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桜の亡霊

作者: 篠崎りと
掲載日:2026/03/27

春は私を憂鬱にさせる。

春に外へ出ると人々が皆、どこかへ向かう準備をしているような気がする。私は、それを感じると、とても憂鬱な気持ちになる。桜が咲き始めるのを見るといたたまれない、惨めな気分になる。私は、桜が咲いているのを見ると思わず下を向きたくなるが、桜が散っていく様を見るのはもっと見ていられない。私が春を想起する時、いつも曇り空が浮かぶ。曇り空の下に暗い色の桜が少しずつ散っていく、そんな風景が見える。


春は私に昔を思い出させる。

春になると毎年、中学校の入学式を思い出す。その日が実際、晴れだったのか曇りだったのか、雨だったのか、私はもう思い出せないが、私が思い出すその日の空は、曇りだった。入学式の行事を全て終えて、校庭でみんながそれぞれの親や小学校時代の友人たちと顔を合わせて写真を撮ったり、抱き合ったりしているのを私は見ている。私も同じ小学校の友人たちと集まって何かを話していた。少し離れたところで母が私を見ているのが横目で見えた。母は私を待っているようだった。父は仕事があり、母は1人で入学式に来ていた。私は確かに母が私を待っているのに気づいていた。きっと私と並んで写真を撮りたがっていることも知っていた。それは私にとって別に嫌な事ではなかった。親と写真を撮るぐらい思春期の私にだって出来たと思う。でも私はそうしなかった。そうして私は、そこにいた友人たちとそのままの流れで帰宅した。母も家に着くと、「楽しかった?」とだけ聞いて。それ以外特に何も言わず、部屋の方へ向かって行った。その母の背中がとても暗く見えたのが今でも忘れられない。その後と中学から高校、今日に至るまで母との会話が急激に減った。母がそのことを恨んで私を避けるようになったわけではない。むしろ私が母を積極的に避けるようになった。その理由がその入学式ということではなく、あれはひとつの転換期だったように今は感じる。私はそれから母だけでなく色んなものから目を逸らす人間になったように思う。私がなぜあの時、母の方へ行ってやらなかったのか私にも未だに分からない。ただなんとなくそうしたんだと思う。でも私はその事を春になると思い出しては、後悔している。


もうひとつ思い出す事がある。それは高校の卒業式の日だ。

高校の卒業式は私にとって、なんとも不思議な時間だった。その年、私の高校の体育館は改装工事で使えなかったため、別の会場で行われた。そこはかなり大きなホールで少し豪華すぎる気もした。私は高校の3年間をほんとに何となくで過ごしてしまったと思う。卒業式はずっと心が置いてきぼりなようなそんな感じだった。クラスの女子が途中で泣き始めた。私はそれを見て、どうしても違和感を覚える他なかった。私は彼女から目が離せなかった。私にはなぜ彼女が泣いているのかが全く理解できなかった。それは私の高校生活が最悪だったからとか、共感能力が低いからとかそんな事では無かったと思う。ただ変だと思った。卒業式が終わると、担任の先生の元へクラス全員で集まって最後のホームルームをやった。担任が一人一人に手紙を書いて渡してくれた。私はその内容を見て、思わず笑わずには居られなかったことは覚えてるが何を書いていたかは、今は全く覚えてない。ひとつ確かなのは解散して家に帰ったあと、その手紙をすぐにゴミ箱に捨てた事は覚えている。ホームルームが終わった後、仲のいい友人達と写真を撮ったり、その後どこでご飯を食べるのかとか、誰々と写真を撮りたいだとかそんなことを話した。卒業式の後、私はクラスの友人達とご飯を食べて、その後は横浜にある、屋内アミューズメントパークで遊んだ。私はその間ふわふわした気持ちで過ごしていた。それから私は一緒いる友人達を見て、何となく、今日が終わればもう会うことは無いようなそんな気がした。みんなが他人のように感じた。それを感じると私はとてつもなく帰りたい気持ちになったが、そうはしなかった。それでも私は来週辺りになればまた、クラスのみんなと会えるだろうと最後にはそんな気がした。しかしそうはならなかった。その日の帰り道、帰りの電車が同じだった友人が私に相談してきた。あした就職の面接があってとても緊張するし、本当に就職を選んで良かったのか不安だと。そう相談してきた。私は彼に真摯にアドバイスをしたと思う。別れ際彼にとても感謝されたのを覚えいる。勇気が出たと、話せて良かったとそう言われたと思う。彼は見えなくなるギリギリまで笑顔で私に手を振っていたのを覚えてる。その後、彼がどうしてるのかを私は知らない。私は春になると決まってその2つの日を思い出す。


私は春が嫌いだ。

春は私を嘲笑う。私が一体どんな存在なのかをどうしようもなく突きつけてくる。私はただ惨めな気分にさせられる。私は今日も桜を見ないように下を向いて歩いている。下を向けば散った桜達が私を睨みつけている。諦めて空を見上げれば曇り空が私をまた憂鬱にさせる。

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