0510 頭の中があなたでいっぱい
「私の事だけを、考えて欲しい」
オレンジ色の間接照明に照らされたほの暗い室内。
柑橘系のアロマの匂いと耳から入ってくる甘い女の囁き。
体に回された腕と後頭部に伸し掛かる柔らかい感触と程よい重さ。
安らぎに満ちた気持ちの中、問いかける。
「…それは構わないんだけど。お腹、空かないの?」
「いいからこのまま」
と、言った直後頭の後ろからグー…とお腹のなる音。
彼女の事を考えるならご飯を作ってあげた方が良いはずだが何故か彼女はこの姿で俺をキッチンに向かわせたくないらしい。
「ほら、疲れたでしょ、寝よ」
「ちょっと早くない?
それにごはんがまだでしょ」
「いいから、私の事だけを考えて」
自分の体に回された手に力が入る。
帰宅してから風呂に直送され、一風呂してからキッチンに向おうとすれば後ろから抱き着かれた上、引きずる様に寝室に連れてかれた。
俺をキッチンに向かわせたくないのだろうか。すると…。
「別に皿を割ったくらいで怒らないよ」
「え!?」
「あ、当たってたんだ」
適当な予測が当たった。
「あてずっぽう?」
「うん。
でも悲しいなー。
また嘘ついたんだ」
体にまかれた腕が強張った。
「ごめん」
「謝んない。
つまらない嘘を隠す癖はいつものことでしょ」
「…ありがとう」
彼女はゆっくりと僕から腕を離したので立ち上がり、彼女の頭を撫でてから片付けの為に部屋を出た。