幼き業火 -1-
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幾月もの時間をかけて練り上げた『完璧なる計画』を頭の中で反芻しながら、彼――千歳永至は一度深呼吸した。
――落ち着け。俺の計画に隙はない。
完璧で完全で十全の策――それが、今の千歳が用意している奇襲だ。
奇襲は非常に有利な戦略だ。しかしそれを失敗させる、あるいは、不利にしてしまう要素が二つばかり存在する。
一つは、奇襲の方法。
奇襲は相手の虚を突かなければ始まらない。戦闘は常に、互いが考え得る最善手を取ることを想定して行われる。奇襲はつまり、あえて想像さえしない悪手を用いることで相手のペースを乱すわけだ。それは裏を返せば、ほとんどの奇襲は一時的にでも自らを不利な状況に追いやらなければ始まらないということになる。
もしも相手が冷静に対処してしまえば、奇襲は失敗。それどころか自らを圧倒的なまでの不利に追いやってしまう。
あとの一つは単純だ。逃走である。
逃げて体勢を整えられれば、奇襲は失敗。ここまで積み上げてきた全てが瓦解する。
だが、と千歳は思う。
――俺の計画に隙はない。
彼の自信は揺らがない。彼の生み出した奇襲は、決して自らを不利にすることはない。そして、奇襲に打って出た時点で相手は逃走手段を失い、そのまま為す術なく敗北する。
これは過信ではない。
ただの、確定事項。
絶対的な勝利の方程式は、既に解き明かされている。
――機は熟した。
そう声には出さず呟きながら、彼は嗤う。
――お前の時代は終わりだ、燼滅ノ王。




