第7章 正義の鉄槌 -13-
地下都市、第2階層。
そこで、落合はとうとう膝をついた。
「はッ、はッ……。く、そ……ッ!」
滝のように汗が流れていたのは、どれだけ前だったか。
既に汗すら流れないほど、ありったけの力を振り絞り続けた落合だ。呼吸するだけで、乾き切った喉は引き裂けそうな痛みを発する。もう立ち上がる気力さえ残っていない。
日高も榊も宝仙も、とっくに倒れた。
神戸と青葉は今でも戦おうとしているが、五人に囲まれた状態から一人だって倒せていない。もう能力を使うだけの体力がないのだろう。その状態で倒されていないだけ、まだマシかもしれない。
しかし。
暴れている能力者はまだ半分以上残っている。精神感応能力者がいるせいで、意識を失った能力者もまるでゾンビのように操られている。これでは、いくら倒したって数が減らない。
「もう限界か……」
小さく、落合は呟く。
精神論でどうにかなる次元ではない。これはもう、負け戦以外の何ものでもない。
これを覆せる者など、いるわけが――
「ありがとう、落合」
紅のカーテンが、暴徒を一瞬で弾き飛ばす。
その声がした自分の後ろを見て、落合はにやりと笑みがこぼれていた。
この圧倒的に不利な状況を、苦も無く撃破できてしまいそうな少年が、そこにいたから。
「遅いぞ。――東城大輝」
火傷や何かで吹くも身体もボロボロだが、それでも東城大輝は笑っていた。
「勘弁してくれ。これでも頑張った方だ」
「――黒羽根美桜は?」
「さっき第0階層で会った柊に預けて、今頃、地上にいるよ。あいつが負けたことでこっちの士気が下がるかもしれねぇけど、矢面に立たせて後々他の能力者に晒し上げにされるの、俺はゴメンだからな」
そう答えて、東城は地面を踏み締める。
元々は美桜の敗北をもって、この暴徒の士気を下げようという目的だったと言うのに、この少年はそんな前提を無視する気だ。
「それで、勝機はあるのか」
「心配する前に、お前は宝仙たち連れて引っ込んでろ。ここまで繋いでくれた以上、勝つ見込みがなくたって、勝ってやるから」
不敵に笑う彼の横には、一人の少女が立っていた。
東城にどことなく似ていて、雪のように白い髪を揺らしながら笑っている。
「無茶苦茶言うわね、大輝くんって」
「真雪姉。ここから先は、一片の手加減も要らねぇぞ」
「わたしの背中の傷、分かって言ってる?」
呆れたように西條は言う。
しかしその眼光は、それだけで並の能力者を退けるに足るものだ。
「まぁこれくらいのハンデがあった方が面白いけどね。――さっきは大輝くんに美味しいところを持っていかれちゃったし、ここらでわたしも力を見せるとしましょうか」
東城大輝と西條真雪は、同時に一歩を踏み出した。ざっ、と地面を踏み締め、互いが楽しそうに笑っている。
その姿を見て、多くの暴徒と化した能力者が標的をその二人に変える。
夥しいほどの殺気の渦を前に、それでもこの二人は怯える様子もない。
「終わらせるぜ」
「一瞬で、ね」
獄炎の槍と、氷柱の雨が降り注ぐ。
地獄絵図と化したその状況を、たった二人でさらなる地獄に塗り替えていく。
「凱旋パレードと行こうじゃねぇか」
吹き荒れるプラズマを身に纏い、さながら修羅や鬼人のように敵を蹴散らし、それでも東城は高らかに叫ぶ。
「俺が、全部焼き尽くす!!」