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第八話 選別

惑星の形成が一度落ち着き、

彼らは直接観測を行うための構造物――モノリスの設置を検討する。


その中には、

単なる観測にとどまらないものも含まれているようだ。


だが、何が選ばれるかは、まだ分からない。

セバスチャンが抽出した候補地点は、


その大陸と海の境界、あるいは島嶼部の縁に集中していた。


マスターは、その一つひとつを、選び取るように見つめていた。


「観測モノリスは、セバスチャンに任せるとして」

「環境調整モノリスの設置場所だが――」


そこで、言葉は一度途切れた。


マスターの視線が、候補群の上を静かに移ろうとする。


「恐れ入ります」


セバスチャンが、静かに声を差し挟んだ。


マスターはセバスチャンに視線を向けたまま、何も言わなかった。

短い沈黙が落ちる。


セバスチャンは一礼し、静かに言葉にした。


「選定した候補地点について、

 改めて説明させていただいてもよろしいでしょうか」


「同期で、大方は把握している」


「だが――」


候補群に向けられていた視線が、ゆっくりとセバスチャンへ移る。


「セバスチャンの見解も含めて、聞こう」


「……ありがとうございます」


セバスチャンは、姿勢をわずかに正す。


「では」


セバスチャンが操作パネルに触れると、

中空に、ひとつ目の候補地が拡大表示された。


「第一候補は、山脈の高原部です」


中空に映し出された地形の一部が強調される。

険しい稜線の途中に、削り取られたような平坦な領域が広がっていた。


「標高は高く酸素濃度は低下、天候の変動幅も大きくなります。

 加えて淡水は限定的で、食料となり得る資源も、局所的にしか存在しません」


「この条件下での生存は、理論上は可能です。

 ただし、その範囲は限定されます」


「――その結果、

 生存戦略の分岐を観測する場としては、

 適した配置だと判断しました」


マスターは一度、アリアへと視線を向けた。


アリアは肩をすくめることもなく、

ただ中空に浮かぶ地形を見つめている。

口を開くつもりは、ないようだった。


やがて、マスターの視線がセバスチャンへ戻る。


セバスチャンは、わずかに姿勢を正した。

説明の体勢を整え、次の候補へと意識を切り替える。


「第二候補は――」



中空に、淡い光で構成された地形が浮かび上がる。

大小の島々が、弧を描くように連なっている。

どれも海に囲まれた、小さな陸地だ。


その表示は、単なる地形図ではなかった。

プレート構造、地殻の安定性、潮汐条件――

取得済みの惑星データを時間軸上に重ね、

この領域が“どのように変わらず在り続けるか”を示す予測図だった。


「この領域は、複数の島嶼から構成されています。

 大陸および群島は、沈み込み帯から遠く離れた位置にあり、

 プレート境界の影響をほとんど受けません」


島々の輪郭が、わずかに強調される。


「地殻活動は存在しますが、極めて穏やかです。

 陸地の形状は、生命史の時間軸において、

 ほぼ変化しないと見なせます」


表示は、ほとんど動かない陸地を保ったまま、

ゆっくりと時間だけを進めていく。


「恒常的には、島と島は分断されています。

 ただし――」


映像の一部に、薄く色づいた帯が重なる。


「潮汐周期の中で、

 極めて稀に水位が大きく低下する局面が存在します。

 数年、あるいは数十年に一度程度の現象です」


帯は、島と島の間を細く繋ぐ。


「その際、一部の島間に浅瀬が形成され、

 理論上は歩行による移動が可能となります。

 ただし、持続時間は短く、

 恒常的な連絡路にはなりません」


島々は、再び静かに分かたれる。


「生命が発生した場合、

 大半の個体群は島ごとに隔離された状態で

 世代を重ねることになります」


その説明を受け、

アリアが確認するように口を開く。


「……この島嶼から、大陸までは、

 どれくらい離れているの?」


セバスチャンは表示を切り替える。

群島と大陸が、同一の視野に収まる。


「長距離飛行が可能な個体、

 あるいは、長距離遊泳に耐えうる系統が出現した場合、

 到達は理論上可能です。


 ただし、空路には相応の距離があり、

 海路では大型捕食種の存在が前提となります」


アリアは中空の島々を見つめたまま、静かに言う。


「なるほど……ほとんど孤立した生態系、ってことね」


わずかに口元を緩める。


「知性体にまで至るかは別として、

 観測対象としては、かなり面白そうだわ」


そのまま、視線だけをマスターに向ける。


わずかな沈黙のあと、マスターは答えた。


「生態系としては、確かに興味深い。

 候補の一つとしては、十分だろう」


マスターは、そこで言葉を止めた。


そして、

セバスチャンへと視線を向ける。



それを受け、セバスチャンは軽く一礼した。


「では、第三候補は――」


セバスチャンの操作に応じて、

中空の地形表示が静かに書き換わる。

映し出されたのは、大陸から遠く離れた外洋。

海面を透過するように、表示はゆっくりと深度を下げていく。


「対象となるのは、

 温暖な海域に形成された、

 安定した深海層です」


緩やかな海流と、その下に広がる暗い水塊が重ねられる。


「水温は、深海としては一定範囲に保たれています。

 急激な変動は少なく、長期的に安定した環境です」


淡々と続ける。


「地殻由来の熱流と、

 化学反応によるエネルギー供給が持続的に存在し、

 生命が成立する余地は十分にあります。


 また、設置深度と干渉範囲の設定次第で、

 変化の度合いを調整できる環境です」


アリアは中空に浮かぶ深海の断面を眺めながら、静かに言う。


「何の変哲もない、無難な選択というやつね。

 ここであれば、おそらくこの惑星でいちばん、

 生命が溢れる可能性がある場所だわ」


アリアの言葉が終わると、

セバスチャンは一度、マスターへと視線を向けた。


マスターは何も言わず、

中空の表示に視線を留めたまま、

次を促すように静かに待っていた。


それを確認し、

セバスチャンは軽く一礼した。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


書き溜めはなく、

このくらいの分量で週一更新が安定して出せる限度だと感じています。

今後も、このペースで書いていくつもりですので、

どうぞよろしくお願いします。



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