風莉のふわり異世界旅行(3) VS仮想恋敵?
「ふむ、良かったのか?フウリ嬢が願えば共に行くこともできるが」
「…いいんです。これ以上ここにいるときっと私は帰るに帰れなくなってしまいますから」
「絆を深めすぎるのも考えものというやつか。その割には随分と仲が良かったように見えたが」
「…私って戸籍上は末っ子なので、妹ができたみたいでつい嬉しくなっちゃったんです。実年齢だとしたら、人生4周分くらい年上ですけどね」
「…アヤカシという種族は魔族に似て邪悪な存在、と言っておる者もいたが、どうやらその限りではなさそうだな」
「あまり間違ってないと思います。私のような妖は数少ないですし、ほとんどの妖は言葉を交わすこともできません。基本的には人に害をなす生命体なので、普通は敵対するだけの存在です。それなりの力を持ち始めると私のように人の言葉を話したり、人に化けて街に紛れ込んだりするみたいです。私の場合、人に化けることはできなかったんですけどね」
「魔族にもその生き方を選ぶ者もいる。だが、今は昔と違って人に化ける必要もなくなっているのでな。平和な世の中になったものだ」
「はぁ…領主様、そろそろ自己紹介をなさってください。いつになったら名乗るのですか」
「おお、怖い怖い。そんなにカッカせんくてもいいだろう。まったく…先代剣聖にして現ヴァルナンテ公爵家領主、アルス・ヴァルナンテだ。改めてよろしく頼むぞ、フウリ嬢」
「誠に遺憾ながらこの問題児のお守りをやらされております、専属執事のフォウルと申します。この問題児に振り回されると思いますが、どうかぶん殴ってでもお止めくださいませ」
「おい?」
「陰陽八家が一角、飛風家所属の飛風風莉と申します。まあ、なんというか、頑張ります!」
「フウリ嬢?」
「アルスさん、王都に行くとのことですが、目的は何になるのでしょうか?一応知っておきたいので」
「無視…目的としては勇者一行の1人である我が娘、現剣聖であるルミナリアに会いに行くことだな。勇者アランと聖女リタは各地を飛び回っていてどこにいるかわからんし、聖騎士レイクと賢者ミルム、精霊術師エルミナは別の国にいるし、戦士ガルムはバカンスを満喫しておるからな…消去法で臨時講師をやっとるルミナリアしか残ってなかっt」
「嘘を言わないでください、領主様。他の方にもアポを取れたのにわざわざ取らなかったんでしょう?なんならアラン様とリタ様は王都にいらっしゃるではありませんか。ルミナリアお嬢様にお会いしたかっただけでしょう?」
「そ、そそそそそそんなわけがないだろう?」
「そうでもしないとルミナリアお嬢様に取り合ってもらえないですからね。あーあ、無駄にしつこいせいで嫌われて可哀想に」
「フォウルよ、主に対してそれはないじゃろ…」
「事実しか言っていません、言われたくなければルミナリアお嬢様に対して過保護なのをおやめになってください。そんなんだからゲツヤ殿との婚約の話が来るのがありえないくらい遅かったんでしょう?自業自得でしょう」
「待って」
「お、フウリ嬢、儂の援護を…もっと言ってやれ!」
「アルスさん、ちょっと黙っててください」
「わ、儂の扱い雑ぅ…」
「フォウルさん、もう一回言ってもらえます?」
「自業自得の話ですか?」
「もう少し前です」
「ルミナリアお嬢様に過保護な話ですか?」
「その中間の」
「ゲツヤ殿との婚約の話ですかな?いやー、あれについては驚きました。ですが、とても喜ばしく感じましたよ。このバカ親父以外は」
「婚約についての話、詳しく聞かせてください!」
「近い近い。わか、わかりましたから、圧、圧がすごいです!」
この後フォウルは特にこのことに詳しいわけでもないにも関わらず、風莉からとんでもない質問攻めにあったとか。王都へと向かうこの馬車を護衛していた騎士の1人が言うには、『領主様が1人放置されてた。いい気味だと思った』とのことであり、何故だかかまってもらえなくていじけているアルスの姿が容易に想像できそうである。
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「…アランとかリタに言えよクソジジイ」
「我が愛しの娘よ、ちょっと言い過ぎだ。儂の心が折れてしまう」
「さっさと心折れてここから出ていってくれるなら大歓迎」
「アルス様、話が進まないので私達は退室しますよ」
「なぬ!?嫌じゃ!儂はもっとルミナリアと話したいんじゃ!」
「はいはい、駄々は後でこねましょうね〜」
アルビア王国王都に存在する最大級の魔法剣術学院、クロスエイジ魔法剣術総合学院。その一室にて、風莉は(多分)恋敵であるルミナリアと対面していた。最初はアルスとフォウルもいたがアルスはフォウルに引っ張り出されて強制退室させられていた。
「初めまして。"剣聖"ルミナリア。よろしく」
「陰陽八家が一角、飛風家所属の飛風風莉と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「要件は元いた世界に帰るための相談、でいい?」
「はい。心配している人がいるはずなので」
「1週間経つか経たないかくらいで帰還の準備はできると思う。それまで適当に時間潰してて」
「…あの、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「ん、何?」
「ル、ルミナリアさんが月夜さんの婚約者って本当ですか!?」
「…ん」
ルミナリアは風莉の質問に頬を若干紅潮させながら小さく頷く。なんというか、めちゃくちゃな幸せオーラが溢れ出ている。
「そう…ですよね」
「それが、どうかした?」
「…あの!ルミナリアさんって、その…」
「その?」
「一夫多妻制には賛成ですか!?」
「…なるほど」
「え、えっと?」
「フウリ、一夫多妻制は嫌いじゃない…でも、ゲツヤはあげないよ?」
「っ…」
「フウリ、私から1つ質問。フウリはゲツヤとどういう関係になりたいの?返答によっては態度を考えないと」
ルミナリアから向けられた鋭い眼光と蠱惑的な笑顔に風莉は息を呑む。風莉は獲物が絶対的強者に目をつけられるような根源的恐怖を感じながら、震える身体を抑えてなんとか言葉を吐き出した。
「私は…妖だから人間の恋心の行き先はわからない。でも、私は…月夜さんと家族になりたい、かな?」
「…家族に?なるほど。フウリ、真剣に話を聞いてあげる。だから、あっちの世界でのフウリの状況を教えて」
「は、はい!わかりました、ルミナリアさん」
「ん、私のことは『ルミ姉』と呼ぶように!」
「!?わ、わかりました?です、ルミ姉様?」
「よろしい」
(な、なんで姉様?)
風莉は混乱しながらも、とりあえず自分の置かれた状況を話すことにした。
「まず、私は表面上、飛風家の末っ子で、人間という扱いです。飛風家に伝わる幻影の術で私の耳と尻尾を隠していたんです」
「…後でもふもふしてもいい?」
「か、考えておきますね。続きを話すと、私が飛風家の邸宅…つまり本家にいない時に超級妖、こちらで言うと魔王軍の幹部くらいの強さですね。それの襲撃を受けて、一旦それはその場にいた戦力でなんとかできたそうなんですが…」
「なんとかなったんだ」
「…なんですが、私達陰陽師勢力と現在進行形で敵対している妖術師、縁妖凪勿による襲撃で、完全に危機的状況に陥りまして…」
「ふむふむ」
「なんとかして増援に行くために月夜さんの式神…ルーナさんで伝わりますか?」
「伝わる。クソゲー狼」
「そ、そうなんですね。ルーナさんにお願いしてなんとか連れていってもらったんですけど、凪勿と対面したら急に不快感がして…それと同時に気づいたらこの世界に来ていました。最後にルーナさんが『ごめんなさい』と言っていたのが気がかりですが…ちなみに現場に連れて行ってもらう契約で私は妖であることを隠すことを禁じられて、如何なる方法であっても妖であることはもう隠せないらしいです」
「…もし妖であることがバレたら、どうなる?」
「超級妖と凪勿の襲撃で戦力が減ったであろうことによる地位の低下によって私という存在を守りきれなくなり、最悪の場合…私は処刑されるでしょうね。人に紛れ込んだ、妖の末路として」
「処刑を避けるには?」
「妖としての力を生かして逃亡し、隠れて生活するか、飛風家とは別の家に保護されるかの2択です。他の家の保護だと西日本の家…つまり、水野、火戸、板倉、樹林家辺りに保護されれば一生モルモット生活か陰陽師達のストレスを解消するためのサンドバッグもしくは自主規制扱いでしょうね」
「…わかった。ちょっと待って」
ルミナリアはそう言うと机から白い紙を取り出すと羽ペンを動かして何やら書き始めた。
「何を書いてるんですか?」
「手紙。フウリに持たせるから、ゲツヤに渡して。勝手に中身は見ちゃダメだよ」
「そんな失礼なことはしませんよ」
「ニホンジン?だっけ、は確か礼儀を重んじる人種だったよね」
「一般人のほとんどはそうですね。陰陽師は職業柄粗暴な人も多いので絶対とは言えませんが」
ルミナリアは手紙を封筒に入れて蝋で封をし、それを風莉に差し出しながら言った。
「ふふっ、ねぇフウリ、1年も経たないうちにだけど、多分フウリは本当の意味で私の妹になると思うよ」
「え、えぇ?」
ルミナリアの楽しげなその笑顔は、風莉の中で強く印象に残ったのだった。




