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モブの孤児ですが悪い魔法使いの魔力安定剤にされました。  作者: 丸ノ内きみこ
第一章

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8/18

過保護な檻と、罰という名の温もり

ゼノスを追い払って以来、アルマの「しつけ」は徹底された。


「……リア。俺の視界から出るな。一歩でも動いたら、容赦しない」


それは脅しではなく、淡々と告げられた「絶対の命令」だった。


私に与えられた部屋は、彼の執務室の隣にある小さな控えの間。食事も寝る時も、基本的に彼の目の届く範囲で過ごすことを義務付けられた。


掃除も洗濯も、料理すらも許されない。アルマは私を執務室に閉じ込めたまま、ひたすら魔導書を読み漁るか、怪しい実験に没頭する毎日を送っていた。


(……これは、過保護な監禁。でも、こんな生活じゃ、精神にも、健康にも、絶対良くない)


数日後。 私の我慢は限界に達した。


「アルマ様。今日の昼食、ポーションでしたよね? お野菜は摂ってますか? ビタミンが足りないと、魔力回路に不調をきたすって魔導書に書いてありましたよ」


私は、アルマが研究で使っていたフラスコをガンッと鳴らし、彼の目の前に仁王立ちになった。


アルマは、怪訝そうに眉をひそめ、私を見上げた。


「……うるさいな。今、重要な魔術式の解読中なんだけど」


「 あなたの健康の方が千倍重要です。 このままだと、また顔色が悪くなって、闇堕ちコースまっしぐらですよ!」


「……闇堕ち? 何それ?」


アルマは心底理解できないという顔で、フラスコの中の液体を揺らしている。 もう、この男には正面からぶつかるしかない。


私は彼の隣にストンと座り込み、アルマが手を伸ばそうとしていた魔導書のページを、そっと指で押さえた。


「アルマ様。昨日、王都から届いた食材の中に、新鮮なカブとベーコンがありました。あと、まだ少し、蜂蜜も残ってます。……それで、美味しいポトフを作って差し上げましょうか?」


私の言葉に、アルマの動きがピタリと止まった。


闇色の瞳が、ゆっくりと私に向けられる。 その視線は、まるで獲物を品定めする猛獣のようでもあり、同時に、深い湖の底を覗き込むような、複雑な感情を宿していた。


「……ポトフ、?」


「はい。温かくて、体が温まって、心が休まる、美味しいポトフです。私が作って、私が味見をして、私が毒味をしますから」


「……言っておくけど、俺は別に、君の作ったものが食べたいわけじゃないから……」


アルマは言い淀み、一度は私から顔を背けた。 しかし、その視線はすぐに、彼の傍らに置かれた空のポーション瓶へと向かう。


そして、小さく、ため息を吐いた。


「……仕方ないなぁ。ただ、俺の視界から一歩も出ないでね。……食材は、俺が魔法で取り寄せる」


「はい! ありがとうございます、アルマ様!」


私は満面の笑みを浮かべた。 アルマが呆れたように、また「変な子」と呟いたのが聞こえたけれど、私には勝利の雄叫びに聞こえた。


結局、その日の夕食は、アルマが魔力で取り寄せた食材を、私が執務室の隅で調理するという奇妙な光景の中で行われた。


(……料理中に、アルマ様がずっと私を見てる。まるで、子猫の毛づくろいを眺めるみたいに……)


完成したポトフを食べるアルマの表情は、どこか満ち足りたようで、「しつけ」中の刺々しさは消えていた。


食事が終わり、私が片付けを終えた頃。 アルマは不意に立ち上がり、私の手を取った。


「……リア」


「はい、アルマ様」


「……君、俺がいないと、すぐに変なことをしでかすでしょ。」


アルマの指先が、私の左手の薬指に嵌められた指輪をそっと撫でた。


「だから……これからは、作業中も、移動中も。俺の視界の端にいろ。……いいね?」


「……えっ? でも、寝る時とかはどうするんですか?」


「……隣の控えの間の扉を開けておけ。何かあればすぐ分かるように」


アルマは私の返事を待たず、自分の大きな手のひらを私の小さな手に重ねた。 冷たい魔力と、彼の体温が混じり合う。それは恋人同士の繋ぎ方というよりは、迷子にならないように子供の手を引く大人の、どこか不器用な力強さだった。


「……これは、『しつけ』だ。俺に手間をかけさせた罰だ」


彼の闇色の瞳が、有無を言わさぬ力を宿して私を見つめる。 繋がれた手は、まるで魔法のように離れなかった——というより、彼が意図的に魔力で固定しているようだった。


(……これは、罰っていうより、ただの過保護じゃないかな)


私は、彼の言葉に逆らうことなく、大人しくその大きな手に身を任せた。 彼の指は長く、節くれ立っていたが、手のひらは驚くほど柔らかかった。それは、戦うための手ではなく、真理を追い求める学者の手だ。


「……アルマ様、手が熱いです。お疲れなんじゃないですか?」


「……うるさい。黙ってろ」


ぶっきらぼうに返されたけれど、繋がれた手からは、彼の規則正しい鼓動が伝わってくる。


(大丈夫。今はまだ、迷子の子猫を拾った飼い主みたいな顔をしてるけど……いつかきっと、この手で、アルマ様の心を本当の意味で開いてみせる)


夜が更け、城のどこかで、アルマが片手で魔導書をめくる微かな音だけが響いていた。 そして、その隣のソファで、小さな手が彼の大きな手に「繋ぎ止められた」まま、安心しきった寝息を立て始めた。


彼が、眠りに落ちた私の顔を、どんなに複雑で、寄る辺ない表情で見つめていたかも知らずに。

初めての長編になる予感がしています。見守って頂けると嬉しいです。

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