表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブの孤児ですが悪い魔法使いの魔力安定剤にされました。  作者: 丸ノ内きみこ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/18

留守番と言う名の置き去り

翌朝、私は鼻歌混じりに台所へ向かった。


昨日のスープが好評だったから、今朝は少し手間をかけて、貯蔵庫の小麦粉でガレットでも焼こうかと能天気に考えていた。


うきうきでガレットを焼き、一緒に朝食を食べようとアルマを呼びに執務室を除くが、アルマはいない。


まだ寝ているのかと思い寝室も覗いてみたが、そこには綺麗に整えられた(私が昨日整えた)ベッドがあるだけだった。


「……アルマ様?」


城中を探し回った。

掃除したばかりのエントランス、魔導書が並ぶ図書室、湿った地下室。


どこにも、あの漆黒のローブを纏った青年の姿はない。机の上に書き置きなどもない。


「出かけてくる」という一言も、「いつ帰る」という約束も、何もない。


「……あ」


その瞬間、足元からスッと体温が引いていく感覚がした。


(……捨てられた?)


前世の記憶があるとはいえ、今の私は10歳の、身寄りのない子供だ。孤児院での院長の言葉が、呪いのように耳の奥で蘇る。


『お前のような子供、どうなろうと誰も気にやしないんだ』


アルマにとって、私は「面白いモルモット」でしかないのだ。


飽きたら捨てる。


勝手にアルマと友好関係を築けたつもりでいたが、それは一人で浮かれていただけなのかもしれない。



「……大丈夫だよね、そのうち帰ってくるよね」


自分に言い聞かせ、リアは箒を握りしめた。

落ち着かない心を鎮めるために、ひたすら掃除をした。



二日目は、さらに丁寧に床を磨いた。


三日目は、彼がいつ帰ってきてもいいように、最高に美味しいポトフを煮込み続けた。


四日目、五日目と過ぎるうちに、スープは冷め、私の心も冷え切っていった。


(公式設定では、彼は独り立ちしてからずっと、誰にも何も告げずにふらりと消える癖があったっけ……。)


私は、エントランスの冷たい石畳の上に座り込んだ。広い城の中、一人きり。


物音ひとつしない静寂が、こんなに怖いなんて知らなかった。


(私は彼を救うつもりでいたけど、救われていたのは私の方だったのかもしれない)


前世で画面越しに彼を見ていた時とは違う。今の私にとって、アルマは「生きている」人間で、私の世界のすべてなのだ。


前世やゲームの記憶があるからと、孤児であり院長を殺した自分から、現実逃避していた。



(今の私には、何も無い。)



アルマからすれば取るに足らない、ただのモルモットだ。





一週間が経った、ある日の夕暮れ時。


「……ねえ、お腹すいたんだけど」


ギィ、と鉄の扉が開き、一週間前と何一つ変わらない無関心な声が響いた。


扉の前に立っていたのは、少し旅の汚れがついたアルマだった。


私は、弾かれたように顔を上げる。


アルマは私の真っ赤に腫れた目を見て、不思議そうに首を傾げた。


「……何、その顔。そんなところで寝てたら、今度こそ死ぬよ?」


「……アルマ、様」


「ん?」


「バカッ!! 大バカっ!! どこに行ってたんですか!! 死んだかと思ったじゃないですか! せめて何か言ってから行ってくださいよぉぉっ!!」


私は泣きながら、彼のローブの裾を掴んでわんわんと泣き叫んだ。


アルマは完全に「?」という表情で、固まっている。


「え、何。……俺、ちょっと隣の領地まで、新しい実験素材を買いに行ってただけなんだけど。一週間くらい、普通でしょ」


「普通じゃないですっ! 私、捨てられたと思って、ずっと……ずっと……!」


私の絶叫に、アルマは初めて困ったように視線を泳がせた。


彼の中には、「誰かが自分の帰りを待っている」という概念が、最初から欠落していたのだ。


「……あー、……わかった。次からは、言うよ」


大きな手が、不器用に私の頭をぽん、と叩いた。冷たくて、でも少しだけ温かい、魔法使いの手。


(やっぱり、このクソみたいな性格の推しを救えるのは、私しかいない……!)


泣きじゃくる私を抱えたまま、アルマは「……で、飯は?」と、どこまでもマイペースに呟いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ