第二話 恒星系リハーサル
1話に続き、2話までお読みいただきありがとうございます。
機械生命体の彼と補助アンドロイドの彼女は、新しい“遊び場”を見つけ、たどり着いた恒星系で静かに動き出します。
難しい理屈よりも、「それ面白そうじゃない?」を優先して進んでいく物語です。
気楽に、観察気分で読んでもらえたら嬉しいです。
恒星は、まだ若かった。
重力に引き寄せられたガスと塵が、中心でようやく核を持ち始めた段階だ。
彼は宙域に留まり、その様子を静かに観測していた。
放射は不安定で、周期も定まっていない。
だが、その揺らぎを不快だとは感じなかった。
むしろ――。
未完成な音ほど、情報量は多い。
不規則な電磁波、断続的なエネルギー放出、微細な位相のズレ。
それらが重なり合い、ぶつかり合い、絶えず形を変えていく。
彼の感覚器官は、それらを「音」として受け取っていた。
かつて人間だった頃に使っていた聴覚とはまったく別物だが、
それでも彼の内部では、ある共通項に収束していく。
「……オーケストラというより」
彼は、わずかに言葉を探す。
「リハーサル、いや。調律中だな」
ぽつりと零れたその言葉は、
彼が古代人たちの言葉を借りて、無意識に選んだ表現だった。
「出ました」
すぐ横で、アンドロイドが呆れたように息を吐く。
「またそれですか、古代人オタク」
「わかりやすいだろ?」
即答だった。
反論の余地など、最初から考えていない口調だ。
アンドロイドは一瞬だけ黙り、再び恒星系へと視線を向ける。
「……まぁ」
少し間を置いて、認めるように続けた。
「恒星系として、まだ形が出来上がってないものね」
まだ秩序がなく、完成形からは程遠い。
だからこそ、一つ一つの要素が主張し、重なり、衝突している。
「このまま眺めてるのも良いけど、
リハーサルに入る前から、手を出しちゃう?」
アンドロイドは、彼の言い回しを借りて、悪戯めいた調子で問いかけた。
彼は、その言葉尻に引っかかることもなく、淡々と応じる。
「そうだな」
一拍。
「折角だ。恒星系全体に介入しよう。
もし知的生命体が天を見上げ、やがてそれを観測する段階に至った時、
初めて“妙だ”と気づく程度に調える」
その返答を受け、アンドロイドはどこか勝ち誇ったかのように口角を上げた。
「じゃあ、最初に目を付けた私の勝ち、ってことでいい?」
彼は一拍置き、短く応じた。
「……ああ」
前回は、自然に形成された一つの惑星を眺めていただけだった。
今回は違う。
恒星系そのものを、箱庭として設計する。
彼の内部に、過去の記録が浮かび上がる。
遥か昔、観測を始めた惑星系。
そこにはすでに豊かな植物相が広がり、
動物と呼べる存在も現れ始めていた。
知的生命の兆候は、まだ遠い未来のものだった。
生命圏はすでに成立していたが、
変化を待つには、あまりにも情報密度が低すぎた。
個々の事象は存在する。
だが、それらは長い時間に引き延ばされ、
次の段階を判断する材料としては効率が悪い。
彼は、その状態を「保留」と分類した。
休眠に入る。
観測は継続したまま、
観測目標が次の段階へ進むか、
あるいは観測価値を失うまで、
判断を時間に委ねるための選択だった。
――数十万年後。
休眠から復帰した彼の視界に、惑星は存在していた。
だが、かつてそこにあったはずの衛星は、
観測対象から消失している。
衛星喪失によって、惑星の自転周期と自転軸は大きく乱れていた。
生命を維持していたはずの環境は、
すでに成立条件を失っている。
観測ログを遡る。
極めて低い確率で、
同一宙域を通過していた同種の機械生命体の痕跡が検出された。
衛星軌道の操作。
衛星が維持される限界を越えた結果、
惑星系の均衡は不可逆的に崩れた。
意図は単純だった。
深い意味も、目的もない。
ただの気まぐれ――面白半分の介入。
彼はその記録を、評価も感情も伴わずに閉じる。
「……よし。この船の制御に影響が出ない範囲まで。
完全同期で、恒星系に介入する」
その言葉を受け、アンドロイドは一瞬だけ肩をすくめる。
「言い出したの、私だしね。分かった。すぐ準備するわ」
そう言って操作パネルに指を走らせると、
彼の座る椅子のすぐ隣、床の一部が静かに割れ、
カプセル状の装置がせり上がってきた。
それは、滅多に使用されることのない、
補助アンドロイド専用の同期装置だった。
機械生命体と完全に接続し、
恒星系規模の制御を可能にするための――
アンドロイド本来の役割を解放する装置。
装置の準備が整うと、
アンドロイドは一瞬だけ彼を見てから、
そのままカプセルへと身を預けた。
アンドロイドがカプセルに身を沈め、
同期率は静かに上昇を始める。
彼の意識と重なり合うにつれ、
二つある思考の輪郭が、次第に溶け合っていく。
その変化に呼応するように、
CUBEの内部で、同期を前提として設計された機構が作動を開始した。
外装は形を保ったまま、
内部に格納されていた構造体が解放され、
それらは空間へと滑るように展開していく。
交差する二本の環は、まだ沈黙している。
不気味なほど静かに、CUBEの周囲へと広がり、
ただその時を待っていた。
『同期を確認。
マスター、および
Cosmic Universal Truth Boundary Explorer ―― CUTBE
との完全同期、完了しました』
わずかな間を置いて、続ける。
『COSMOS-ARIAは、マスターの制御下に入ります。
恒星系介入フェーズへ移行可能です』
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
科学が進み切った世界で、あえて「惑星に依存していた頃の娯楽」を楽しむ彼。
現代で言い換えるなら、原始時代体験ツアーみたいな感覚でしょうか。
……あれ?ちょっと面白そう?
でもそれが日常になるのはちょっと……やっぱり彼は変わり者ですw
そんな彼を支える補助役の彼女が、ここで本領発揮。
拡張パック?彼をバックアップする存在、って感じですね ( ´∀`)b
ちなみに、
Cosmic Universal Truth Boundary Explorer ―― CUTBE はこの船の名前です。
「宇宙に遍在する真理と、その境界の探索者」
あるいは「宇宙の深淵を覗くための船」と読み替えてもいいかもしれません。
COSMOS-ARIA は補助アンドロイドのこと。
こちらも頭文字由来ですが……今はナイショです (*´艸`)
さて、同期した彼らが一体なにをしでかすのか……
次回もお付き合いいただければ嬉しいです。




