逆ハーレムの宰相息子に転生しました。元女子なんですけど?
朝、目を覚ますと、景色が違っていた。
綿布団の感触もなければ、スマホのアラームも鳴っていない。代わりに目に飛び込んできたのは、見知らぬ天蓋付きのベッド。
「え……どここれ?」
慌てて起き上がり、鏡をのぞき込んで絶句する。
そこに映っていたのは、見慣れぬ美形の少年。しかも掛けてある制服の胸元には、王立学院の紋章が刺繍されていた。
「いやいやいや……ちょっと待って!? 私、昨日まで日本人女性だったよね!? なんで男になってんの!?」
使用人に呼ばれ、自分が「宰相の息子」であると理解したのは数分後だった。
新しい生活の始まりは混乱の連続だった。
学院に登校すると、まず目を奪われたのはひとりの少女。
腰まで届く柔らかなピンク色の髪、宝石のように輝くピンクの瞳。
その隣には王子。そして周囲には騎士団長の息子、魔法庁長官の息子。
――まさに逆ハーレム。
「ちょ、ちょっと待て。これって乙女ゲーのテンプレじゃん!?」
ツッコミを入れずにはいられない。だが問題は、それだけではなかった。
彼らの視線。全員が同じ方向を見つめ、同じようにぼんやりとした笑みを浮かべていた。
「……いや、これ絶対おかしいよね?」
だがそれ以前に、自分には差し迫った課題があった。
婚約者との関係修復だ。宰相の息子という立場にありながら、今の自分は婚約者から冷えた視線を送られる存在となっていた。
(ここで婚約破棄なんてされたら、バラ色人生どころか詰みコースでしょ……!)
そう考えた主人公は、まずは誠意を示すことにした。
婚約者の親に向けて「今までの態度申し訳ない」と詫び状をしたためる。さらに婚約者本人について「好きなものを教えて欲しい」と素直に頼んだ。
返ってきたのは、甘い菓子や可愛い小物を好むという情報。
主人公は日本での包装技術とセンスを総動員し、贈り物作戦を展開する。
初めて受け取ったとき、婚約者の頬がわずかに紅潮したのを見逃さなかった。
(よし、第一歩は成功だ!)
一方で、学院での不穏さは増していった。
騎士団長の息子は稽古をさぼり、魔法庁長官の息子は詩を詠む。
王子に至っては政務を後回しにしてまでピンク髪の少女を追いかける始末。
「これ、完全におかしいって。洗脳? 魅了魔法? それとも魔道具……?」
疑念を確信に変えた主人公は、意を決して動いた。
夜、宰相の屋敷にて。
主人公は各名家の当主――騎士団長、魔法庁長官を呼び集め、秘密会議を開いた。
「……皆さん、息子さんたちの様子がおかしいとお気づきですよね?」
「もちろんだ。剣も握らず、少女の後をつけ回すなど、息子らしくない」
「うちの息子は魔術の研究を放棄してまで……まるで別人だ」
やはり全員が異変を認識していた。
そして主人公が指摘する。
「これは偶然ではありません。恐らく、魅了魔法か、それに準じる魔道具が関わっています。そして王子もおかしいのです」
会議の空気が重くなる。国家の重鎮たちの子息が王子までが軒並み操られているとなれば、王国の未来すら危うい。
だが、問題がひとつ。
「なぜ自分だけが影響を受けていないのか?」
考えられる理由は一つ。
魂が日本人女性であるため、対象外になっている――。
(つまり俺だけが、この危機を止められる立場ってこと……?)
婚約者に贈った小箱のリボンが思い出される。少し照れた笑顔。
(絶対、バラ色人生を掴んでみせる! そのためにも、この陰謀をぶっ潰す!)
主人公は言う。
「先ずは調べてみましょう。皆様、協力をどうかお願いします」
翌日、主人公はピンク髪の少女に接触する。
「君がなぜ皆を惹きつけるのか、教えて欲しいな」
少女の瞳がきらりと光り、周囲の男子たちが一斉に立ち上がる。
――まるで操り人形のように。
「ごめん。今は駄目みたいだね」
やっぱり、これは……。
主人公は立ち上がる。学院の平穏と婚約者との幸せを手にいれる為に。




