0515 許されぬ恋
「お父さん。
大切な話があるの」
お父さんは読んでいた新聞をその場で閉じ、こちらを向いてくれた。
「なんだい?」
20年間、育ててくれた親への一世一代の告白。
早鐘の様に鳴り響く心臓を宥めながら私は意を決して言った。
「私。レズビアンみたいなの」
「あぁ、そうか」
「…あれ。それだけ??」
「別に馬と恋をしたわけじゃないんだ。別に特別咎める事でもないだろう」
「…馬?なんで馬??」
「お父さんの住んでたところにはお白様って伝承があって、人間の少女が馬に恋をした話があるんだよ。
それに相手が人間なら別に何の問題も無いだろ」
「かるぅ…。娘への対応かるぅう…。
え?何にも思わない訳?孫の顔が見たいとか言ってたじゃん」
「確かに相手が女性だと産めはしないが別に問題ないだろ。
養子でも取ればいいわけだし」
「えぇ…そういう事だったの?
私お父さんと血のつながった子が見たいのかなって思ってたんだけど」
「ん?
あぁ、そう言えばお前と俺は血が繋がってないからな。
お前はお母さんの前の男の子だからお前が生んだとしても血は繋がらないからな」
「うっそぉ…そんな軽いノリで親子の血のつながりが無い事言っちゃうの?」
「そんなモノだよ。
何なら父さんは無精子病だから父さんの直系の子孫は今後一切現れない。
父さんの家系は両親がもういないから父さんが末代なのだ」
「ちょっと待って、20年以上生活して初めてその情報聞いたんだけど」
「そりゃそうだ、この話は言う事が無ければそのまま墓場まで持っていくつもりだったからな。
それにね、真綾。人間の生きた証は血だけじゃない。
生きた環境、知識、考え方。
そう言うのを伝えられればそれでいいんだよ。
だから真綾が誰と結婚しようが問題ない。
問題なのは父さんたちが繋いできた心を次の世代に伝えられない事なんだよ」
父さんはもう話すことが無いのか新聞を開いて読むのを再開する。
そんな父さんの姿がとてもカッコよく見えた。




