表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブの孤児ですが悪い魔法使いの魔力安定剤にされました。  作者: 丸ノ内きみこ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/18

地獄の門番と、光の英雄

城の正門が、外からの魔力干渉で激しく軋んでいる。 アルマに促され、私は彼の隣に立ってエントランスへと続くバルコニーに出た。


眼下に広がるのは、朝靄を切り裂くような白銀の輝き。 王都から派遣された重装騎士団。その中心には、ひときわ強い魔力を放つ、金髪の若き騎士が立っていた。


(……カイル。原作の攻略対象で、後の【英雄】……)


本来なら、彼は【聖女】を救い出し、アルマを討つはずのメインキャラクター。 けれど今の私にとって、彼は大切な「居場所」を壊しに来た侵入者でしかない。


「【悪い魔法使い】アルマ! 速やかに扉を開け、誘拐した乙女を解放せよ!」


カイルが剣を抜き放ち、その切っ先をこちらへ向けた。彼の背後で、教会の司祭たちが呪文を唱え、結界に光の楔を打ち込んでいる。


「……解放? 騎士様は耳までおめでたいらしいな」


アルマが低く、城中に響き渡るような声で笑った。彼は私の肩を抱き寄せ、わざと見せつけるように指輪の嵌った私の手を握りしめる。


「この子は俺が買ったモルモットだ。……そして、今や俺の魔力なしでは指先一つ動かせない、俺の所有物だよ。それを奪ってどうする? 死体でも拝みたいのか」


「貴様……! 非道な実験で少女の尊厳を奪ったばかりか、命まで盾にするというのか!」


カイルが激昂し、その剣にまばゆい光の魔力が宿った。 その光がバルコニーまで届いた瞬間、私の体の中にある「闇の膜」が激しく反応した。


「……っ、あ……つ……!」


私は演技ではなく、本能的に顔を顰め、アルマの胸元に顔を埋めた。 光の魔力が、今の私には猛毒のように不快で、肌を刺すような痛みを感じる。


「……ほら見ろ。お前たちが振りかざす『正義の光』が、この子を苦しめている」


アルマの冷たい声が、騎士団の間に動揺を走らせる。


「……アルマ、様……。光が、……痛い……。あっちに、行かせて……」


私は震える声で、アルマのローブをぎゅっと掴んだ。 これ以上ないほど「闇に汚され、悪役に依存した哀れな被害者」の体現。 カイルの表情が、驚愕と絶望に染まるのが見えた。


「そ、そんな……。聖女の輝きを持つはずの乙女が、闇を求めている……?」


「英雄様、お帰り願おうか。……これ以上光を撒き散らせば、この子は死ぬ。……お前たちの手で、聖女を殺したいなら別だが?」


アルマの不敵な宣告が、朝の森に冷たく響き渡った。 騎士団の攻撃が、ぴたりと止まる。


彼らの「正義」が、彼ら自身の首を絞め始めた瞬間だった。


「そんな……馬鹿な……」


カイルが握りしめた聖剣の柄が、ミシリと音を立てた。 彼にとっての正義は、悪を討ち、弱きを救うことだ。しかし今、眼下で起きている事実は、彼が放つ聖なる光が、救うべき少女を毒のように蝕んでいるという光景だった。


「司祭様……! これは一体どういうことだ! 彼女を包んでいるあの不吉な影は……」


「……『魔力の同期』、それも最悪の形での完成です……」


背後に控える司祭が、震える声で答えた。


「アルマ公は、彼女自身の魔力回路を自らの闇で塗り潰したのでしょう。今の彼女は、公の魔力という『毒』なしでは形を保てない。……そして、我らの放つ『光』は、彼女の回路にとって致命的な拒絶反応を引き起こす……」


「……では、助けようとすればするほど、彼女を死へ追いやると言うのか!?」


カイルの絶叫に、騎士団全体が沈黙した。 かつて多くの魔物を討ち、民の希望となってきた彼にとって、これほど残酷な敗北はない。


アルマはバルコニーから、そんなカイルの動揺を愉しむように薄く笑った。


「騎士様、まだ用があるのか? お前のその輝かしい鎧が、この子の目を焼いているんだが……。早く消えてくれ。この子が寝不足で不機嫌になる」


アルマは私の頭を優しく、けれどこれ見よがしに撫でた。 私は彼の胸に顔を埋めたまま、心の中でカイルに謝り続けていた。


(……ごめんね、カイル。あなたは何も悪くない。でも、こうしないと、アルマ様は殺されてしまう。……私は、この人と生きる道を選んだから)


「……撤退だ」


カイルが、搾り出すような声で命じた。


「……カイル様!?」


「聞こえなかったのか! 一時撤退だ! ……彼女にこれ以上の苦痛を与えることは、騎士道の誉れではない」


カイルは最後に一度だけ、アルマの影に隠れた私の小さな背中を、悲痛な決意を込めた目で見つめた。


「……アルマ。今日は引こう。だが、覚えておけ。……呪いを解く方法を必ず見つけ出し、彼女を必ず光の下へ連れ戻す」


白銀の騎士団が、波が引くように森の奥へと退いていく。 カイルの背中は、敗北に打ちひしがれながらも、まだその「正義」の炎を消してはいなかった。


静寂が戻ったバルコニーで、アルマは私の肩を掴んでいた手の力をふっと抜いた。


「……行ったよ。……リア、もういい」


私は顔を上げ、アルマを見上げた。 そこには、英雄を追い払った勝利感など微塵もなく、どこか遠くを見つめるような、虚ろな瞳があった。


「……あいつは、……あの騎士は、本気だね。……あんなに真っ直ぐな目で、君を救うと言い切るなんて……」


「アルマ様?」


「……俺が君にしたことは、やっぱり『呪い』なんだ。……あいつの方が、君に相応しい光を持っていたかもしれないのに……」


アルマの独白は、冷たい風に混じって消えた。 彼は私を抱き上げると、何も言わずに執務室の中へと戻っていった。 繋がれた指輪が、鈍い闇の色を放ちながら、私たちの境界線をさらに深く刻み込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ