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第七話 観測計画

新たにアンドロイド――セバスチャンが加わり、

箱庭の本格的な運用が始まる。


この先、

彼らの観測する世界は、

どこへ向かっていくのだろうか。

セバスチャンは、そのやり取りを、彼のすぐ傍らで静かに聞いていた。


会話が途切れ、室内に短い沈黙が落ちる。

その静寂が満ちきった瞬間を見計らうように、彼は口を開いた。


「マスター。

 起動時に、CUTBE経由で必要な情報はすでに同期されています。

 その上で――これからの方針を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


マスターは投影された恒星系から視線を動かさぬまま、静かに告げた。

「まず、この恒星系全体を箱庭として観測する。

 メインは生命体が生まれる予定の惑星だが、隣接する惑星も一定の観測対象に含める。

 ガス惑星や恒星そのものについては、重大な変動が起きない限り、通常観測の範囲で十分だ。」


セバスチャンはわずかに視線を落とし、顎に指を添えた。

演算そのものは、すでに完了している。

それでも彼は、思案する執事のような所作を一拍だけ挟んでから、口を開いた。


「共有されたデータから判断するに、メイン観測惑星での生命誕生は、ほぼ確定的かと存じます。

 しかし、海洋惑星という性質上、陸上で植物が繁栄した場合、

 一部の海洋環境にも影響が及ぶ可能性があります。


 その結果、上陸を試みる生命体にとって障壁となり、

 知性体への進化が遅延する恐れも考えられます。


 ――調整は、どのようにお考えでしょうか?」


二人のやり取りを横で聞いていたアリアは、ふっと小さく息を吐いた。

肩をすくめるように腕を組み、わずかに首を傾げる。


「そんなの……なるようになればいいじゃない。

 それを見るのが、楽しいんだから」


セバスチャンは一瞬、彼女に目線を向けるが、何も言わずに再びマスターに視線を戻す。


マスターは、ほんの一瞬だけアリアの方へ視線を向けた。


「……アリアが言ったからというわけではないが」


そこで、わずかに間を置く。


「ただ、ここからこの惑星に直接的な介入はしない。

 ――だが、今まで通りのお約束は変わらない。モノリスを数個設置する」


その言葉を受け、セバスチャンは一拍置いてから口を開いた。


「“数個”というのは……

 この惑星を、最低限観測できる程度、という認識でよろしいでしょうか?」


視線を投影から外さぬまま、短く頷く。


「基本的には、それで構わない。

 設置場所も任せる。


 ――ただ一つだけ、特殊性を持たせたものを、

 知性体が発見困難な場所に設置する」


セバスチャンはその確認を終えると、自分の前に操作用のパネルを呼び出し、解析を開始した。

彼の操作に応じて、中空へ海洋惑星の立体像が展開された。

青い光を帯びた球体の上には、海流の流れ、大陸の輪郭、気候帯の変化が層となって重なり、

惑星の状態が可視化されていった。


手元のパネルを操作しながら、その投影を見据え、

最適なモノリス設置地点の選定を進めていった。


その様子を眺めていたアリアは、口元にかすかな笑みを浮かべ、小さく肩をすくめた。


「さっき直接的な介入はしないって言ってたのに、あのモノリス設置するんだ?

 今回は何? 急激な進化? 複数生命体の複合生物?

 それとも、何か新しい面白いことでも思いついたのかしら?」


アリアの問いかけに、マスターは一瞬だけ彼女の方へ視線を向けた。


「今回は直接的な手は加えない。そのモノリス付近の環境を、

 周囲の生命にとって居心地の良い、進化が進みやすい環境に整える程度のものだ。」


アリアは少し眉をひそめ、考え込むように言う。

「それって場合によっては、今までの介入より影響が出る可能性もあるわよね?」


「その可能性もある。だが、惑星自体の環境に適応する形での進化になるはずだ。

 整った環境での進化も、面白いかもしれない。」


その答えを聞いたアリアは、口元に笑みを浮かべる。

「ふ~ん……いつもとは違うってわけ……いいじゃない、面白そう。」


そんな二人の会話の最中も、セバスチャンの解析は淡々と進む。

ちょうど会話が途切れたタイミングで、解析は完了した。


「マスター、解析完了しました。」


言葉を返すことなく、ただ一度だけ頷いた。


解析結果はCUTBE経由で常時同期されており、その全容はすでに把握済みだった。


それでもなお、中空に展開された惑星の投影へと視線を向ける。

セバスチャンが抽出した設置候補が、いくつか淡く光を帯びて浮かび上がっていた。


青く輝く球体――この星には、連なる複数の大陸は存在しない。

広大な海の中に、ひとつの大陸と、周囲に点在する無数の島々が浮かんでいるだけだ。


大陸の中央には、内海のように広がる巨大な淡水湖があり、

そこから数本の川が、ゆるやかに蛇行しながら海へと注いでいる。

各地にも小さな湖は点在しているが、中央のそれほど大きなものは他にない。


地殻には明確な活動があり、プレートはゆっくりと移動している。

だが、大陸が位置する領域は比較的安定しており、

長期的な生態系の定着に適した地盤を持っていた。


海底は一様ではなく、浅瀬から深淵まで複雑な起伏を描いている。

その最深部は、惑星規模の生態系を分断するほどの隔たりを持ち、

表層とはまったく異なる環境圏を形成していた。


重力は、マスターの母星を十とすれば、この惑星では八。

生命にとって過度な負荷はなく、

陸へと進出する可能性も、理論上は十分に備えている。


同時にそれは、体躯に課される制約が緩やかであることを意味していた。

この星に生まれる生命は、環境次第では、

彼の知るいかなる世界よりも巨大な姿へと成長する余地を持っている。


セバスチャンが抽出した候補地点は、

その大陸と海の境界、あるいは島嶼部の縁に集中していた。


マスターは、その一つひとつを、選び取るように見つめていた。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

少しずつですが、物語を書くことにも慣れてきた……気がします。たぶん。


セバスチャンが加わり、

箱庭はようやく“観測の体制”が整いました。

これから彼らが見守る恒星系と惑星は、

どんな姿へと変わっていくのか。



引き続き、お付き合いいただければ幸いです

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