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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第15部 ブレイク・ダウン
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序章 十時二十八分


 ――目を開けたとき、辺りはまるで砂漠の中のように、砂塵に飲まれていた。


 横で叫んでいる誰かの肩にうっすらと積もるそれが、本当は砂ではなく、止むことも知らずに降りしきるコンクリートの破片だったのだと教えられたのは、ずっと後のこと。

 薄く硬いストレッチャーの上で、ただ少女は空を見上げる。

 天を突き刺さんばかりの美しいビルは、どうしてか半ばから燃え盛り、もうもうと黒い煙を上げている。


 彼女は家族と旅行に来ていて、ほんの少し前まであの高いビルの中にいたはずだった。だというのに、気がつけば彼女は地上で担架の上に載せられていた。まるで何も分からない。ずきずきとした頭の痛みが邪魔をして、何ひとつ思い出せない。

 そんなかすれた記憶を更に覆い隠すように、髪が焦げるような臭いと、ガソリンスタンドに近づいたときのような鼻をつく刺激臭が、砂煙と共に少女を包む。


 あぁ、そう言えば、と。

 彼女は父と、母と、弟――家族でこのビルを訪れていたんだったと、ようやくその事実だけを思い出した。

 自分の大切な家族はまだビルの中にいるはずだと、そう声を上げようとして。



 目の前で、その空色のビルが崩れ落ちる。



 轟音。

 衝撃。


 けれど彼女は担架の上で、微動だにすることさえ出来ず、その悲劇をただ見続けた。

 大切な、大切な、彼女にとって何にも代えがたいものを飲み込んだまま、その美しい摩天楼は消え失せ、無機質な灰色の山と化す。


 残るものはなにもない。

 全ては瓦礫に押し潰されて、世界は色を失った。



 ――その日。

 彼女は誓いを立てた。

 あるいはそれは、呪いでもあった。

 この世界からあらゆる悲劇を根絶する。

 もう二度と、あの惨劇を繰り返してはならない。


 だから。

 その為ならば――……


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