0513 魔法にかかった瞬間
「いちにーのさんッ、で魔法をかけるからね。
最後の注意になるけどこの魔法は裕さんの記憶の世界に里奈さんの精神を繋げる魔法。
授業で習ったと思うけど記憶と精神はどっちも繊細でちょっとの刺激や衝撃で人格崩壊が起きて死ぬこともあり得る。
二人とも大丈夫?」
「良いよ。
あの時の真実を全て知れるなら」
「私も。
皆の誤解を解いてもらえるなら」
これから私の記憶に里奈ちゃんを繋げるらしい。
半月前『殺された』ユウト君の最初の目撃者である私の記憶を一番の被害者である美奈ちゃんに確認してもらう。
私。河野裕がシロだとと言う事は自分自身が一番分かっているしそれを里奈ちゃんを通して皆が分かってくれればクラスの皆からかかった私の冤罪が晴れる。
「それじゃあ行くよ。
いちにーのッさんッ!!」
魔法にかかった瞬間、私の意識は暗闇に落ちて行った。
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私。生徒会長、阿山サツキの魔法は失敗した。
学校で発生した不可解殺人事件においてどこに対しても中立の立場であるこの私が事件解決の為に高等記憶操作魔法を使って二人の意識を繋げた結果、影野里奈は死亡した。
私の魔法の失敗は正当な手続きを踏んでいる為罪に問われる事はないようだがそれでも人一人分の命を消してしまった結果に胸が痛む。
「あんまり落ち込まないの、阿山さん」
「はい」
生徒会顧問のリリアン先生は私の前にお茶を置いた。
「所で阿山さん。
今回の殺人事件の犯人は誰だと思う?」
「影野里奈。ですよね」
「えぇ、私もそうだと思うわ。
精神は記憶に干渉できるけど記憶は精神に干渉できない。
影野里奈が積極的に河野裕の記憶を覗こうとしたのは事故に見せかけて自分を不利な立場にする河野裕を殺そうとしたから」
「でしょうね。
そうじゃないと覗く側があんな間抜けに死ぬわけがない」
記憶を弄るというのは脳手術と同じだ。
頭蓋を開き、頭骨の中にある脳みそを確認。もしくは接触する作業で弄っている間は弄られている人間は何もできない。
加害者は消去法で影野里奈である。
また、今回の出来事を受けてお上が学生寮にある影野の自室を調べた結果、影野が犯人だと裏付けられる証拠が見つかった。
つまるところ黒確定。
「で、影野里奈は死んだと思う?」
「…何言ってるんです?
影野里奈は死んだじゃないですか」
「えぇ、影野里奈の肉体はまごう事無き廃人よ。
けれど、河野裕の肉体に影野里奈が入っていたとしたら?」
「…は???」
「昔の魔女は自身の肉体を若返らせるよりも、子供の肉体を乗っ取って、自分の記憶を転写し若さを保っていた。
法律的にも倫理的にもアウトだけれど方法が無い訳じゃない。
魔法式は公開されていないけれど若返りの魔法よりも昔からあるって事は大して難しくはない魔法だって事は想像できるわよね」
「まさか、影野里奈が河野裕の体の中に入っているって事ですか?」
それを聞いた先生はため息を一つ。
「知らないわよ。
そんなの魔法にかかった本人しか分かるわけないじゃない」




