いつものように
今日もいつもようにチャネリングをしに
マンションの屋上に行った。
この屋上は施錠されていて、住人しか入れない仕様なのだが
住人を見かけたことは一度もない。
いつもチャネリングは2時間までと決めているのに
その2時間に誰か来るということもなかった。
まあおかげでチャネリングに集中できるからいいのだけど。
さあ、今日もはりきっていこう!
僕のやり方はとても単純だ。
「UFOさん降りてきてください、 UFOさん降りてきてください 」と
2時間空を見つめながら瞬きせずに、頭の中で唱えるだけだ。
すると空に移動する光を発見!
まあここで驚いたら初心者もいいとこだね。
僕のような玄人になるとまず疑ってかかる。
十中八九、というか今までの経験からすると
100%なんだが、飛行機かヘリなのだ。
人が一生懸命チャネリングをしているのに
日に何度も目にすると、普段温厚な私もつい腹が立ち、
航空会社に抗議の電話をした回数は、とっくに3桁を超えている。
いかんいかん。航空会社のことや、耳の周りを飛んでいる虫などに
このチャネリングを邪魔されてはいかんのだ。集中集中。
ん、さっきの飛行機だと思った光の動きが変だ。
とても奇妙な動きだ。なんとも飛行機らしくないというか
形容し難い動きだ。
あえて例えるなら、死にかけの蚊が上昇をしているつもりで下降しているような動きだ。
ヘリでもあんな動きはしない!
瞬きをしていないので目はすでにカラカラだったが
その動きを最後まで見るまでは見逃してなるものか!
相変わらず動きは蚊だ。
そしてその光は死んだ蚊のように山に落ちた。
あの山・・・ここいらで見える山といえば
隣の区のあの山しかないな・・・
よし!行くしかない!
こんな場合の為に原チャリを買っていたんだ。
颯爽と原チャリに跨りエンジンをかける。
原チャリにはセルスターターといって手元のボタンを押すだけでエンジンがかかる。
日ごろの手入れが行き届いているので、ウンともスンとも言わない。
正確には、ボタンを押した瞬間だけ小さく「キュ」と言うだけだ。
なーに大丈夫!そんな場合の為にキックスターターという王道の始動方法があるのだ。
地面を3回程蹴ったが、見事にエンジンがかかった。太ももが痛い。
目的地の山まではおおよそ45分といったところか。
街頭の少ない坂道を上がり頂上まであと半分という所で
邪魔が入った。
税金ドロ・・・いや、ポリスメンだ。
なにやら非常線的なものを張っている。
「この先で交通事故があったので進めません。引き返して下さい」
相変わらず高圧的で上から来るので
腹が立ったがここで揉めてもしょうがない。
いつか俺の靴の裏を舐めさせてやる。
適当なところまで引き返し、路肩に原チャリを停め
森を突き抜けることにしよう。
こんな時の為に全身黒の衣服しか身に着けていないのだ。
だてに小・中・高とあだ名は「葬式」で通ってないぜ!
おっと大学は?なんて野暮なことは訊くなよ!
ちなみに大学では誰も俺と目を合わせないぜ!
しかしやはり森は森。移動の為に作られていないので、
足は滑るし、草で身が切れるし、
急すぎて回り道しなければならない場所がいくつもあったので
なかなか目的地にたどり着けない。
さっき崖から落ちた時に左腕を骨折したようだ。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
左がブラブラするがなんとしても行かねば。
ゴウンゴウンという重い響きの機械音が辺りに聞こえる。
音のほうに近づいていくと、はたしてそこには御神体が!!!
いやこれは科学の産物で神は関係ない。
正確にはアンアイデンティティファイドフライ・・・・えーい
UFOだ!UFO様がいまそこに!
よく見るとUFOの周りに人らしき影が。
また税金ドロ・・・いや、ポリスメンか!?
ポリスメンにしてはいやに挙動が不審だな。
もっと近づいてよく見ねば。
視界にはっきりとその姿を捉えたとき、俺は吹いた!
銀色のピッチリしたスーツに、細長い手足。
大きい頭に真っ黒の大きな目。
いかにもなヤツが、いかにもって感じでそこにいた。
しかも、いかにもって感じでこっちに片手を挙げている。
指か!?指を求めているのか!?スピルバーグよろしくでいいのか!?
いかんいかん、笑いと未知との遭遇でちょっと混乱してきた。
こんな時は落ち着かないと。
深呼吸深呼吸。
綺麗な景色を想像するのも落ち着く効果があるらしい。
綺麗な景色も併せて想像しよう。
有明海有明海。
よし、相手がいかにもって感じだからまずはテレパスを試みよう。
(私は地球人です。ようこそ地球へ)
ちょっと大風呂敷だがそこは仕方がない。
なにせ初めてのことだ。
相手は相変わらず不安そうに手を上げ下げしている。
もしや・・・日本語で考えたから通じてないのか?
よし、次は英語でいこう。
(I am earth people.welcome to the earth)
どうだ!スピルバーグ色が強そうでいいだろ!?
どうなんだ、どうなんだいいっ!!
相変わらず手を上げ下げしている。
心なしかさっきよりも不安そうな顔をしている。
いかんいかん、考えるんだ。
耳から脳味噌が飛び散るほどフル回転させたがいいアイデアは浮かばない。
地球で一番普遍的・・・・人口が多い・・・・・
そうか!!中国語だ!中国語で話しかければいいんだ!
(ウォアイ・・・・・俺は中国語は喋れない!)
いかん訳の分からんテレパスをした!
相手の不安そうな顔は、怪訝な顔に変化した。
よし、仕方がない!俺も男だ!
笑いをこらえてスピルバーグの言う通りにやろう。
俺は右手の人差し指を、映画よろしく自然に挙げた。
お、怪訝な顔が治ったぞ。スゲーぜスピルバーグ。
俺はそのままゆっくりと歩き、ついに指が触れた。
するとその指が光りだし、それにあわせてUFO本体も光輝きだした。
なんと神々しい光。いやこれは科学の産物なので
神は関係ない。
えっと・・・何というか・・・・・・超眩しい!
正直洒落にならん、目が開けられない。
しかし光景を見ねば死んでも死にきれない!
俺は必死に自分の瞼と戦った。
それも日ごろのチャネリングのせいで長くはもたなかった。
気づくと俺は、原チャリの隣にいた。
林に入ろうとして止めた路肩だ。
何かとても疲れた。
左手で原チャリのカギを挿して、
セルでエンジンをかけて帰路についた。
あーあ、明日も説明会か・・・
就職活動だりーなぁ。