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9. 日日是好日





 早いもので季節は夏。

 入学からもう五ヶ月が経とうとしています。

 第二回の定期選定試験は、来月に控えている、そんな今日この頃。


 

 ◇

 


 夏の学園、暑いです。


 この世界にもちゃんと四季はあって、今は真夏の盛り。

 制服は夏用に切り替わって、涼しげな薄手の生地になるんだけど――

 それでも廊下を歩けば、ジワッと背中に汗がにじむくらいには暑い。


 でも、学園内の教室や礼拝堂、中庭の東屋なんかには、風の魔法陣や遮熱の結界が張られていて、そこそこ快適に過ごせる。

 文明の力ばんざい。


 今日は「薬草学」の実習の日。場所は中庭横の小さな薬草園。


 春先には小さな芽だった植物たちが、今や夏の陽射しをたっぷり浴びてぐんぐん成長中。

 ハーブの香りがふわっと漂ってきて、なんだか癒される空間――


 ……なのだけど、地味に暑いです(本日二度目)。


 先生が「今日は解熱作用のある薬草を学びます」と言って、ラベンダーやミント、そして何やら謎の青い葉っぱ(←初見)を指差して説明してくれる。


 私はといえば、ノートを取りながら、こっそり《推し活ノート》の片隅に

「クラリーチェ様は夏に弱いタイプか?→冷却系アイテム調査」

とメモする。大事、大事。


「この葉を細かく砕いて冷たい水に浸しておくと、肌に塗ったときひんやりしますよ」


 ……ふむふむ、これはクラリーチェ様のご体調管理にも役立つのでは!?


 さっそく採取させていただきます!


 と、張り切ってしゃがんだ瞬間――


「うわっ、あつっ!」


 日陰に見えた石の縁が、しっかり焼かれてました。さすが夏。


 でもそのとき、すっと隣から日傘が差し出されたのです。


「……痛むところがあるなら、黙っていないで申告なさい」


 ――声をかけてくださったのは、クラリーチェ様でした(尊)。

 いつもの誤解されがちな口調はそのままだけど、心配してくださったのが伝わってきて、嬉しさと申し訳なさが同時にこみ上げる……!


 クラリーチェ様は今日もお美しい……銀の髪が陽光を跳ね返して、もはや後光……。


「あ、ありがとうございますっ! 全然、大丈夫です! 石がちょっと熱かっただけで……!」


 早口になったのは言うまでもない。尊みが高すぎて、体温が逆に下がったかもしれない。

 これはもう、冷却薬草いらない説まである。


 ちなみにそのあと、クラリーチェ様は先生に許可を得て、ちょっと珍しい薬草を「持ち帰ってもよいか」と申請されていた。

 ……やっぱり暑いの苦手なのかな? メモ。


 授業の終わりには、先生が冷たいハーブティーを用意してくださっていた。

 涼しげなグラスに注がれたミントとレモンバームのブレンドティーは、ひと口飲むと口の中がスーッとして、ほてった身体にちょうどいい。


 うん、こういう日が「日日是好日にちにちこれこうじつ」ってやつだよね。



 ◇


 

 現在のリリカのパラメータは、オール70超え!

 必要とされる能力値は平均65+共鳴力60以上なので、現時点では超・余裕!


 ……なんて言ってるけど、これは日々真面目に授業を受け、パラ上昇系アイテムを惜しまず使いまくった成果なのである。


 ――とはいえ、パラメータは100に近づくほど上がりづらくなる。

 だから今このあたりで規定値をしっかり超えておかないと、後で泣くハメになるのですよ……。


 さて、あのお茶会のあと、トリコロール様たちとの交流は順調に進展中。


 御三方とも、以前よりずっと気さくに声をかけてくださるようになり、それだけでなく――

 クラリーチェ様との距離も、ほんのり縮まってきたのだ!


 最近では、今日のようにクラリーチェ様からお声をかけていただくことも!


 もちろん、クラリーチェ様とトリコロール様たちの間にも、以前より親しげな空気が流れるようになった。

 つまり――トリコロール作戦は、大成功の兆しである!


 実際、トリコロール様たちは本当に素敵な人たちだと感じる。よくお話させてもらうようになって、ますますそう思うようになった。


 ゲーム内の記憶では、悪いイメージはなかったけど、クラリーチェ様について「他候補者に高圧的だった」という噂があったから、もしかしてその“噂の元”は御三方なのかも……と、当初は疑ったこともある。


 でも、今なら言える。

 違う、あの人たちじゃないって。


 トリコロール様たちは、クラリーチェ様のことも

「そういう人なのよね」と、自然に受け入れている感じで、特に悪感情を抱いている様子もない。


 むしろ、外から見て“高圧的そうに見えた”だけなんじゃないかと思う。

 最初からクラリーチェ様にはそういうイメージがついてしまっていたから、何かの言動が誤解された可能性が高い。


 お茶会のあとにいただいたお作法の本。

 「お下がり」とのことで、ちょっと子ども向けだったのね。私にとっては、基本の基でとてもありがたかったけれど――


 人によっては「馬鹿にされてる」と受け取ってしまうかもしれない。

 でも、私は違うって思える。仲良くなった今だから、ちゃんと受け取れた。

 そういうちょっとした受け取り方のズレが誤解に繋がっていくのかもなって。


 そして何より、周囲の空気が変わってきたおかげか、

 クラリーチェ様ご本人の雰囲気も、少し柔らかくなってきたような気がするんだよね。


 尊さアップである。


 

 ◇



 夕方、日差しがやや落ち着いてきた頃。日課の採取に励んでおります。


 ……夏になった途端、木の実の種類が変わってたんだよね。

 ゲーム的には「あるある」だけど、現実で見るとちょっと違和感ある。


 植物学で育ててる草花は成長速度も自然なんだけど、こういう一部だけ妙に「システム寄り」だと、ちょっとチグハグに感じてしまう。


 ゲーム世界と現実的な感覚が、パッチワークされてるみたいな……そんな感触。

 ちょっとモヤモヤしながらも、夏の木の実を採取していく。

 まぁ、私の大事なお金ちゃんになってくれるのだから、文句などつけてはいけないか。


 


 はい、やって来ました。ゼム兄さんの露店。

 いつも本当にお世話になっております。


「熱に浮かされる恋もいい、けれど……

 長く続くものは、夏の終わりにも残る香り……

 ――君が、どんな香りを好むのか……気になると言ったら……どうする?」


 親密度上昇の賜物か、セリフがだいぶ深まってきた今日この頃。

 ゼム兄さんは何もつけなくても良い香りしそうなので、その心配は不要ですよ!(適当)


 チャチャッと買取、チャチャッと購入。


 ちなみにこの世界のゼム兄さんの露店には、

 ゲーム内じゃ見たことないアイテムがちらほら並んでいる。

 ……不思議なんだけど、助かってるからあんまり深く考えないことにしてる。


 日差しの熱と疲労を軽減する飴と、

 解熱・冷却効果のある茶葉を詰め合わせた初心者向けお茶セット(レシピ付き)を購入して、本日のお買い物は終了!


「お世話になりすぎて、もうゼム兄さんいないと生きてけないかも私」


 


 推し活と採取、そして買い物。

 今日も、よき日でございました。

 




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