そうとしたせいで、むしろ接触面積が増えてしまっている。


「ねぇねぇ知ってるぅ? 火傷ってさ、面積で重症度が変わるんだってよ。たしか腕一本で十パーセントとして計算するんだっけ? それで二十パーセントを超えたら超危険らしーよ。あと一本分しかないよー? どうするのかなー?」


 ヒナは本当に愉しそうに、くすくすと笑う。


「ほらもっと避け回りなよ。あ、そうか。晃の能力は掌から炎生み出すことだったっけ。両手で制御するから成功するんであって、片腕じゃ飛べもしねーのかな」


 わざとらしくヒナは言って、日高を見る。


「鬼ごっこは飽きたけど、アタシも随分と子供っぽい遊びが好きみたいでさァ。ほら、子供の頃やらなかった? アリを摘まんで肢をもぐあのゲーム。楽しいんだよねー、あァいう無邪気で残酷なのがどうしようもなくさァ」


 ヒナは日高を指差す。右腕一本の機能を失った、彼を。


「あと一本とかケチなことは言わずにさ、アリになってよ。あと三本、しっかりもいであげるからさァ!」


 直後、三度のフラッシュがあった。

 その状態から日高は横へ跳ぼうとする。片腕が使えない時点で、火炎による加速は諦めていた。倒れるように、ヒナの射撃線から逃れようとする。だが、相手は光速だ。三度のフラッシュが必要と言っても、それは察知が出来るようになる程度。避けきれるはずもない。


 結果、今度は左足が犠牲になった。


「――っがぁぁああああ!?」


「ひゃッはァ! そんなアリみたいに地べたを這い回って、演技が上手いねー!」


 ケタケタとヒナは笑っていた。

 だが、もう日高に余裕はない。腕と脚、既に面積は二十パーセントを超えた。後の治療は一刻を争う。


「あと二本! まァ、最後には頭ももいであげるよ。全部失くして生かすくらいなら、介錯くらいしてあげるのが優しさってもんでしょーよ!」


 もう、日高になす術はない。ここから、一歩も動くことが出来ない。

 そこに無慈悲に、三度のフラッシュが――


「調子に乗り過ぎだ、ヒナ」


 低い声がした。

 直後、五メートル近い厚さのアスファルトが日高の前に立ちはだかり、そのまま、金色の髪の少女が彼を抱えて射撃線から遠ざかる。そしてヒナが何か反応する前に、ドーム状のアスファルトに閉じ込めてしまう。


「お前ら……っ」


 日高の顔に、驚愕に混じった歓喜の色が浮かぶ。

 それも、当然だろう。

 彼の前には、五人のアルカナと、一人の異例の存在がいるのだから。



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