表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

7. 初めての選定試験





 セントローズ選定試験は、学園内にある礼拝堂で行われる。

 フロレンティア聖庁より派遣された《聖導卿》様が儀を執り行い、数名の《聖唱官》様が見届ける中、候補者は“ルクス・センティア”の力を示す――それは試験というより、もはや神聖な儀式だ。


 そして、ついにその日がやってきた。

 第一回・定期選定試験。

 私は準備万端、パラメータも育成済み!

 心に余裕をもって臨める!


 学園の礼拝堂は、さすがに荘厳で、格が違う。

 派手な装飾はないけれど、壁や柱の隅々まで精緻な彫刻が施されていて、大きなステンドグラスには女神フロレンティアの逸話が描かれている。

 中央に立つ女神像は、まるで生きているかのような気配すら漂わせていた。石膏像のはずなのに、透けるようなベールの彫りがリアルすぎて……。ゲーム画面で見てたときより、実物は数倍インパクトがある。


 そして、そんな神聖な空間に現れたるは、我らが光――クラリーチェ=フィオレンティーナ様。

 すっと通った背筋。艶やかな銀髪がステンドグラス越しの光を受けて輝いていて、ただの登場シーンなのに命を削られそうになる。


(……尊い……これはもう、尊死レベル……)


 ハッ! 危なかった……私には果たすべき使命がある。ここで息絶えている場合ではないのだ!


 思考を引き戻したその時、儀式の始まりを告げる声が響いた。


「これより、セントローズ選定試験を始めます」


 堂内に響く聖導卿様の声は澄み渡っていて、思わず背筋が伸びる。

 儀式は一人ずつ順番に行われる。候補者は女神像の前に進み、“金花の祈壇”と呼ばれる器にルクス・センティアの力を示すのだ。


 ルクス・センティアの表れ方は人それぞれで、光や音、色彩などに個性が出る。

 祈りによって生まれる光の波紋が薔薇の花が咲くように見えることから、この国では薔薇が聖花とされており、「セントローズ」や「ロゼリア」という称号もそこに由来する。


(ちなみに、ゲームプレイ時の私は、ふわっとした光の粒が手元に集まって、優しい波紋みたいに広がるエフェクトだった。たぶん、今もあれ……のはず!)


「では、クラリーチェ=フィオレンティーナ候補から」


 やはりトップバッターはクラリーチェ様。


 女神像の前に進まれるその一歩一歩すら神聖で、堂内の空気が凛と引き締まる。

 静寂の中、クラリーチェ様が祈壇に両手を掲げる――


 ふわり、と空気が揺れた。

 花が開くように淡銀の光が広がり、女神像の背後には透き通る光輪が浮かび上がる。


(なに……⁈ この演出、ゲームに無かったよ⁈)


 クラリーチェ様のスペック、やっぱりすごい!


 続いてセシリア様、イリス様、ミミーナ様と順番に儀が進む。

 セシリア様はレモンの光がパチパチ弾けるようで、イリス様は水の波紋のような透明な輝き、ミミーナ様はピンクの光が花びらのように舞い散って……どれも素敵すぎる!


 ――そして、私の番が来た。


「リリカ=オルトレア候補、前へ」


(いよいよ……!)


 深呼吸を一つ。大丈夫、パラメータは合格ライン突破してる。

 私は静かに女神像の前に進み、“金花の祈壇”に両手を重ねる。


 心を澄ませて、祈るように、願うように。


(クラリーチェ様を救うために、私は――)


 光の粒が集まり、柔らかな蕾が膨らんでいく。

 そしてふわりと、優しい波紋が空間に広がった。

 それは静かで、でも確かに人の心に触れるような、穏やかな光。


(……あ、やっぱり……ゲームの時と同じだ。でも、ちょっとだけ、温かい……)


 聖唱官の一人が小さく頷くのが見えた。

 よかった、無事クリア!


 こうして、第一回の選定試験は、全員無事に終了したのであった。


 

 ◇


 

 選定試験がある日は、私たちは授業がない。

 時間を見ればまだお昼前だった。午後はフリーというわけだ。

 ゲーム内では一日がかりだったけど、測定するだけなんだからそんなに時間かからないよね。

 少し早いけど、お昼ごはんにしよう。食べながら予定を考えよ。

 今は授業中の時間なので、エンカウントの心配もない。安心して移動できる。いそいそと食堂へ向かった。


 今日のランチメニューは――


 メイン:若鶏のハーブロースト

  〜ローズマリーの香りを添えて〜

 スープ:緑野菜のコンソメスープ

 サイド:ミニトマトとチーズのマリネサラダ

 パン:焼きたてのハーブブレッド or ライ麦パン

 デザート:いちごのフレジェ風プチケーキ

 飲み物:カモミールティー or レモンウォーター


 今の季節は春なので、春野菜や果物がふんだんに使われているメニューだ。

 量も少なめ・多めとオーダーできる。男子と女子じゃ食べる量も違うしね。

 ……これが学校で出る給食と同じ立場ってやばい。


 いただきますの祈りを済ませ、まずはメインから。


 ナイフを入れると、皮がサクッと音を立てた。

 炭火で焼かれた若鶏の表面はパリッと香ばしく、その下から現れるお肉はしっとりジューシー。

 うわぁ……この断面だけで幸せが確定する。


 一口――


(んんっ……やば……やばい……っ)


 口の中で広がる肉汁が、じゅわっと甘くて……

 それを追いかけるように、ほんのりとローズマリーやタイムの香りが鼻をくすぐってくる。

 これ、ハーブの使い方が絶妙すぎでは⁈


 まさに「外パリ中ジュワ」+「香りの余韻で二段階昇天」。


 しばし天を仰ぎかけたが、まだだ……私はまだ、前菜すら終えていないのだ。


 続いて、緑野菜のコンソメスープ。

 透き通った黄金色のスープに、春キャベツとアスパラが柔らかく沈んでいて、まるで緑の宝石箱。

 スプーンを口に運べば、野菜の甘みが優しく染み渡る。胃袋が癒されるとはこのこと。

 主役じゃないのに、ちゃんとおいしい。こういう名脇役に私は弱い。たまらん!


 パンはほんのり香るハーブブレッドをチョイス。

 外はカリッ、中はふわもち。バターなしでも充分香ばしくて、若鶏のソースをちょんとつけると優勝確定。


――そして……デザート。


 プチサイズのフレジェ風ケーキに、ハートの飾り。見た目からして完全に乙女ゲーム案件。


「いただきます(慎重)」


 フォークでそっと切ると、中からいちごの果汁と甘すぎないミルククリームがとろけてきた。

 ああもう、これは恋……味覚に恋してる……!


 甘いだけじゃなくて、ちゃんと“品”がある。

 このサイズ感も絶妙で、満たされるけど重くない。まるでクラリーチェ様のような……

(それは言いすぎかもしれないけど、でも気持ちはそんな感じ!)


(ふぅーーー。)


 最後に、カモミールティーで深呼吸。


 ……ごちそうさまでした。


 今日は朝から推しチャージ&満腹チャージのWコンボで、もう無敵モードかもしれない。


 ってか私、もう元の暮らしに戻れないかも……。


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ