風莉のふわり異世界旅行(2) 猫と狼と猫と
あけおめことよろやで〜
「…もう一度ここを訪れるまでが早いよ、君」
「あっちから来られたら避ける手段がないじゃないですか!」
「それはそうだけど…ね?あんなボッコボコにしなくてもいいと思うけど…私もキュッとなったよ」
「襲いかかってきた方が悪いので知りません」
「まあそれはそうなんだけどね?もう少し節度を持ってほしいんだ。まあ渡し忘れてたものもあったからいいんだけどさ」
衛兵と別れて30分も経たずに、風莉は再び詰所に来ていた。詰所を出て、その後何が起こったのかは、少し時を遡る。
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「えっと〜?ここを右折して、3つ先の交差点を左折…でいいのかな?ていうかすごいなー、道がすごい複雑だ」
もう何回目かもわからない曲がり角で風莉はボソリと呟いた。大通りからは離れたというのにそれなりに活気があり、ライトノベル等でよく見るスラムなどはなさそうな雰囲気だった。
「ここは真っ直ぐ進んで…次で左折かな?」
風莉が道を左折しようとしたところでちょうど角から出てきた男とぶつかりそうになってしまい、衝突を回避した後に「すみません」と小さく詫びてから通り過ぎようとした瞬間、肩を掴まれた。
「おいおい、あんた見ない顔だな。どうだ?俺と酒でも飲まねえか?」
「え?お断りします」
いきなり酒飲みに誘われたが、風莉は妖故に見た目通りの年齢ではなく、未成年で酒が飲めないとかではないのだが、普通に男の視線がとても気持ち悪かったためはっきり断った。
(顔と胸を交互に見て…気持ち悪い視線ですね)
風莉は男に向ける視線を強め、肩を掴む手を払った。その行動に男はイラついたような表情をする。
「おい、この俺の誘いを断るのがどういうことかわかってんのか?B級冒険者のオーグ様だぞ」
「知りませんよ。だからなんなんです?」
風莉は袴の袖に隠している短刀の感触を確認しつつ、男を警戒する。すると、
「…女だからって許されると思うなよ?そうだなぁ…顔もいいし、胸も十分。適度にボコボコにして俺がお前で楽しんだ後は奴隷商行きか?」
男が気持ち悪い笑みを浮かべて舌舐めずりをして風莉を見つめる。それに風莉は鳥肌が立った。
(気持ち悪っ!今すぐにでもぶっ飛ばしたいけど…我慢我慢。一応通行人はいるし、こいつから手を出せば正当防衛が成立する)
「…気持ち悪い。これだから程度の低い男は嫌いなんですよ」
「あ?んだと…!」
「その通りでしょう?外見以外で魅力を判断できず、脳みそは下半身に支配されている。それどころか、脅さなければまともに女を口説くことすらできないじゃないですか」
「てめぇ…黙ってりゃいい気になりやがって!」
男は額に青筋を浮かべ、突然腰に差している剣を一気に引き抜き、それに周囲の通行人が悲鳴を上げた。
「腕の1本や2本、覚悟しやがれ!」
男は剣を振るって風莉に攻撃するが、風莉はそれを身体を少し横にずらすことで回避する。そして、男の戦闘能力を冷静に分析する。
(速度はそこそこ、力だけなら素の私と同程度。でも、技術は三流未満だね)
風莉は男が振るった二撃目をひらりとかわし、男の鳩尾を肘で撃ち抜く。男は軽く吹っ飛んだが、そこに容赦なく追撃を行い、股間を蹴り上げた。
男は声にならない悲鳴を上げてその場で股間を抑えて蹲り、ピクピクと痙攣する。その光景に見ていた通行人は「うわぁ…」という顔をする女性と股間を手で覆って守るようにしてぴょんぴょん跳ねる男性というある種の地獄のような様相を呈していた。
「はあ…色々言ってた割に大したことないじゃん」
…補足すると、風莉をナンパした自称・B級冒険者君は別に弱くはない。むしろ風莉のいた元の環境を考えれば上澄みに入るだろう。ただ、風莉の考える強い男の基準の最低値が特級を単独で討伐した羽瀬や、王級を単独で討伐した朝陽だったりするせいでハードルが通天閣くらい高くなっているのだ。一応B級冒険者は特級妖くらいの強さであれば単独で討伐できずとも渡り合うことはできるのだが、王級の妖である風莉からすれば別に大したことでもないのだ。…彼女が愛している男が未だにその底を見せていないせいでもあるのかもしれないが。
風莉はため息を吐きながら絡まれたら来いと言われていたため詰所へ向けて来た道を戻ろうとする。すると、脇道から各々さまざまな武器を持った筋骨隆々の男達が沢山出てきた。
「オーグの兄貴をやられたならただじゃ返してやれねえなぁ…殺るぞ野郎ども!死に晒せやぁぁぁ!」
「…めんどくさ」
その後は言わずもがな、股間を抑えて痙攣する男たちの死体が道に積み上がったそうな。この一件をきっかけに風莉は『象徴の破壊者』という二つ名がつけられるのだが、このことを風莉が知るのはもう少し先のお話である。
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風莉にお金を渡し、衛兵はこう呟いた。
「宿までは私が護衛して行くよ…これ以上問題を起こされたら堪らないからね」
「えっ、私のせいじゃない…」
「そうだよ?そうなんだけどね?冒険者とかチンピラってバカだから復讐とか言ってまた絡んでくるから…はぁ。衛兵が護衛にいれば流石に手は出してこない…とは思うんで」
「な、なんかご迷惑おかけします」
「全然、仕事なので…領主様からボーナスを出させるので問題ないです」
「羽瀬兄様と同じ苦労人の気配を感じます…」
「その…ハゼ?という方は私と気が合いそうですね…中間管理職ですか?」
「お祖父様に振り回されてる次期当主です」
「…なんだろう、そのお祖父様は自由奔放だったりしますか?」
「うーん…割と自由にしてはいますけど、やることはやってますね。羽瀬兄様が最も苦労してるのはお祖父様の早く婚約しろよアピールが激しすぎるところでしょうかね?まあ私にも来るんですけど」
「なんだろう、私の生き写しか何かですかね…」
「なんか大変そうな立場ですね…」
「そうですよ大変なんですよなので仕事増やさないでもらえます?」
「ぜ、善処します」
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「やっぱり絡んできましたね…衛兵が目に入らないのでしょうか」
「いや、あの…衛兵さん、貴方私のこと言えないくらいボコボコにしてましたけど…」
道には風莉が象徴を破壊した男達の2倍くらいの数の冒険者がのされて転がっていた。ちなみにこれをやったのは全部衛兵である。
「私は衛兵なのでいいんです。というか護衛中に襲われたのを撃退しただけなので問題ありません」
「そうなんだろうけど…ね?」
「こういうのは気にするだけ無駄です未来のことは未来の私に考えてもらいます」
「未来の衛兵さんがブチギレてる未来しか見えないんですけど」
「安心してください、私にも同じ未来が見えています」
「安心って言葉を辞書で引いてきてください」
「お断りさせていただきます。…見えてきましたね。あそこが君が宿泊する宿、『黒猫狼屋』だよ。くれぐれも他の宿泊客と揉め事を起こさないように」
「猫なんだか狼なんだか…揉め事についてはわかりました。できる限り穏便にしますね。これでもあっちでの仕事は妖討伐やその補佐以外に武器や霊器の売買で交渉役をしていたんですよ」
「それ関係あるんですかね…?では、私の仕事はここまでなので。次会う時は檻の中、なんてことがないように祈ります」
「はい。ここまでの道案内と護衛、感謝します」
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「普通に入っていけばいいのかな?よっ、と…」
風莉が扉を開けて中に入ると、その瞬間、顔の真横に包丁が突き刺さった。あまりの速さで飛んできたため、風莉は少し顔を青くする。すると、厨房の方から黒髪猫耳の少女が涙目で飛び出してきた。
「ご、ごごごごごごめんなさいぃぃぃぃいいい!だ、大丈夫でしたかぁ!?」
「だ、大丈夫ですよ…この通り、生きてます…」
「…あれ?ウチの宿泊客に貴女みたいな人いたっけ?うーん…?」
「事前連絡あったでしょ?その人は異世界人でちょっとの間ここに泊まってくって話だったじゃん」
目の前で可愛らしく首を傾げている少女になんて説明するべきか悩んでいると、奥の方から白髪で狼耳の少女が出てきた。
「あっ、リアちゃん」
「ミウ、お客さんに色々説明しなきゃでしょ」
「そうでした!『黒猫狼屋』にようこそ!あたしはミウ!見ての通り猫獣人だよ!こっちは狼獣人のリアちゃん!ウチの宿での説明なんだけど〜…なんだっけ?」
「あー…ごめんなさいお客さん、ミウは結構抜けてるところがあるんで…私から続きを説明しますね。ミウ、お料理の続き行ってきて」
「はーい!」
ミウは元気よく返事をするとそのままビューンと走って厨房へと消えていった。
「リアって言います。よろしくお願いします」
「私は風莉。よろしくね」
「フウリさん、よろしくお願いします。えっと、続きの説明をするとですね…」
一つ、他の宿泊客と揉め事を起こすべからず。全員仲良くせよ。
二つ、ご飯は残すべからず。ご飯は注文制で自分で調整できるため、自分の腹の限界を見極めておくように。
三つ、部屋は汚すべからず。汚してしまった場合はできる限り自分で綺麗にせよ。汚れが落とせなかった時は管理室のリアに『直接』お伝えください。
四つ、共用スペースでは他人の迷惑になる行動をするべからず。場合によっては問答無用で叩き出します。
「これらが主なルールですね。大体これを守っていれば快適にお過ごしいただけるかと。それと、お手洗いがあっちの方で、赤い看板が置いてある方が女性用です。お風呂については2日に1回で、宿の裏手にあります。赤い暖簾がかかっている方が女風呂になりますね。たまに覗こうとする不埒な輩がいるので見つけたら容赦なくぶっ飛ばしていただいて構いません」
「なるほど、大体わかりました。なんというか、大体当たり前のことですね」
「この『当たり前』すら守れない人がいるからルールを作ったんですけどね…冒険者の方はやはりそういった人が多いので」
リアは「はぁぁ…」とため息を吐いて肩を落とす。冒険者と言われると風莉にも覚えがある。というかついさっきの出来事だ。
「冒険者ならさっき絡まれましたね…対して強くもなかったので適当にあしらいましたけど」
「あちゃー…大変ですね、フウリさんも。ミウも私も買い出しの時とかに絡まれがちなので暇があるお客さんに一緒に来てもらって回避したりしてますね。やっぱり大人数は狙われにくいので」
「私も一回絡まれた後は衛兵さんと一緒にこちらまできましたね。…また絡まれましたけど」
「あはは、衛兵がいても絡みに行くなんて、それなりにランクが高い冒険者しかしませんよ〜。それこれB級以上とか…」
「B級冒険者のオーグって名乗ってましたね」
「……はぇ?」
リアは風莉の言葉を聞いて固まった。
「あれ?リアさん?だ、大丈夫ですか?」
リアは口が半開きの状態でポケ〜っとしており、風莉が目の前で手を振ってもまるで反応がなかった。息はしているみたいなので、生きているなら大丈夫だろう。
「うーん、どうしたものか…」
その時、再び厨房から包丁が飛んできた。今度は誰にも当たらない軌道じゃない。そのまま飛んで行けば包丁が突き刺さるのは…リアだ。
「っ!危ない!」
風莉は咄嗟にリアと包丁の間に手を差し込んで包丁がリアに刺さるのを防ぐ。代わりに包丁は風莉の手のひらを貫通し、血が地面に滴っていた。それを機にリアが再起動する。
「ふ、フウリさん、血が!血が!」
「大丈夫、ですから…落ち着いて」
酷く慌てるリアを包丁の刺さっていない左手で宥める。すると今度は厨房から大慌てでミウが出てきた。
「だ、大丈夫でしたかぁ!?あ…血、血が…」
「2人共、大丈夫なのでそこまで慌てないで。私は2人が思ってる獣人とは違うから」
そう言いながら風莉は手から包丁を引き抜く。先ほどよりも多く血が流れ、床を汚していく。
「フウリさん…」
リアが今にも泣きそうな顔で風莉を見る。風莉は自分の血で汚れた包丁を横の机の上に置くと、左手で優しく頭を撫でる。
「私は風莉。そう名乗ったよね?」
「は、はい」
「私のいた世界に、獣人なんて種族はどこにも存在しない。私は人間に害を及ぼす妖に含まれる。真の意味で風莉なんていう名前の人間はどこにも存在しない。私がたまたまお祖父様に拾われて、『飛風風莉』として生きていくことが許されるその瞬間まで、私は名もなく、ただ彷徨っていることしかできなかった。妖として、それなりの力を持っていたせいで、人間社会に紛れ込むことも難しかった。だって、一般の人間には存在しない身体的特徴、異様な回復能力、驚異的な身体能力があったから。その証拠に…ほら」
ついさっきまで血が溢れていた風莉の右手だが、その血はすでに止まり、穴もほとんど塞がっていた。
「すぐに治る。痛みがあるだけで大した怪我にならないから」
風莉がそう言っている間に手に空いた穴は完全に塞がり、それと同時に床や包丁を濡らしていた赤い血が白い煙となって蒸発した。
「この通り、私は獣人とはかけ離れた生命体だから。どちらかと言えば獣人よりもこちらの世界で言う『魔族』に近い。お祖父様にはよく、こんなことを言うなと叱られるんだけど…私は自分がこの世で最も嫌い。人間じゃないくせに…妖としての特徴も、力も隠さなきゃ生きていけないくせに…人間に害を為す妖のくせに…相当に充実した生活をして、同じ妖を陰陽師として狩って…偽りで形取られた自分という調子の良すぎる生命体がこの世で最も…嫌い」
風莉は一般の人間とはかけ離れた年を生き続けている。それ相応の達観した目の色というか、雰囲気を抱えている。普段は隠しているそれを、今は包み隠さず曝け出す。元の世界では親しい者にも、さして親しくない者にも見せることはできない、独白。それを聞いて、リアは言った。
「フウリさんは、私を殺しますか?」
風莉とミウは同時にギョッとする。あまりにも突拍子のない質問だ。風莉の回答は当然、
「殺すわけない。理由がないから」
「じゃあ、そういうことですよ」
「「???」」
風莉の回答に対するリアの言葉に、風莉もミウも混乱する。何を言いたいのか、イマイチわからなかった。
「フウリさんは立派です。だって、普通の人なら運良く気分のいい生活を手に入れて喜んで…それで終わりです。そこから自分にその資格があるか考えられるのはごく一部の人だけですよ。それに…こっちではもう、隠さなくていいのでしょう?アヤカシという種族であることを」
「そうだけど、何かしらの方法で帰るんでしょう?でも私はこの耳や尻尾を隠す幻術を使うことをここに来る前に封じられた。もう、『飛風風莉』として生きることはできない。最後の恩返しだけは、為すことはできたけど」
「…フウリさん。これだけは言わせてください。フウリさんは私の命の恩人になったんです。フウリさんが自分のことが嫌いでも…私はフウリさんのこと、嫌いになんてならないですから。あとミウは二度と厨房には入らせません」
「…ありがとう、リアさん」
「待って?私もう料理できないの?」
無視。
「私のことはさん付けじゃなくてちゃん、でお願いします、フウリさん。ついででミウも」
「あたしはついでなの!?リアちゃんの付属品じゃないんだよ!?」
無視無視。
「…ありがとう、リアちゃん、ミウちゃん」
「…はい。どういたしまして」
「ねえねえ無視しないでぇぇぇええ!んみぃぃぃぃぃいいいい!」
**********
「フウリお姉ちゃん!一緒にお風呂行こ〜!」
「はいはい」
「フウリ姉さん、ごめんなさい…ミウがはしゃいじゃって。…私もご一緒してもいいですか?」
「いいよ、おいで」
「えへへ、リアちゃんも一緒〜」
そこから半日足らずで、風莉はリアとミウの2人にえらく懐かれていた。リアは言わずもがな、ミウは料理中に包丁がぶっ飛んでいく原因を修正しつつ、色々な料理を教えていたら普通に懐かれたのだ。元々人懐っこい性格ではあるものの、想像以上に懐いていた。
「フウリお姉ちゃん、お背中流してもいい〜?」
「わ、私も!や、やりたいです…」
「2人でやればいいんじゃないかな。洗いっこだよ」
飛風風莉、ちびっ子を世話する才あり。飛風家では末っ子扱いだったため発揮されなかったが、おそらく風莉には小さい子をあやすお姉さんの才能があるだろう。
3人でお互いを洗い合い、ちゃんと流した後は3人でお湯に浸かる。風莉を挟んで左にミウ、右にリアがいる形だ。2人共めちゃくちゃ風莉にベッタリのため姉妹と言われてもあまり違和感はないだろう。談笑しているとこちらを覗こうとする男の気配があったため、上の方から顔を出す直前で風莉は風の術で掴んで地面に叩きつけた。盛大に叩きつけられたため『バチィン!』と大きな音が鳴ったため男は慌てて走ってその場から逃走しようとしたところを何人もの人間からバッチリ見られ、その後退去を拒んだため、風莉の風の術による強制退去の刑をしっかり喰らい、追い出されたのだった。
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あれから3日が経ち、『黒猫狼屋』の前に豪華な馬車が一台停まっていた。
「い、いらっしゃいませ、領主様」
「うむ。言いつけ通り、フウリという名の少女以外はいない状態になっているようだな。キチンと補填は出そう。次の客に困らんよう宣伝もするよう取り計らっておく。ルーク」
「はっ」
「経理部にそのように伝えよ。正式な契約書も持ってこい」
「承知しました」
「りょ、領主様、フウリ姉さんは大丈夫なんですよね?」
「ん?ああ、別に取って食べたりはせん。儂の仕事は彼女をルミナリアの元まで送り届けることじゃからの。どれ、フウリ殿を連れてきてくれるか?」
「しょ、承知しました」
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「フウリ姉さん、領主様が来てます。王都まで行くみたいですよ」
「!わかった。ありがとう、リアちゃん」
「う、うん…」
「えー!フウリお姉ちゃん行っちゃうの!?さーみーしーいー!」
「…ごめんねミウちゃん。私も帰らないと。一応心配してくれる人があっちにもいるから」
「むー!もっと一緒にいたいー!」
「フウリ姉さん、私ももっと一緒にいたい、です」
「…2人は『黒猫狼屋』の経営者でしょ?経営者なしじゃ、この宿は機能しない。お金も入ってこないよ?」
「ううーーー!」
「…お、お金の蓄えはたくさんあるんです!だ、だからフウリ姉さんと一緒に行きたい…です!」
「私に決められることじゃないからさ。ごめん。きっと、また会いに来るから」
「本当に?」
「本当だよ」
「…ほんとのほんと?」
「2人がちゃんとこの『黒猫狼屋』を保っていれば、絶対にまた会えるから」
「約束、だからね!」
「…うん」
風莉はミウとリアの頭を優しく撫でる。ついでに耳をモフるのも忘れずに。どうやら獣人達の間では耳を触るという行動は家族としての親愛の証らしく、風莉はたびたびミウとリアからせがまれていた。最後に2人をギュッと抱きしめてあげてから立ち上がり、袴の袖から飛風家の『家族』としての印として渡されていた綺麗な彫刻が鞘に刻まれた短刀をリアに手渡す。
「…これ何?」
「私から贈る、家族の証だよ。絶対、無くしちゃダメだからね。もしもの時は、きっと助けになってくれるよ」
「…わかった、大事にする」
「私は?私には?」
「ミウちゃんには…」
風莉は自分の髪につけていた髪飾りを外し、そのままミウの頭につけた。
「ちゃんと大切にするんだよ」
「うん!」
「それじゃあ…行ってくるよ。またね、ミウちゃん、リアちゃん」
風莉は笑顔で手を振ってその場を離れる。ミウとリアはぎこちない笑顔で手を振って見送る。客人でもなんでもないミウとリアは貴族である領主の前にそう何度も行かないとのことだ。
ミウもリアも風莉がいなくなるのは悲しいし、寂しい。でも、ここで止まり続けるわけにはいかない。『絶対』と言い切った風莉の言葉を胸に、『黒猫狼屋』を存続させて、帰ってくる場所を残し続けるのだから。
50話目ですね!記念なんてものはありません。あるわけないです。あると思いましたか?少なくとも僕は記念なんてもの忘れていたのでありません。




