0620 長い道のり
延長戦。11分経過
互いに一歩も引かぬ攻防が泥沼化してきたその時、鍔が割れ、止めが入った。
割れた鍔を交換するために一度場外へ。
俺は防具越しに彼から目を離さず鍔を交換した。
10年。
人生の半分を超える長い剣道経験の中で鍔が割れたのは初めてだったし初めて見た。
アキレス腱断絶は2回見ているのを参考にしてもらえればその奇跡的な状況の凄さが分かるだろう。
これはそういう『流れ』だ。
次の一刀で全て決まる。
準備を終え、互いに構える。
「初め!」
審判の掛け声とともに最後の一刀を切り結んだ。
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結果を語ろう。
小手面見せ胴、撃ち落し面からの、反転して相面で撃ち負け。
自身の必殺であった小手面見せ胴の多段フェイント技を見抜かれ、撃ち落し面で反撃されそうになった所をどうにか気合で避け、次の相面にてやや体がブレていた俺が負けた。
完敗。だが、不思議と悔しさは無かった。
アレだ。
我が生涯に一片の悔いなしーーーって奴だ。
中学剣道、最後の試合に負けこそしたが心は鮮やかで凪のように安らいでいた。
ーーー
そこから、数分ほど。俺は竹刀を手に構えていた。
何も無い虚空に向け構えた竹刀。
すっーーーと、視界が広がり、集中が増す。
そして、オーソドックスな中段に構えていた竹刀を上段へと変えた。
中学までは公式ルールで中段しか出来ないが高校では上段が出来るようになる。
また、使っているのは極少数だが二刀流や短刀での剣道もあるにはある。
それに自分はまだ中断を極めきった訳でもない。
ここはあくまでも中間地点。
辞めることも出来るがまだ先は長い。
今までの道。これからの道。
長い長い道のりーーー。
「さて、どうするかな…」
実は今回の作品、作者の体験談です。
あの試合は私のターニングポイントの一つになりました。
対戦相手は幼稚園年少からの付き合いになるライバルと言える存在でした。
三位決定戦で当たったそいつとの試合が私の剣道人生の中で一番の試合だったと思います。
そしてその試合が終わってから剣道主軸だった私の人生が『人生』が主軸になった気がします。
こっぱずかしい言い方になりますが私にとって『剣道』は人生のチュートリアルで、あの中学の試合を終え『ライフストーリー』と言うゲームが始まった感じです。
剣道のレベル上げはチュートリアル中に沢山しましたが対人関係やマナー。ルール。仕組みなんて物のレベルはからっきしで未だに苦労してます。
私にとってあの日、あの一太刀が確かに転換点でした。