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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第1部 アーダー・ティアーズ

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終章 陽光


 ――まだ、諦められない


 業火がうねる。

 全てを焼き尽くす力すら、彼の苛烈なまでの意志が蹂躙する。



     *



 ただ泣き崩れる柊の傍に、七瀬はいた。


 その背後に現れた巨大な火柱は、既にその姿を消していた。それの表す意味は、何となくだが七瀬にも分かる。


「――いつまでそうやって泣いているおつもりですか?」


「……ほっといてよ」


 嗚咽を漏らしながら、それでも柊はどうにか口にする。だがその言葉にはいつもの強さなど影も形も無かった。


 帰ってきてほしいと、死んでほしくないとただ希う。だがそんな事は無意味だとも、分かっている。

 相手が誰であろうと関係なく、人の言葉で東城は自分の意志を曲げたりしない。

 そういう東城に柊は魅かれ、今の東城はそうあろうとしているのだから。


「いい加減にしてくださいな」


 柊の胸座を掴み、七瀬は無理やりに立ち上がらせた。

 そこで柊が見たのは、未だ泣き崩れる自分に怒る顔ではなかった。


 七瀬の頬にも透明の滴が伝っていた。凛とした顔を崩すまいと必死に堪える、悲痛な顔だ。


「貴女だけが悲しんでいるとでも思っているのですか……っ?」


 七瀬はそれ以上堪えられそうになかったのか、それだけを言うと手を離した。


 だが、絶対に失いたくないものを、二度も失ったのだ。その悲しみはどうしたって消えやしない。どこまでも空虚な穴が、心を壊していく。


「私はあの時から、変われなかった……。むしろ、最悪じゃない……」


 あの一年前と何も変わらず、柊は東城を救えなかった。結局自分にできる事は何も無く、東城一人に全てを押し付け失っていく。


「私はまた大輝を救えなかった……」


 絶望と同義の喪失感が、柊の全身を蝕んでいた。体の中には、もう何も無かった。


「大輝を護れなきゃ、私には何の意味も無いのに……っ」


 噛みしめた柊の唇から、血が流れる。それは涙と混じってぽつりと床に落ちた。

 もうそれ以上、七瀬には口を挟む事は出来なかった。


 ――大輝様……。


 涙を堪えて七瀬は空を仰ぎ見た。そこに広がるのは、どこまでも冷たい灰色の世界だった。

 ぎりっと、悔しさから歯を食いしばっていた。


「私は、大輝を護る為だけに生きて来たのに……ッ。私は大輝を助けたかったのに……ぃッ」


 嗚咽が漏れる。涙が止まらない。


 なぜ、どうして、大輝だけが全てを背負って、消えなければならないのか。そんな行き場の無い悲しみと怒りが、何も無いはずの心の底から溢れ出ていく。


「大輝……」


 もう一度だけ、柊はその名を呟く。


「戻ってくるって、言ったわよね……」


 嘘だという事は分かっている。あれは彼女を安心させる為だけについた、優しい嘘だ。


 彼自身、もう戻って来られるなどと思っていなかったはずだ。


「待ってろって、言ったんじゃない……っ」


 それでも、口に出さずにはいられなかった。


 異例の名を冠する東城ならクラッシュさえも焼き尽くして、笑って帰ってくるのではないか、などとあり得ない事さえ想像し願ってしまう。


「大輝……っ。たい、き……ぃ…………――」


 全てを分かっていて、それでも諦めたくなかった。


 酷い事を散々言った。

 醜い事を散々した。


 まだその事を謝ってもいない。その前にいなくなるなど、認められない。


 無茶苦茶を言っているのは知っている。

 それでも、それくらいのわがままを言っても……。


「――――……」


 ふいに、木の葉が擦れ合うような、そんな小さな何かが聞こえた。


 掠れ、か細く、どこまでも小さなその音は、それでも確かに柊の耳に届いていた。



 直後、彼女の視界は朝焼けのような緋色に染め上げられた。



 辺りの空気を歪ませる熱気は温かく体を包み、火の粉は絶え間なく爆ぜるように散って辺りを照らす。


 一瞬、柊の呼吸が止まった。


 振り向き、言葉を失う。


 力なく笑うその姿を、誰が見間違えようか。

 大気さえも焦がす紅蓮の中に立つ、その姿を。


「ぁ、あ……」


 両腕の皮膚は焼け爛れているし、服もかなり破れている。顔だって火傷だらけで煤にまみれ、元の端正な顔立ちが台無しだ。


 それでも、彼だ。


 涙を流し声を嗄らして待ち焦がれた、あの東城大輝だ。


「……大、輝……ぃ! 大輝……! 大輝……っ!!」


「あぁ、東城大輝(おれ)だよ。――……ただいま」


 名を呼ぶ。何度も、何度も、何度も。それに笑って答えてくれる彼の姿に、柊は飛び込むようにふらふらと駆けだす。


 抱きついて、抱きしめて、柊は声を上げて泣いた。ただ優しくて温かくて、記憶なんか無くてもその温もりは決して嘘じゃないと分かったから。


 流れ出る透明の滴は、輝く業火の色に染められていた。




第一部はこれで完結です。

お付き合いいただき本当にありがとうございました。


また水曜から毎週更新で第二部がスタートする予定ですので、これからもどーぞよろしく。


追記

 あとがきなるものを活動報告のページにて始めてみました。よろしければどーぞ


http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/806721/

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