表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/14

【プロローグ】 ―主人公編①―

 思ったより早く、目的を遂げることができた。 

 公式にもpixivにもない、エンディング後の夫妻の姿。それを、この目で見ることができたのだから。


 王太子アルベール。立ち絵と寸分違わない、絶世の美男――絵に描いたような王子様。妻のロザリア。彼女も想像どおりの絶世の美女。誰がどう見ても、お似合いの夫婦。仲睦まじく寄り添っていた。

 

 それにしても、(かぶと)を脱いだ私を見た時の、アルベールのあの驚いた顔。ちょっと美麗にしすぎたのだろうか。設定(キャラメイク)したときには、そうは思わなかったのだけれど。


 

 ここは王太子モノの乙女ゲームの世界。そのハッピーエンドのあとの、平和で退屈な世界。未プレイの方のため、エンディングまでのあらすじを説明すると、

 

 王女ロザリアは、敵対している隣国の王太子アルベールと道ならぬ恋に落ち(もちろん他にも選択肢はある)、紆余曲折、艱難辛苦(そして、つまらないすれ違い)を乗り越えてついに結ばれる。物語の最後にふたりは盛大な結婚式を挙げ、両国の関係も改善――

 

 とまあ、よくあるお決まりのパターンだ。

 

 そのエンディング後の世界に、私は新たな〈主人公〉として転移(トリップ)し、新入りの兵士となって潜り込んでいる。なぜそんなことができるのかって? この程度の特殊能力は、日本人の()()()ならたいてい身につけているものだ。


 

 ザンギエフとの一騎打ちを終え、脱衣所で鎧を脱いでいると、名も無き(モブ)兵士たちが次々に声をかけてくる。

 

「ツキ! あんな技、はじめて見たよ。どうやったんだ⁉︎」

「なあ、ツキ! 今度、僕にも教えてくれよ!」


 あれは、居合斬りというやつだ。直前まで興じていた、(さむらい)モノのゲームで身につけた技術が役に立った。力でごり押すタイプのザンギエフに真っ向から挑んでも勝ち目はないと踏み、不意打ちの一発芸にかけたのが功を奏した。二度目は通用しないだろう。

 奥で鎧を脱いでいるザンギエフが、兵士たちに囲まれる私を恨めしそうな目で睨みつけている。新参者にあっさりと負かされたのが、よほど気に入らないらしい。


「ああ、また今度」

 私はそれだけ答えると、騒ぎたてる兵士たちを尻目に脱衣所をあとにした。「また今度」は、ない。私はまもなくこの世界を(ログアウトす)る。


 

 私がこのゲームをプレイしたきっかけは、ほんの気まぐれだった。たまたま広告で流れてきて、無料だったから。目下楽しみにしている箱庭ゲームの発売までの、暇つぶし。

 だって、ゲームでも漫画でも、恋愛がからむモノはずっと避けてきたのだ。

 私と〈あの人〉がいた世界が、サ終し(おわっ)てしまってから。

 けれど、流れてきた広告の一枚絵(スチル)で、煌々(こうこう)と射す光に向かって片手を広げ、王太子アルベールが口にする台詞(セリフ)――

 

『この国の未来を、君にささげよう』

 そのきらきらした、ひねりもくそもない台詞が、

 

 ――この国の未来を、おまえと見たかった。

 〈あの人〉が最期の日に口にした言葉と、少し、似ていたから。少し、興味が湧いただけだ。

 こちらに微笑みかける王子様は、無骨な〈あの人〉とは似ても似つかないのに。


 ストーリーを進めるうち、私はいつからかアルベールとロザリアの幸せを心から願うようになっていた。なんとかTRUE ENDまでたどり着いたときには、柄にもなく涙した。そしてしばらくすると――ふたりのその後が、どうしても見てみたくなった。

 ふたりが夫婦になって、たわいもないことで喧嘩をし、もしかしたら子どもが生まれて、一緒に歳を重ねる――そんななにげない日常に思いを馳せ、二次創作もずいぶん(あさ)ったけれど、マイナーだからかほとんどヒットしない。ならば――自分の目で確かめればいい。エンディング後の、夫妻の幸せな姿を。

 そんなへどがでるほどロマンティックな理由で、私はここに戻ってきてしまった。


 演習場に入った時に、観覧席に座る夫妻の姿を見つけた。妻のロザリアは、血なまぐさい決闘になど耐性がないのだろう。身を固くして言葉少なだったが、夫のアルベールが声をかけ、(いたわ)ってやっているのが見てとれた。

 ああ、ふたりは間違いなく幸せにやっている。安堵した。そして、どうしようもなく切なくなった。それで気づいた。

 私は無意識のうちにあのふたりに、私と〈あの人〉の姿を重ねていたんだ。私と〈あの人〉のあいだには、こんな幸せな未来はなかったから。

 

 私はきっとこれからも、〈あの人〉との思い出を胸に生きていくのだろう。

 

 さあ――目的は済んだんだ。早く帰って、箱庭ゲームのトレーラーでも見よう。


 

 私はセーブポイントになっている、兵舎の自室へと急いだ。どうせもう戻ってくることなどないのに、一応セーブしておかないと気が済まない、悲しきゲーマーの(さが)だ。

 自室の扉に手をかけようとしたその時、


「ツキ! 探したぞ」

 声をかけられた。兵士長だ。私は脱衣所から真っ直ぐここまで来たのだから、探す必要なんてなかったと思うけれど、きっとそういう固定台詞なのだろう。


「なにかご用ですか?」

 最後に一応聞いてやろう。


「さきほど王太子殿下からのご命令があってな。ツキ。おまえを今日から、王太子殿下の専属にするそうだ」

 やたらと尊大なCVの兵士長は、「専属」のところをことさら強調して言った。耳を疑った。

 

「……それは、私を親衛隊に、ということですか?」

「そういうことだな。これはたいへんに名誉なことだぞ」

 

 親衛隊。王族が直接雇用する、主君に絶対的な忠誠を誓う精鋭部隊だ。常に主君の身の回りの警護にあたり、戦の際には主戦力ともなる。主君が命を預けられると判断した兵士のみが任命される、名誉ある地位だ。確かザンギエフも、この一員だったはず。兵士になったばかりの私が就けるものでは、とうていないはずだ。

 兵士長は続ける。

 

「それにあたって、いまからおまえと面談をおこなうとのことだ。急ぎ王宮の応接室まで出向くように」

〈主人公〉視点のまま、次話へ続きます。


【2026/3/26】 一話が長すぎるとの気づきを得たため、読みやすいよう分割いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ