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モブの孤児ですが悪い魔法使いの魔力安定剤にされました。  作者: 丸ノ内きみこ
第一章

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飼い主の特権、悪友の侵食

アルマが書庫に籠もって二日目。 私は中庭で、ボロボロだった薬草園の再生に励んでいた。


「……よし、これで明日はもっと元気な薬草ティーが淹れられるはず」


土を払い、立ち上がろうとしたその時だった。 左手の薬指に嵌められた銀の指輪が、皮膚を焼くような熱を帯びた。


「っ……、熱い!?」


反射的に指を押さえた瞬間、背後の空気がピリリと裂ける。


「ひゃはは! 隙だらけだぜ、お嬢ちゃん」


聞き覚えのある、薄気味悪い笑い声。 振り返る間もなく、私の喉元にひやりとした鉄の感触が押し当てられた。


「……ゼノス、さん」


「よう。前はスープで誤魔化されたが、今日はそうはいかねぇ。アルマの奴、ありゃあ重症だ。あんな抜け殻みたいな面、見てられねぇよ」


背後に立つゼノスから放たれる魔力は、初対面の時とは比べ物にならないほど鋭く、殺気に満ちていた。彼は私の首を絞めるように腕を回し、耳元で低く囁く。


「アルマを元の『壊れた魔法使い』に戻すには、その原因を壊すのが一番手っ取り早いんだわ。お前、いい素材になりそうだって言っただろ? 今から俺の工房で、じっくり『加工』してやるよ」


ゼノスが転移魔法の呪文を唱えようとした、その時。


ドォォォォォンッ!!


城の壁を突き破るような轟音とともに、漆黒の魔力の奔流が私たちの間に割り込んだ。


「……あ?」


ゼノスの腕が、まるで見えない刃に断たれたかのように、私から引き剥がされる。


「……俺の許可なく、城の結界を弄ったな、ゼノス」


現れたのは、逆立った魔力を全身から放つアルマだった。 その瞳は、出会った夜よりも深く、暗い。 冷徹な『悪い魔法使い』そのものの顔で、彼は一歩、また一歩と石畳を削りながら近づいてくる。


「ひゃはは! 怒ったかアルマ! そうだ、その顔だよ! ガキとままごとをしてるお前じゃなく、その獣じみた目が……」


「黙れ。」


アルマが指を弾くと、ゼノスの足元の空間が捻じ曲がり、彼は地面に叩きつけられた。


「……これは、俺が買ったモルモットだ。毛一本、爪の先一つまで、俺の所有物だ。……他人が触れていいと、誰が許可した?」


アルマは私の前に立ちはだかり、私の左手を乱暴に掴み上げた。指輪が、彼の怒りに呼応するように禍々しい光を放っている。


「アルマ、様……」


「……リア、君もだよ。ペットなら、俺の視界から消えるなと言ったはずだ。……しつけが必要かな?」


アルマの視線が私に向けられる。それは救いの手というよりは、獲物を逃さない執念に近いものだった。


「……おいおい、本気かよアルマ。そのガキ一人のために、俺を殺す気か?」


ゼノスが冷や汗を流しながら後退りする。アルマの指先に、見たこともないほど巨大な破滅の魔力が収束していく。


「……消えろ。次、俺の城の敷居を跨いだら、お前の魂ごと魔道具の燃料にしてやる」


アルマの放った衝撃波が、ゼノスを(そして彼の持ってきた怪しい荷物ごと)森の彼方まで吹き飛ばした。


静寂が戻る。


アルマは荒い呼吸を整えることもせず、私の手を握ったまま、じっと黙り込んでいた。握られた手首が、少し痛いくらいに強い。


「……アルマ様。助けてくれて、ありがとうございます」


「……勘違いするな」


彼は私を抱き上げると、逃さないように強く、強く胸に押し付けた。 心臓の音が、トク、トクと、ひどく速い。


「……君の代わりを見つけてくるのが、面倒くさいだけだ。俺に手間をかけさせるな」


(……嘘つき。本当は、私が心配で堪らなかったくせに)


私は彼の首に手を回し、その漆黒のローブに顔を埋めた。


「……はい。ずっと、あなたの側にいます。あなたの『首輪』は、世界で一番頑丈ですから」


アルマは何も答えず、ただ私の背中に回した手に、ぎゅっと力を込めたのだった。

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