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フレイムレンジ・イクセプション  作者: 九条智樹
第7部 オーシャン・ラビリンス
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第2章 漣の中 -6-


 ゴゥン、ゴゥンと、無機質な音が折り重なるように鳴り響く。


 それはこの灰色の空間全てを占めるスーパーコンピュータのファンの音でもあり、周囲を欺く為の工場としての騒音でもある。


 そんな中に。

 一人の男がいた。


 真っ黒いシャツに、真っ白いスーツ。

 常識から反転し、いっそ歪にさえ見えるその装いに身を包んだ彼は、モニターから視線を外し、背後に立った一人の少女を見やる。


“創造”(ジェネシス)か。準備は整っているんじゃないのか?」


「万全だよ。餌としての全知ノ隠者はもう機能している。こちらから声をかければ、すぐに大輝はやってくるだろうね」


 からからと、楽しそうに彼女――“創造”は笑う。

 東城大輝という人物を心の奥底から欲する彼女のことだ。それが目前に迫って、気分でも高揚しているのだろう。いささか以上に顔は緩んでいるし、緊張感など微塵も感じられない。

 そんな感情にほとほと興味のない彼は、ただ面倒臭そうにため息をつく。


「なら、何の用だ? 燼滅ノ王への思いの丈を喋っていたいのなら“女王”(クイーン)相手にでもしていればどうだ」


「あぁ、うん。別にそんなことをしに来たわけじゃないよ。ただ予防線を張っておきたいなって思ってね。上手くいけば、味方に付けられるかもしれないから」


 何でもない調子で彼女は言う。だが、それは彼の計画の完全性の穴を突くような言葉だ。眉をひそめ、睨むように彼女を見つめる。


「……既に燼滅ノ王の鹵獲は不可能だと決定したはずだが?」


「分かってるよ。だから、味方につけるのは大輝じゃあない」


「不要だ」


「言うと思った」


 呆れたように“創造”は言う。だが、その程度で引き下がる様子はなかった。


「だからこれは私の我がままだよ。――でも、あなたは私の我がままを聞かなきゃいけない。だってそういう契約なんだもの」


「……図に乗るなよ」


 低く、唸るように声を放つ。だが彼女の方はどこ吹く風と言った様子だ。まるで気にしてなどいない。


「それにこれは、あなたにとっても悪いことじゃないはずだよ。――上手くいけば、アルカナ級の超能力者二人があなたの手中になる」


「……、」


「あなたの計画に万全を期すことが出来るということだけど」


「……そう上手くいくものか」


「行かないかもしれないし、行くかもしれない。――ただ、どちらに転ぶにしても燼滅ノ王の奪取という最終目標が揺らぐことはない」


「……勝手にしろ」


「話が早くて助かるよ。――そういうところは、大輝の次くらいに好きだよ?」


「嘘を付け。君は燼滅ノ王以外に一切興味がないくせに」


「あは。バレた?」


 楽しそうに笑いながら、彼女はくるくると回りながら彼の傍から離れていく。


「それで、いったい誰を味方につける気だ?」


「決まってるじゃない」


 満面の笑みと共に、彼女は言う。



「七瀬七海、だよ」



 その名に、一瞬驚いたように彼は目を見開く。


「燼滅ノ王の仲間が、俺たちの元へやってくるだと? ふざけるのもいい加減にしろ」


「相変わらず乙女心が分かってないねぇ、あなたって人は。――彼女は来るよ」


 彼女は断言すらした。


「愛する人に振り向いてほしいんだもの。気を引く為なら何だって、それこそ裏切りだってする。それが恋する乙女っていう生き物なんだよ。――だから、彼女は絶対にこちら側へ転がり落ちる」


「……だが、何を交渉材料にする気だ」


「ちょうど、美里と喧嘩別れしたみたいだしね。そこをつつけば、案外簡単に籠絡できると思うけれど?」


「……分かった。ある程度は俺の方でも動こう。元々、燼滅ノ王と接触を図る予定だったんだ。波涛ノ監視者を先に引き込んでしまえば、燼滅ノ王に不用意な警戒をさせずに向こうから接触してくれるだろう」


「やっぱり話が早いね。期待してる」


 言うだけ言って、“創造”の少女はふらりと姿をくらませた。

 後に残されたその男は、ただ疲れたようにため息をつく。


 そして、一片の憎悪と共に言葉を零す。



「――俺に指図するのなら、君が相手でも殺すぞ」



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