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0614 水色キャンディー

「お、お兄さん。横いい?」

「あ、どうぞ」


バーのカウンター席にいると隣に少し年上、30半ばの男性が座った。


男性は荷物を椅子に掛けて「はぁー」と言いながら腰かける。

彼の左手。ブラウンのスーツの裾。薬指の金の指輪。タバコーーーじゃない。


100円ショップに売られているプラスチック製のタバコケース。その中に入っているのは見るからしてタバコじゃない。

手で箱を握っているから何なのか見えないが箱の端に見えるのは


「お兄さん、その手に持ってるのは?」

「ん、これかい?」


彼はケースを開け、中から一本のそれを取り出す。


「一本いるかい?」

「あ、ありがとうございます」


差し出されたのはキャンディーだった。


断る理由は無いので頂き、包みをはがして口に含んだ。


「何故キャンディー?」

「あぁ、妻が妊娠して吸えなくなったからね。

その代わりさ。いつもの」


そう言って彼は店主に酒を催促し、キャンディーをもう一本取り出すと口に含んだ。


「なるほど。ーーーって、こんな場所でお酒何て飲んでていいんですかい?」

「大丈夫、妻から許可はもらっているからね。

それにここは僕の店だからね」

「あ、オーナーさん!?」

「大正解。

君はよくこの店に来てくれるのかな?」

「いえ、今日初めてです。

ちょっと用があって来たので」

「そうかい、どこから来たんだい?」

「××の〇〇って言うんですけど、知ってます?」

「あぁ、良く知ってるよ。

あそこには桜の名所があるだろう」

「そうですね、ウチも近いです」

「実はあの傍に妻が住んでいて、そこで出会ったんだ。」


「へぇ―――」と、相槌を挟んで俺は彼に興味が湧き顔を上げた。


「---って、義兄さん?」

「…佐助君」


互に沈黙---。

あまりの偶然にどちらからともなく笑いが漏れた。


「おぉ、ようこそいらっしゃい!!」

「妊娠おめでとうございます!」

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