第1章 まつり -2-
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https://youtu.be/Whfj_iipHWw
「……なるほどなぁ」
どこかうんざりしたように呟いた東城の額には、先ほどまで自分の首を巻いていたネクタイがあった。
騎手を希望する男子生徒全員で、馬を組まない模擬的な状況ではちまき代わりのネクタイを取り合うことで、騎手としての能力を測ろうという試みであった。
教室の前側半分の机をよけて作られた簡易的な戦場に集まったのは、およそ十人。馬と騎手を合わせて四人一組となり、男子二十人のクラスでは騎手になれるのは五人のみ。それなりの倍率ではあるだろう。
「しかしマンガで見る酔っ払いみたいでダサいな……」
「まぁ仕方ないよね。雅也の足蹴にされるよりは一〇〇倍マシだよ」
「お前ら、今からの試合でラフプレー頻発しても文句言えんぞ……?」
四ノ宮の罵詈の責任に東城まで巻き込まれていたが、とはいえ内心同意するところではあるので素直に受け入れておくことにする。
「それで? ルールはこの頭に巻いたネクタイを相手からひったくれば勝ち。騎手に任命ってことか?」
「その通りや。――そしてお前の相手は俺じゃ! 勝負も既に始まっとるわ!!」
清々しいほど卑怯な奇襲に「うわぁ」と四ノ宮が心底からの侮蔑の視線を向ける中、東城はさして驚く様子もなくひょいと白川の伸ばした手を躱す。
「……は?」
その手を弾かれたり、慌てながらでも避けられたのであれば理解できたのだろう。しかしまるで道ばたの石を避けるような、さも当たり前といった様子で微塵の無駄もない動きで躱されることは、まるっきり想像すらしていなかったに違いない。あまりにも場慣れしすぎた東城の動きに脳の処理が追いつかず、白川はただ間抜けな声を漏らすばかりだ。
「はい、お前の負け」
くるりと身を返し、そのまま白川の背後に回った東城は人差し指一本でぴんと弾くように白川の額からネクタイを引き抜く。そのままくるくると小さなフラフープのように指で回して遊んでみせた。
既に勝敗が決した中で、返されたネクタイをもう一度額に結び直した白川は、若干の涙目で東城と向き直る。
「……三本勝負や」
「お前に恥とか外聞ってものはねぇのか……?」
呆れる東城をよそに「もう二試合目は始まっとるわ、間抜け!」と襲いかかる白川に対し、東城は流れ作業のように彼の右手を軽く払い体勢を崩すと、そのまま逆の手でするりとネクタイを奪う。
「間抜けはお前だし、二連敗でお前の負けなんだが」
「三本先取の言い間違い――」
「だと思った」
白川が結び直した瞬間には既に東城がそのネクタイを三度奪い取っていた。もはや完膚なきまでの圧勝である。
騎馬戦で騎手としてよほど活躍したかったのか、その夢を奪われてがっくりとうなだれる哀れな少年に、東城も苦笑いを浮かべるほかない。
球技や陸上競技、あるいは格闘技とは違い、この手の勝負にはさして洗練された技術が要求されるものではない。むしろそんな形式は東城にとって十八番とさえ言っていい。
東城大輝は最強の超能力者――燼滅ノ王である。今までその能力故に数多の能力者達と死闘を繰り広げた彼にとって、他のスポーツより戦闘行為に近いこの手の勝負ほど得意分野はない。
そんな東城の圧勝を他の生徒達が感嘆と共に拍手を送る中で、冷ややかな目を向けるものが一人。――東城と同じく能力者の柊である。
「…………大人げない」
「俺もそう思うけど、白川に負けるのだけは本能的に無理だった」
悪目立ちはしたくないとはいえ、それでも白川にだけは負けたくないという思いが無意識のうちに体を動かしてしまうのであった。
負けた挙げ句に下に見られきっている白川は、ただただ怨嗟を込めて負け惜しみを口にする。
「お前、いつか絶対泣かすからな……っ」
「その前にテスト勉強で雅也が泣きつくくせに。黙って馬になってた方がまだマシだよ?」
「お前はお前でさっきから辛辣過ぎんか!?」




