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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第8部 ビギニング・リベリオン
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第1章 再燃 -4-


 ちりちりと肌にまで刺さるような眩い光を受けながら、フェニックス・グレンフェルは顔をしかめていた。


「終わったぞ。くれぐれも、俺に対して異能力を使うなよ」


 白衣の男――ホワイトヘッドの言葉を聞くや否や、グレンフェルは身体に張り付いた電極を引き千切るような勢いで引き剝がす。


「……使い捨てじゃないんだぞ」


「うるせェな」


 毎度のことで聞き飽きた文句を一蹴して、グレンフェルはその手に炎を灯す。

 元々、グレンフェルの能力は東城大輝と同じ発火能力パイロキネシスではない。彼の能力名は“王”(キング)であり、その能力は、ヒエラルキーへの介入だ。

 グレンフェルはこれを利用し、超能力者のヒエラルキーに割り込むことで、東城の燼滅ノ王の上位互換の発火能力者を獲得しているのだ。


「――俺の調整に不備があったか?」


「ねェよ。ンな三流の仕事をする訳ねェことくらい分かってる」


 異能力は、何の調整もしなければ数時間で機能が停止する。それを防ぐ為に、定期的に電気的な刺激や薬物投与で、能力をその身に定着させなければいけない。

 だから、燼滅ノ王に背を向けてむざむざと撤退をしなければいけなかったのだ。


「チッ……」


 思い返して、グレンフェルは舌打ちする。

 既に三度ほど燼滅ノ王と対峙しているが、その結果は全て水入りだ。――それも、全てこの異能力が持つ時間制限のせいだ。

 “王”を使えば、この世の全ての頂点に立てる。であれば、フェニックス・グレンフェルは何よりも強くなければいけない。

 それが、この様だ。


「次に会ったら、ぶち殺す……ッ」


 自分自身への不甲斐なさを含めて、東城大輝に対する怒りへと変え、グレンフェルは獣のように唸った。

 完膚なきまでに燼滅ノ王を叩き伏せなければ、自身の尊厳を取り戻せない。


「やめろ。燼滅ノ王は鹵獲対象だ」


 だが、それをホワイトヘッドがため息交じりに制した。カチャカチャと機器を片づけながら、ぎろりとグレンフェルを睨む。

 だが、上下関係など無視してグレンフェルはその視線に対抗するように鋭い声で返す。


「そもそも、何で燼滅ノ王が必要になる。燼滅ノ王に出来ることなら、俺の“王”で再現できるはずだぞ」


「……俺が、ダイスケ・クロバネを超える為だ」


 片づけの手を止めて、ホワイトヘッドはグレンフェルを睨む。――まるで、彼をその黒羽根大輔と見なしているかのように。


「超能力を開発したクロバネの最高傑作は、間違いなく燼滅ノ王(フレイムレンジ)だ。それを確認する為に、わざわざ掃滅ノ姫(グラシアルサイド)との戦いも静観し、世界ノ支配者(ザ・ワールド)と戦うようにも仕向けた」


 得意げに語るホワイトヘッドだが、グレンフェルは小さく舌打ちするだけだった。こういう水面下でこそこそ動くような真似は、どうしたって彼の癇に障る。


「その燼滅ノ王を俺が従えれば、俺はクロバネを超えたと言えるだろう?」


 そうして浮かんだホワイトヘッドの笑みに、グレンフェルはどうしても共感できなかった。


「ンな回りくどいやり方しなくても、全部まとめて殺せばいいだろォが」


「馬鹿を言うな。能力者はクロバネが秘匿した存在だ。誰も知らない。――それを殺したところで、誰が俺の勝利を認める?」


「チッ」


 自己顕示欲の塊が、と心の中でだけ毒を吐く。

 口に出せば、ホワイトヘッドの能力で当分下僕にさせられるのは目に見えているからだ。そんな真似を覚悟してまで我を押し通すような馬鹿ではない。――少なくとも、今はまだ。


「俺は全ての超能力者を従え、能力の全てを公表する。そうすれば、世界は俺の優秀さを認めるだろう? クローンに遺伝子操作なんて非人道的な真似をせずとも、俺は能力を発現させられる。その上、性能はかの燼滅ノ王すら従えるほどとなれば、もう俺を敗者と呼ぶ奴はいなくなる」


 高らかに笑うホワイトヘッドに、グレンフェルはただ冷ややかな視線を向けた。

 一見すれば、確かに、ホワイトヘッドは優秀かもしれない。

 超能力者を九千も生み出したのは黒羽根大輔だが、そもそもの創始者はその父で、理論の大半は受け継いでいる。

 一方で、ホワイトヘッドは独力でここまでの能力を揃えたのだ。その手腕や才覚は、無効化能力や疑似能力を生み出した黒羽根大輔にも匹敵するだろう。

 だが。

 超能力を非人道的と揶揄するなら、あれは何だ、と。

 グレンフェルはそう思わずにはいられなかった。

 目の前に繰り広げられたあの血の海は、未だにグレンフェルの視界から消えたことがない。錆びついた鉄のような臭いも、絶え間ない断末魔も。この手で肉を引き裂く感触も、骨を砕いた衝撃も。

 あれを形容するならば、ただの一言。

 地獄。


「……、」


 瞼を閉じるだけで鮮明に蘇るほどの、強すぎる死のインパクト。

 あんなものを経由しなければ生み出せなかった時点で、異能力者も大概『非人道的』な代物だろう。――そもそも、人の身に兵器を宿すという発想を抱えた時点で、正義なんてものは存在しない。

 だが、それを糾弾する資格も、グレンフェルにはない。

 その地獄に身を任せ、それを作り上げたのもまた自分なのだから。

 嬉々として血を舞わせ、肉を裂き、骨を砕いたのだから。

 込み上げる名も分からぬ感情を呑みこんで、グレンフェルはホワイトヘッドに背を向けた。


「どこへ行く?」


「鍛錬場だ。――能力の出力はともかく、治した身体の感覚は整えとかなきゃいけねェだろ」


 吐き捨てるようにそう言って、グレンフェルは歩き出す。過分に干渉してくる彼の存在が、いちいち癪に障る。

 そもそも、ホワイトヘッドの権力欲に塗れた思考が好みではない。むしろ、黒羽根大輔に対する対抗心を剥き出しにする度に、その行動の全てが滑稽にすら見えた。

 小さい。そう思うしかない。

 見据える場所が違うのだ。

 その時点で、最早既に黒羽根大輔には届いていないと言うのに。


(……いや)


 そこまで考えて、グレンフェルは自嘲気味に笑みを浮かべた。


(それは、オレも同じか)


 憎たらしい限りだが、それは客観的な事実だ。結局、自分もそう言う存在だったと言うことを思い出さされる。

 王だ何だと言いながら、見据える先は燼滅ノ王たった一人。

 その上、ホワイトヘッドがいなければその力も維持できない、ただの傀儡だ。

 これのどこが“王”なのか。

 自分が目指した、王の在るべき姿は、こんなものではないはずだ。


「だったら、やることは決まってる……ッ」


 廊下に出た途端、フェニックス・グレンフェルの全身から、怒りのように業火が溢れ出る。暗く長い道が、一瞬にして血のように赤い光に照らされる。

 王の名をもう一度、自らの誇りにする為に。

 傀儡の糸を引き千切り。

 全てをねじ伏せ頂点に立つ為に。


「お前を殺すぞ、燼滅ノ王……ッ」



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