表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブの孤児ですが悪い魔法使いの魔力安定剤にされました。  作者: 丸ノ内きみこ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

共依存の刻印

熱も下がり回復したアルマは、城の執務室で急いで準備をしていた。


部屋の中央には、ゼノスが持ってきた『変質魔石』を中心に、複雑な魔法陣が幾重にも描き出されている。


「いいか、リア。今からやるのは、ただの特訓じゃない。俺の魔力を君の魂に直接『同期』させる儀式だ」


アルマの声は、かつてないほど真剣だった。 魔法陣の結界の中に、私とアルマが向かい合って座る。


「……君の回路に俺の魔力の膜を張る。その過程で、ひどい熱と痛みが伴うはずだ。……嫌なら今すぐやめるけど」


アルマが私の手を握り、不安げに私の顔を覗き込んだ。その指先が、微かに震えている。私を傷つけるかもしれないという恐怖が、冷酷なはずの魔法使いを揺らしていた。


「……やめません。アルマ様の魔力なら、いくらでも受け入れます」


私が力強く答えると、アルマは覚悟を決めたように目を細め、呪文を唱え始めた。


魔石がどす黒い光を放ち、アルマの手から漆黒の魔力が私の体の中へと流れ込んでくる。


「っ……、あ……ぐ……っ!」


焼けるような熱。全身の血管を熱い砂が流れるような、凄まじい衝撃が走った。 あまりの痛みに意識が遠のきそうになる。


「リア! 耐えろ、俺の手を離すな!」


アルマの声が遠くで聞こえる。彼は私の体を抱き寄せ、逃げ出さないように、そして壊れないように強く抱きしめた。 彼の冷たいはずの魔力が、今は私の熱を吸い取ろうとしているかのように、ひどく熱く感じる。


「(……痛い、けど……。これで、アルマ様が助かるなら……)」


私が彼の背中に爪を立てるほどしがみつくと、アルマは私の耳元で、祈るような、あるいは呪うような低い声を漏らした。


「……これで、君は光に触れることができなくなる。太陽の下を歩くことも、教会の祈りを受けることもできない。……一生、俺の闇の中で、俺の魔力だけを食べて生きていくことになるんだ。……それでもいいの?」


「……はい、……望むところ、です……っ」


私の答えを聞いた瞬間、魔力の奔流が一気に加速し、私の心臓の鼓動と、アルマの鼓動が重なった。 ドクン、ドクン、と。 指輪を介さなくても、彼の感情が、彼の孤独が、そして私への歪なほど深い愛着が、濁流のように流れ込んでくる。


数時間後。 魔法陣の光が収まると、私は全身の力が抜け、アルマの腕の中にぐったりと横たわっていた。


「……終わったよ、リア。……よく頑張ったね」


アルマの声は、驚くほど優しかった。彼は、汗で張り付いた私の髪をそっとかき上げ、私の左手の指輪に口づけた。


指輪はもはや銀色ではなく、アルマの瞳と同じ、深い闇の色を湛えている。 私の体の中には、しっかりと彼の魔力が根を張り、外の清浄な光を拒絶する「檻」が完成していた。


「……これで、あいつらには手が出せない。……君を奪おうとする奴らは、君を殺すことになる」


アルマは私をベッドへ運び、そっと毛布をかけた。 その顔には、執着を満たした充足感と、守り抜く決意を固めた男の、凄惨なまでの美しさがあった。


「……リア。本当に、後悔しないね?」


アルマは私の頬を両手で包み込み、壊れ物を扱うように親指でなぞった。彼の瞳には、私を永遠に闇へ道連れにしてしまったことへの「痛み」が浮かんでいる。


「後悔なんてしません。……だって、これでお揃いでしょう?」


私は少しだけ重くなった体で笑ってみせた。体の中を流れる魔力は、たしかにドロリとして重苦しい。でも、それがアルマの一部だと思えば、ひどく愛おしいものに感じられた。


「……変な子。君は、自分がどれだけ眩しい場所へ行けるはずだったか、分かっていないんだ」


「眩しいだけの場所なんて、目が痛くなるだけです。……私は、ここがいい」


アルマは諦めたように、けれど愛おしそうに目を細め、私の額に自分の額をコツンと預けた。


「……わかった。なら、君のその言葉が嘘にならないように、俺が死ぬまで君の『闇』でいよう」



短い休息。けれど、窓の外から響く軍靴の音と、馬のいななきが、私たちが浸っている静寂を容赦なく切り裂いた。


窓際でその様子を眺めていたゼノスが、面白そうに肩をすくめる。



「ヒュー。いい雰囲気のところ悪いが、お出ましだぜ。白銀の甲冑に身を固めた、正義の味方サマたちがね」


ゼノスは懐から、怪しく光る通信用の魔導具を取り出した。


「王都には、俺が雇った情報屋を使って、たっぷり毒を回しておいた。『聖女は公の魔力と混ざり合い、もはや人ですらなくなっている』とな。……さて、アルマ。地獄の門番を演じる準備はいいか?」


アルマは立ち上がり、漆黒のローブを翻した。その背中は、以前よりもずっと大きく、そして孤独ではない強さに満ちていた。


「……ああ。……リア、隣に来い。……ここからは、俺たちの芝居の時間だ」


「ああ。王都には『聖女は魔女の呪いに侵され、公の魔力なしでは一日も保たない』って触れ回っておいたぜ。……騎士団長様がどんな顔をして来るか、楽しみだなぁ」


窓の外では、朝靄を切り裂いて、白銀の甲冑を纏った騎士たちが森を包囲し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ