季節
秋が来た。次には冬が控えているでしょう。その次には命が芽吹く春がゆっくりとやってくるのでしょう。そして少年少女の夏がぎらめく太陽を背に駆け抜けるのです。それは流れる時間に身をゆだねて回る四季の定めなのです。
一通り、そう語った少女は僕を見て微笑んだ。そして声は出さずに唇だけを動かして、ほらねと言った。とたんに僕の視界はぐにゃりと変形してぐるりと何かを写した。それは季節だった。
実りと紅葉の鮮やかな赤と黄と茶の秋、冷たくて静かで白い雪と家々から出で来る暖かい湯気の冬、萌黄色の芽達が一気に芽吹いて命が誕生した喜びに溢れんばかりに歓喜する春、青々とした力強い草花とすっかり大きくなった白い鳥達がぎらぎらとした太陽をめがけて掛ける夏。時間をまるで早く早く掛ける様に。
全ての季節が駆け抜けていく。僕はそれを見終わると言い知れぬ喜びを感じた。自分が人より優れた人間になったような、そんな溢れんばかりの喜びが地面から湧き出てくるようだった。
そんな中、僕は僕をじっと見つめる少女に気が付いた。寂しそうに微笑んで、僕の前から姿を消した。
(僕はやがて知るのです。)
(僕の様なちっぽけな人間には時間の流れをどうすることも出来ないという虚しさを。)
(大きな大きな季節の流れに僕らは無力に流されるしかないとということを。)
ひたすらに僕らは無力だと、少女は言いたかったのでしょうか。