0526 夏休みの終わり
9月1日 18:00
私はクラスの代表として始業式をすっぽかした問題児の生徒の家にやって来た。
既に顔見知りになってしまった家政婦さんに家に入れてもらい彼の部屋へ。
彼は自室の机にプリントやらノートを広げ何かしている。
何かと思い見てみれば夏休みの宿題…。
彼は私に気づいたようだが手を止めずに宿題を続けている。
「あんた、宿題が終わってなかったから学校に来なかったの?」
「いや、元々今日はボイコットする予定だった」
「頭のいいアンタが何で宿題をやってないのよ」
「就業前に拓郎と夏休みに宿題をやらない約束をしたんだ」
「馬鹿なの?
てか逆に何で今宿題をやってるのよ」
「夏休みの宿題の提出は基本始業からの初登校日だ。
麻衣ちゃんと宿題は必ずやるとも約束したんだ」
「…呆れた。
あんた二人との約束を守る為だけに始業式すっ飛ばしたの?」
「もちろん、俺は必ず約束を守る男だからな。
それに今日は大した予定も無いだろう」
「…確かにそうだけど、なら最初から学校に来なさいよ」
「どうでもいい奴が決めたどうでもいい慣習など守る必要は無いだろう。
俺は人と正面からした約束には従うが、誰が決めたかもわからない無意味なルールには従わない主義なんだ」
「呆れた…。
あ。でもそれなら私と約束をすれば毎日学校に来てくれる?」
「約束をすればな。
だが、面白くない約束はしないぞ」
「…私があんたと会いたいからって理由じゃダメ?」
彼の手が少し止まってから再び動き出す。
「ちょっとばかし良いかもと思ってしまったが薄いな。
お前は破天荒な俺の方が好きなんだろう」
「好きとか言うな!別にあんたのことなんて好きじゃないんだから!!キモっ!」
「第三者が見たら誤解を招く発言だぞ」
「…確かに。
気を付けるわ」
言われて理解したが確かにその通りである。
この男は頭が良く、義理堅いが優等生と言う事は無くどちらかと言えば不良だ。
しかし私を含めた色んな人と仲が良く、頭が柔らかく面白いことは率先してやる。
こいつとつるんでいれば楽しいのは確実なのだが恋愛対象には絶対なりたくない。
人の事を理解した上で無礼だし、分かってて空気読まないし何なら率先して破壊してくる。
こいつは一般から大きく離れていて一緒にいるとハラハラさせられて心臓に悪いのだ。
私は委員長と言う立場上こいつと接点を持つ事になったが本来なら一緒に居たくない相手なのだから。
私がそんな事を考えていると彼が立ち上がる。
「よし、終わった」
「お疲れ」
「おい、委員長。
この後暇か?」
「…生憎暇だけど何?」
「いや、中学三年生、人生最後になるだろう夏休みの思い出を作ろうと思ってな」
「…はぁ?
夏休みは昨日終わったわよ」
「登校するまでは夏休みだ。
俺の夏休みはまだ終わってないんだよ」
「何それ、バカじゃないの?」
屁理屈が凄い。
―――と、そこで私は不意に面白い考えを思いついた。
「あ。でもその理屈だとあんた夏休み中に宿題したことにならない?」
彼の顔が歪んだ。