3. 押し活に必要なもの
今、私は学園近郊の森に続く小道に来ている。
ゲームでは、お決まりの「お散歩デート」用マップだ。
本来なら、ひとりで訪れても「今はどなたもいらっしゃらないようね」というセリフで立ち入りが制限されるはず。
でも、“生身キャンセル”という革命を起こした私に、そんな制約は存在しない。
つまり――
入れた。
ならば、やるべきことはただひとつ。
――採取である。
この小道でのデートイベント中、攻略キャラがこう言ったことがある。
「この小道では、ちょっと珍しい木の実が採れるんだ」
ゲーム内では、リリカは採取できなかったから、何があるのかは不明だった。
けれど私は、推し活のために、この場所を試す必要があったのだ。
ひととおり木の実を収穫し終えた私は、次なる目的地へ向かう。
それは――「ゼム兄さんの露店」。
乙女ゲームにおける定番の便利アイテム屋さんだ。
プレゼントアイテムはもちろん、授業前に使うとパラメータ上昇率が上がる眠気覚ましや、香水、キャンディ。
さらには推しの部屋と同じBGMが流せる蓄音機まで、品揃えは多岐にわたる。
常連になるにつれて商品ラインナップが解禁されていくシステム。
だからこそ、通いつめたいところなのだが――ここには大きな壁がある。
そう、リリカ、お金がない。
毎月お小遣いは支給される。
でもそれだけじゃ足りない。パラアップ系の便利アイテムも、後半に向けて準備していきたいしね。
普通にプレイしていれば、親密度が上がった攻略対象からプレゼントがもらえる。
……つまり、ダブったプレゼントをゼム兄さんの露店に売るというのが、フロレンティアでのお金稼ぎの定石というわけだった。
特に王太子はけっこういい物をくれるので、他ルートを攻略する時でもキープしておくのが乙女の嗜みである。
こうしてスカスカだったリリカの財布は、あっという間に金貨でジャラジャラに。
――なるのだが、今回は違う。
私はまだ誰とも親密度が上がっていない。
今後も誰かと親密度を上げるつもりもない。
つまり、この愛の錬金術♪は使えない。
そして、もうひとつ気になっていたセリフがある。
ゼム兄さんに買取を頼むと、たまにこう言うのだ。
「今日は何を売ってくれるんだい? 珍しいものなら高値で買うよ」
もし今回採取した木の実の中に、本当に“珍しい”ものがあったら……?
そう考えた私は、露店の出現候補地を順に駆け巡った。
ゲーム内ではボタン一つで済んだけれど、今はそうはいかない。
私には速やかにこのミッションを終了し、クラリーチェ様のお姿を拝見するという、とても重大な任務へ向かわねばならないのだ。無駄な時間などないのである。
「……あっ、ゼム兄さん!」
幸運なことに、二ヶ所目で発見!
「……ようこそ。珍しい顔だ。品を見るなら手は静かに。言葉は……もっと静かにな。」
ゼム兄さん――乙女ゲー界随一の属性盛りNPCである。
褐色の肌に淡金の髪、深紅の瞳。布越しからでもわかる素晴らしい体躯。そして、とんでもなく顔がいい。
加えて、あの低音ボイス。エキゾチックでアラビアンなお召し物。気怠げな雰囲気も相まって、あやしいお薬(ある意味正しい)を売ってそうだ。しかも常連になるとセリフが変化するという芸の細かさ。
これが落とせないなんて、信じられない……と、ファンたちが“ゼムルート”を探しに通い詰めたのも当然だ。
(まあ、私の推しはクラリーチェ様だけどね)
私は選択肢の中から「買取をお願いします」を選ぶ。
実は、選択肢をNPCで試していたときも、相手はこのゼム兄さんだった。
「ふーん、それか……まあ、買ってやらないこともない。」
――買取成功!
しかも、金額も悪くない。これは珍しい木の実が本当にあったんじゃない⁈
木の実ごとに価格が違うので、それをチェックして次回からは高額なものに狙いを絞ろう。
小道は学園からも行きやすい。これで金策はどうにかなりそうだ。
ゼム兄さんの態度がちょっと塩なのは、まだ私は常連ではないから。問題なし!
「ゼム兄さん、ありがとう~!」
私は満足げに手を振り、颯爽と学園へ戻った。
◇
学園に戻り、図書室にてクラリーチェ様を発見した私は、いつものように適切な距離から、そのお姿を拝見している。
お邪魔をしないように静かにノートを開く。今後の計画についてまとめるためだ。
《クラリーチェ様断罪回避計画 第二章:備考1 金策》
今日ゼム兄さんが買取してくれた木の実の種類と値段を表にしてまとめる。
この金策は毎日やるつもりだけど、もしもの時のためにも余裕を持っておきたい。実はゲーム内とここではパラメータの上がり具合が同じじゃないと思うんだよね。
パラ上昇率アップのアイテムが何個必要になるかが変わってくるからな……。
下に続ける。
《備考2:必要パラメータについて》
ゲーム内では、朝に全体マップから学園を選んだ時に、
「今日はどの授業を受けようかな」というセリフと共に
《共鳴力》《精神力》《表現力》から一つ選択。決定すれば、ミニキャラが授業を受けている様子に変わる。
途中三回、教師から質問され、何問正解かでパラメータのアップする数値が変わった。そして、それが終われば放課後だった。
……のだが、ここでは午前と午後に授業はあるし、教師からゲームの時のように質問されることもない。
そうなると、ここのほうが上がりづらい気がする。
うーん、どうしたものか。
なぜ私が今こんなに悩んでいるか。
ステータス見ればいいじゃん、って思うよね。うん、私も見たい。
大事なことだから二回言うね。
――私も! 見たい!
自室の机で見られるはず! なのに! なんで⁈